★第27話 (16/20)
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黄龍の背中にしがみついていたのは女だった。ジーンズとオフタートルのニット姿。丈の短いジャケットは前を開けたままだ。小さめだが形のよいヒップの丸みや、細肩の割には豊かな胸、華奢なウエストのくびれ。そんなカーブが目に飛び込んでくる。ヘルメットを取るとアップにしていた髪が乱れて、色白の顔の回りをふわふわと縁取った。
「‥‥星加‥‥博士‥‥?」
早見は目をぱちくりした。目の前にいるのはOZの科学者の星加有望である。どう考えても場違いだ。それにこの服装。白衣かスーツ姿しか見たことがなかったので、えらく新鮮な印象だった。
「だいじょぶだった、有望さん?」
「え‥‥ええ」
「無理すんなよ。ヤバくなったらすぐ逃げなよ」
「ええ。みんなこそ頑張ってね」
星加有望に優しい調子で、しかも馴れ馴れしく名前で呼びかける黄龍の様子に、早見は思わず唇を尖らせた。と、いきなり長身がこちらに向き直ったので、慌てて顔を取り繕う。
「早見さんよ。ワリーけど、この人頼む」
「まかせろってんだ。ほら、おめーは早く行けっての」
早見の物言いに黄龍は唇の片端で微かに笑んだ。有望の顔を見てかるく頷いてみせると、踵を返して走り出す。見送った背中が金色の光に包まれるとほぼ同時に、その長い腕が優美にしない、円盤状のものを放った。がきんっと音を響かせて、円盤は空中で大きなカマのような物を弾いた。危うくグリーンを薙ぎ倒そうとしていた怪人の武器。黄龍瑛那がどんな修練でこの角度とタイミングを掴んだか、早見は知らない。
右のホーンブーメランが叩き落とされるより早く、マルキクワンガーは頭部を大きく一振りしていた。残った左の角が振り出され、横から斬りかかろうとしてた赤星を一直線に襲った。
「うわっ‥‥!」
赤星が咄嗟にブレードを身体に沿わせる。ブーメランのぎざぎざのエッジとブレードが、がきりと噛み合った。赤星はブーメランのモーメントを少しだけ押さえ込み、あとは無理せず弧にそって解き放つ。スピードを殺されたブーメランは緩やかに主の元へ舞い戻ろうとした。
「イエロー!」
「クラッシュローリングシュート!!」
完璧なリリースだった。イエロースーツから貴重なリーブエネルギーを受け取ったチャクラムは、地面を舐めるように飛んだ。ほとんど垂直に舞い上がると、回転するブーメランのど真ん中、最も跳ね返されにくい部分に命中する。
雷が落ちる時のようなかん高い破壊音とともに、チャクラムは爆発した。中央部の1/3を失ったブーメランは二分され、ぶすぶすと煙をあげて地に落ちた。
「オーケー! 残りもまかせな、レッド!」
残りのチャクラムを握りしめた黄龍が怒鳴る。対峙するマルキクワンガーの頭部には既に右の角が戻っていた。
マルキガイナスの両肩から砲口が火を噴く。輝と瑠衣は左右に分かれて飛び退いた。直撃を受けたベンチが木っ端微塵になり、背後の大きな灌木が吹き飛ばされた。
「この‥‥っ」
「だめだっ、ピンク!」
リーブラスターを構えた瑠衣を輝が慌てて止めた。
マルキガイナスにリーブラスターを使っても跳ね返される。体表面をいきなり鏡面化したり液状化させたりして、攻撃を跳ね返したり吸収したりするのだ。5ヶ月前の映像がまさに昨日のことのように鮮やかに輝の脳裏に蘇っている。
「きゃあっ!」
マルキガイナスは一瞬動きを止めた瑠衣めがけて次の火線を放つ。直撃はかろうじて避けたものの、すぐ脇に着弾したエネルギー弾の爆風に瑠衣が吹き飛ばされた。輝がぱっと駆け寄った。
「ごめん! だいじょぶっ?」
「う、うん」
「あいつ、いきなり鏡みたいになるんだ。ブラスターじゃ跳ね返される!」
「じゃあ、これなら?」
瑠衣がすっとマジカルスティックを構えた。
「あ、もしかして効くかも。発射のちょっと前に間があるのわかってるよねっ?」
「うん!」
「じゃあ、いっくよーっ!」
小柄なグリーンの躯が、まるでゴムまりのようにたんっと地を蹴った。きまぐれにジグザグにマルキガイナスに向かって突進する。マルキガイナスはゆらゆらと左右に振れてねらいを定めることができない。瑠衣は完全に輝の陰に入っている。
