★第27話 (18/20)
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「耳ふさいで!」
グリーンがイエローの隣に座り込んだ途端、星加有望はそう言い両手を耳に当てた。だが二人の刑事は流石にそういう事には慣れっこだ。微妙にずれた重低音が強圧的に空気を叩き、3人の鼓膜に到達した。胸部に強烈な光弾をくらった茶色の怪人がどうっと後ろに倒れ込む。起き上がってくる間に数歩接近した二人は、もう一度、同じ場所にシェルモードをぶち込んだ。
「やったッスよ!」
「やるじゃねーか、黄龍瑛那も、あの小さいのもよ!」
立ち上がっていた田口と早見が小さな歓声を上げた。だがOZの女性科学者の顔は緊張した面持ちのままだ。シェルモードの破壊力は彼女が一番よく知っている。2丁のリーブラスターだけで怪人を沈めるのは難しいはずだった。
と、いきなり彼女の持っているリーブレスが喚いた。
「こっち! 間に合わねぇっ! バズーカだ。クワガタ野郎を早く倒す!」
星加有望が物も言わずに木陰から飛び出して一目散に戦いの場に駆けてゆく。一瞬固まった早見と田口は、すぐにその華奢な背中を追った。追いつく前に彼女はリーブレスに少しだけ耳を傾け、そしてすぐに、それを口元に寄せた。
「スター、バズーカ!」
戦場にあまりにそぐわない、羽毛のように柔らかい声だった。
イエローとグリーンは小さな飛行物体が下りてくる前に星加有望のいる場所に辿り着いた。遅れてレッドとピンクが到達する。彼女の所に他の4人が集まったほうが早くバズーカの準備ができる。それがレッドの指示だったようだ。キーワードを拭き込んだ5つのリーブレスがセットされ、それが火砲の形に変形した。レッドが中央、左右にグリーンとピンク。イエローは少し離れ、ブラスターを怪人に向けて構えている。
早見と田口も既に5人の傍に駆け寄っている。早見は思いついたようにシェロプという敵の幹部に銃口を向けた。近づいて来たら牽制しようと思った。幹部のせいで怪人が巨大化するぐらいのことは知っている。だが、シェロプは何か別のことに注意を奪われている。その視線の先にはバラバラした妙なものがあった。怪人の成れの果てに思えるが、いつの間にそんなことになったんだと早見が訝しく思った時、シェロプの姿が消えた。
「ファイア――ッ!!」
スターバズーカから発する光の奔流が、再び起き上がってきたマルキクワンガーを押し包んだ。あちこちで小さな爆発を起こすようにして、その異形の化け物を破壊していく。イエローが引き寄せられるように数歩近づくと、リーブラスターを連射した。
「こっちへ!」
早見と田口の袖を引いたのは星加有望だった。さっきから妙な耳鳴りがしていた。言われるままに木立へ向かう途中、ふと腹の中に何か振動が伝わってきたような気がした。早見と田口が同時に振り返り、そこで硬直した。
空にぱちぱちという火花のようなものが散っている。
そこに淡く大きな影が形作られ、すうっと濃くなっていった‥‥。
大規模な三次元投影だ、そうに違いない。
極めて非合理的に早見がそう思った時、"それ"が、新しい身体を確認するように、数度足を踏みしめ直した。地響きがして地面が激しく揺さぶられる。目の前で星加有望が転倒しそうになり、早見は咄嗟に両手を伸ばした。女の細い上腕の感触が早見をなんとか現実に戻した。
「早く! 木の中へ!」
今度は早見が星加有望を押しやるようにして走り出す。
「こ、こっち、来る気みたいッス!」
後ろを見ながら田口が言った。巨大化したマルキガイナスの視線は、逃げる3人に据えられてた。
刹那、どごん。という低い射出音がし、パシャンといった音が上空から聞こえてきた。怪人が上半身を攻撃してきた相手に向かって、向き直った。
<こっちだ! こっちへ来やがれ!>
星加有望が握りしめている通信機のようなものからそんな声が聞こえてきた。戦闘中の会話がモニターされているらしい。喚いている声の主が大型二輪を駆っているのが見えた。赤い色が目立つ。早見が放置してきた単車は壊れてなかったらしい。後部に黄色い長身が乗っていて、銃で怪人の気を引いたのだと判った。
<こっちの水はあーまいぞっ!!>
巨大化怪人の足元を、もう一台の大型バイクがすり抜けた。小柄なグリーンに黄龍瑛那のバイクはいささか大きすぎの感じだが、強化スーツのお陰か十分に取り回せていた。マルキガイナスはうるさいバイク達に向かって、どしんと1歩進んだ。
三人のオズリーブス達は巨大化怪人を公園のもっと中央部に連れて行こうとしている。今の場所のままだとあの大きさだ。10歩も歩けば市街地まで出てしまいそうだった。
あいつら、でかいのに乗ってなくても、"車幅感覚"、持ってやがんだ。
早見はちょっと感心した気分になった。
3人が木立の中に飛び込んだ途端、大きな爆発音がして。怪人の進んでいた方向に火柱が上がった。再生された巨大化マルキガイナスが肩の火砲を使ったらしい。通常時に受けたダメージは巨大化すれば修復されているのが常だった。
