★第27話 (17/20)
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馴染みの昆虫に酷似した姿が故に、2mを越すマルキクワンガー・ゴルリンの姿は余計に不気味だった。それが操る弓形のブーメランは、その大きさからは信じられないことに横から縦、縦から横へと変化する。最初の投擲を避けても復路がどう来るか、読むのが難しかった。
得物を一つ叩き落とされてしまったマルキクワンガーは、ブーメランを投げつけると同時に疾風のように飛び込んで来た。チャクラムのタイミングを図ろうとしていた黄龍は避けきれず、細いのに異様に強力な両腕に頸部を掴まれていた。
「ぐ‥‥っ」
思わず喉元にあがりかけた両手にリーブラスターを握りしめると、息が止まるのも構わずに銃口を相手に向けた。このまま背中からツノで串刺しなんぞごめんだ。引き金を引き絞ると、至近距離の反動も手伝って黄龍は乱暴に解放された。
「‥‥が、ほ‥‥っ」
うずくまってなんとか呼吸を取り戻す。顔を上げると仰向けに倒れた怪人は既に起きあがっており、節のある腕でキャッチしたばかりの自らのツノを黄龍に向けて振り上げていた。
「リーブラスターっ!」
よく通る声が響き、マルキクワンガーの身体でバチバチとエネルギーが炸裂した。ノーマルのリーブラスターは以前だって効かなかった。その上、今の輝の位置ではやや遠い。それでも注意を引きつけられればそれで良かった。
マルキクワンガーは横やりを入れてきた小さめの標的に向かってブーメランを投げつけた。その時にはもう黄龍の体勢は万全だった。長い足が数歩地面を蹴ると、チャクラムはあまりに鋭く空を切った‥‥。
細身で洒落た体裁の剣のくせに、それは打ち下ろされたブレードをしっかりと受け止めていた。キザな気取り屋に見えても、スパイダルの魔神将軍は人間にはあり得ない力を持っていた。赤星はブレードを押し込むと見せていきなり柄から両手を放した。思わず前に泳いだシェロプの身体にそのまま左の膝を叩き込み、連続して右の拳をぶち込む。相手が後ろによろめいた隙にブレードを拾い直すと、艶やかな紺色の軍服を薙ぎ払った。
だが予想した手応えは無い。シェロプの姿は一瞬かき消えて、ずっと後方に現れた。
「野郎っ」
罵声と共に赤星がそちらに走り出す。だが、瑠衣の呑み込んだ悲鳴に弾けるように向き直った。
マルキガイナス・ゴルリンは大きな火砲を担いだ不自然なバランスで敏捷に立ち回る。それは驚異的な筋力のなせる技なのだろう。それでもマジカルスティックのダメージが効いているのかその動きは少しずつ緩慢になってきていたし、トンファーブレードで接続部を破壊された左の火砲は完全に沈黙していた。
輝が黄龍のフォローに回ったのは見えていたが、瑠衣はそのまま怪物に向かって飛び込んでいった。と、マルキガイナスがいきなり左肩の砲身を掴んで外し、ぶんっと振り回す。とっさに両腕でガードしたものの、瑠衣は重い金属筒で横殴りにされて吹っ飛び、立木に激突した。くらりとゆらいだ視界がはっきりした時、瑠衣の正面に大きな砲口がぱくりと口を開けていた。
思わず目を閉じた。しかし重い射出音が響いてもなんの衝撃も襲って来ない。目を開けると赤星が両手で砲身を押し上げるようにしていた。タッチの差で弾道を逸らしたのだった。だが次の瞬間、がら空きの赤いボディに金属筒が思いっきり叩き込まれ、赤星の身体が打ち飛ばされた。
倒れ込んだ赤星はよろりと立ち上がりかけたが、すぐに頽れて這い蹲った。
「レッド!」
瑠衣は驚いた。駆け寄ろうとしたが赤星が強い調子で怒鳴り返した。
「来んな!」
「マルキガイナス! レッドリーブスを殺せ!」
シェロプの勝ち誇ったような声が聞こえる。俯き加減の赤星はやっとのように上半身を上げて言った。
「離れるんだ!」
瑠衣は一瞬立ちつくし、だが言われた通りに向きを変えた。赤星の声には危機感が無かった。
マルキガイナスが照準を合わせ、爆発物を射出するまでの僅かな間。赤星がいきなりすっくと仁王立ちになるとリーブラスターを構えた。どんっと腹から揺さぶられるような音が響き、マルキガイナスの上半身で大きな爆発が起こる。近くにいた赤星もその圧力で後ろに吹き飛ばされた。
「レッド!」
瑠衣が赤星に駆け寄る。赤星は頭を一振りするとゆらりと立ち上がった。
「どうなった?」
「やったよ!」
マルキガイナスは地面の上でのたうっていた。ぎこちなく起き上がるが、右肩が大きくえぐれ、右下顎まで削れている。砲口に撃ち込まれたシェル状のリーブ粒子は、マルキガイナス自身の弾薬を巻き込んで周囲を破壊したのだった。
赤星がブレードをひっさげて突っ込もうとした。バズーカを使わずに倒せればそれに越したことはない。だが異様な圧力を感じて立ち止まった。
「なんだっ!?」
「役立たずのゴルリンが! 生まれ変わるがいい!」
シェロプが手の中の小さな装置をマルキガイナスに向けていた。
「どういうこと!? だって‥‥っ」
同じくブレードを手に、赤星のすぐ側まで来ていた瑠衣も当惑の声をあげる。マルキガイナス・ゴルリンが何か喚き声のようなものをあげて倒れた。全身が痙攣している。見ている者の背筋を寒くさせるような、そんな引き攣れ方だった。
「所詮人形にはスレーブタイプのストーンで十分! 如何様にも処分できる!」
呑まれたようにそれを見ていた赤星がシェロプの声で我に返り、慌ててリーブレスに叫んだ。
「こっち! 間に合わねぇっ!」
輝は、この長身の友のディスクを投げる動きが好きだった。たぶんそれは誰が見ても「美しい」と思うだろう。すらりと長い手足が優美に連携し、もっとも角速度の高い状態で絶妙の方向にチャクラムを放り出す。主の想いを受け止めたかのように、それは大きな弧状の角に体当たりして爆発した。二つに折れたマルキクワンガーのブーメランが、乾いた音を立てて地面に転がる。
「やった、イエロー!」
輝はもう黄龍の傍まで来ている。チャクラムを失った黄龍はリーブラスターを取り出した。
「シェルモード。イケっかよ?」
「もっちろん!」
「胸、狙うぜ。キツけりゃ座んな」
輝は即座に座り込んだ。そのほうが狙いが安定する。訓練の時のちょっと意地っ張りな輝はすっかり消えていた。黄龍は立位のままだ。二人の声が重なった。
「シェルモード!!」
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