輝は怪人の隙をついて高く飛び上がった。銃口はそれを追うが明らかに遅い。マルキガイナスの動き自体が少しぎこちなくなってきていた。輝はあえてトンファーを1本だけ握りしめ、マルキガイナスの頭上を前転しながら飛び越えた。
「スパークリング・クレッセント!」
リーブ粒子に覆われて破壊力を増した三日月のエッジがマルキガイナスの左肩と銃のつなぎ目に入る。マルキガイナスは思わず小柄な敵を捉えようと手を伸ばした。その空いた左脇に瑠衣が飛び込んだ。
「マジカルスティック!」
最高出力にしたマジカルスティックからマルキガイナスに強烈な電撃が流し込まれる。その瞬間、マルキガイナスの巨体がびくりと固まった。が、マルキガイナスは大きく腕を払う。瑠衣が慌てて離脱した。
「ダメなの!?」
「いや、効いてるよ! あとはタイミングだけだ!」
「シェロプ!」
マルキガイナスに指示を出した直後、シェロプは無礼にも自分の名を呼ばれて振り向いた。剣を抜き放ったレッドリーブスが立っていた。
「もう、無駄だぜ、シェロプ! やつら人形の動きは見切った! 俺たちには通用しねえ。死んだ怪人のカッコはしてるが、やつらどうせロボットなんだろ?」
「なんだと?」
「‥‥リーブロボをずいぶんな晒し者にしてくれたな。ブラックインパルスも‥‥不愉快なやり方で利用しやがって‥‥。俺は‥‥てめえのやり方が大っ嫌いだ!」
「‥‥卑賤な人間が、この私を云々言うなど、この身の程知らずが」
「てめえを倒す。覚悟しろ!」
シェロプがレッドに手一杯になったせいか怪人達の動きは少し単調になってきた。それでもグリーンやピンクは爆発に呑まれそうになったり、敵の強力な腕で殴り飛ばされていたし、レッドや黄龍瑛那も、敵のサーベルやブーメランをその身体に何度も受けていた。あのカラフルなスーツは防護力が高いのだとわかってはいても、相手が殺気を持っているのは確かなわけで、見ている早見や田口の顔も引きつってくる。
早見と田口は有望を挟むようにして潅木の陰から戦闘の様子を見ていた。早見はちらりと有望の顔を盗み見る。冷静なイメージばかりが先に立つ女科学者も、両手を胸の前で堅く握りあわせ、青ざめた顔をしている。浅い呼吸がかすかに震えていて緊張しているのがよくわかった。研究室で戦闘の解析などはしているのだろうが、こんな現場にいたら怖くても当然だろう。
しかし、何かデータでも集めに来たのかと思ったがそんな素振りも見せない。いったいなんの目的でここに来たのか。どちらにしろ、何かちょっと話しかけてて、気持ちをやわらげてやらないと‥‥と早見が思った時だった。
「えーと‥‥いまさらなんスけど、ほしか、博士でよろしいッスか?」
田口が抑えた声で有望に話しかけた。
「は、はい。あの‥‥」
「自分は特警の田口了ッス。よろしくお願いするス」
「OZの星加有望です。こちらこそ‥‥」
「あっ あの、本官は‥‥っ」
慌てて割り込んだ早見に有望が控えめな調子で言った。少し緊張が解けてきたようだった。
「早見さん‥‥ですよね? お怪我はありませんでした?」
「え‥‥。い、いえ、もう、こんなの、ぜんぜん!」
早見は右手を大きく振り回そうとしたが、田口が後ろからその手をぱっと押さえ、早見は思わず田口を睨んだ。しかし有望の整った顔には小さな笑顔が浮かび、早見はまたぞろ現場に居ることを忘れそうになった。で、急いで取り繕うように聞いた。
「‥‥それより、なんでこんなヤバ‥‥いえ、危険なところに?」
「ガーディレヴィンの最終チェック、どうしても黒羽君が、あの名パイロットのカンが必要なんです。だから‥‥」
「だから?」
「私なら動かせるんです。メンテナンス上どうしても必要だから」
有望はジャケットの左袖のあたりをまさぐり、時計にしては大きすぎる機械を引っ張り上げた。手首に巻いていたのに緩くて袖の中に落ち込んでいたようだ。それは黒羽のリーブレスだった。
「黒羽君が間に合わなかったら、私がこれを使います」
早見と田口とて、これが強化スーツを纏うための道具であることを知っている。特警の二人の刑事は、びっくり眼を見開いて、黒羽のリーブレスと有望の顔を見比べた。
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