「赤星! みんなっ」
思わず飛び出そうとした星加有望の身体を早見は慌てて引き留めた。と、今度は上空から爆音が降ってくる。黒くてどこか丸っこい形をした戦闘機が、下から舞い上がるようにマルキガイナスを攻撃した。
<みんなっ 大丈夫!?>
<無事だ! そっちこそ無理すんな! オウルとレヴィンもすぐに来る!>
会話を聞いて、星加有望がすとんと座り込んだ。少し息をつくと早見と田口の顔を見上げる。
「すみません。ピンクがガーディペッカーで牽制に入ったようですわ」
「それ、あの飛んでるヤツですか?」
「ええ」
さっきシェロプに勿体をつけるだけつけて示した時は形状なんぞ見ている余裕がなかったが、どうも新型のメカだったらしい。田口は田口で心底感心したような声をあげた。
「ピンクさん、すっごい器用ッスねぇ‥‥」
その妙に愛らしい形状の戦闘機の火力だけではマルキガイナスの外郭にダメージを与えることは無理のようだった。それでもそれは巨大な怪人の周りを飛び回り、注意を確実に引きつけていた。空中で急に方向転換をしたり、瞬間的には制止さえする。垂直離陸用以外にも多方向に噴射口を持っているせいだった。怪人は少しずつ遠ざかって行き、3人は木立の中から出てみた。有望が空を舞うハチドリのようなペッカーを見上げた。
「あの子とガーディオウルとガーディレヴィン。その3機が1つになって、ネオ・リーブロボ、ガーディアンが生まれます」
「そうなんすか」
そう答えてみたものの、早見にはぜんぜんピンとこなかった。
「なんか来た! あれッスか?」
遠くの機影に真っ先に気づいたのが田口だった。きらめくナイフのようにスタイリッシュな3機が、ぎゅんっと怪物の上空を飛び抜け、マルキガイナスがそれを目で追った。
「違うな。JさんのF−2だ。対艦攻撃力じゃグンバツだぜ」
「対艦って、怪人は船じゃないッスよ?」
「んなこと言っても、あんなもん相手に迎撃機持ち出すよりマシだろーがよ」
また少し交信がなされて、ガーディペッカーは着陸したようだった。確かに自衛隊の連携飛行に絡むのは危険すぎた。
3機が次々に舞い戻ってくるとマルキガイナスめがけて連続してミサイルをぶち込む。衝撃で上半身はぐらりぐらりと揺れた。だが煙が払われるとあまり気にした風もない。怒って手を振り回しているが、F−2は手の届く範囲には入ってこない。
「すごい‥‥。よく味方同士でぶつからないわ‥‥」
見ている有望が感嘆したように言い、早見が応えた。
「でしょう。あれ、操縦のシステムが凄いらしいっすよ。逆にコンピュータの助け無しじゃ飛べないくらいだって。OZのメカと似てる部分もあるんじゃないですか」
「確かにそうですわね。あと素人目ですが、攻撃の法則性のお陰もあるように見えますわ」
「え?」
「複数の角度から入る時は、先発と次発の間隔がかなり空いている気がするんです。予想外の反撃を回避しても、衝突しないようにそうしてるんじゃないでしょうか。そしてさっきから連続攻撃は全て同方向からの縦列進入になってるんです」
有望は不安げな面持ちで早見を見つめた。
「軍艦みたいにターゲットが大きければ同方向から同時に攻撃できます。でも‥‥‥‥」
3機の攻撃機が、今度は左横から肩の火砲に対して突っ込む。1機めの爆撃を受けたマルキガイナスが、いきなりぐるりと向き直るとバズーカを発射した。しんがりのF−2が左の主翼をもろに吹っ飛ばされた。火と煙を噴き上げながら、大きく左に旋回してあらぬ方向にどんどんと滑っていく‥‥。
3人は息を呑んだ。不時着できるならまだマシだが、あのままどこかに突っ込んだら‥‥!
白くなりかけた頭の中に低い轟音が響いてきた。戦闘機の消えた方向から黒い巨大な飛行物体が現れた。大型旅客機並の大きさなのに低空を飛んでくる。通常の飛行機よりかなり幅が広く、大きな三角翼を背負っていた。腹の側に普通はあり得ない長い突起物が2本突き出し、先端が触れあっている。
公園上空に進入すると逆制動をかけ、地面と垂直になるまで機首を上げた、逆噴射でゆっくりと落ちてくるまでの間にあちこちが変形する。妙な突起物の先端は手のようになっていて、墜落するかと思われた自衛隊機を支えていた。後尾が二股に分かれるとその途中にはいくつかの間接部があった。
そうして生まれた二本の足で着地する。ガーディ・ペッカーが上昇してきて上部に組み込まれると、がしゃりと反転して顔が現れた。今や完全に一体となった鋼鉄の巨人は、きわめて人間的な動きで両手で抱えていた自衛隊機を空き地にそっと置いた。そして、ずしん、と地響きをあげて、マルキガイナスに向かって歩み寄った。
ネオリーブロボ・ガーディアンは、今、しっかりと大地を踏みしめて立っていた。
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