★第27話 (19/20)
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「公園の周囲2Km、避難終わったそうです」
特警の早見瞬が携帯のような機器から顔を上げてそう言った。一見携帯だが官給品の警察無線だ。
「そうですか。よかった‥‥」
星加有望が黒い巨人を見上げる。ネオリーブロボ・ガーディアンは、巨大化したマルキガイナス・ゴルリンより頭一つ以上も小さかった。閉じた三角翼を背中に背負ったその姿は短めのマントを羽織っているようにも見える。早見は疑問に思っていたことを口に出した。
「あいつ‥‥もしかして前より小さいですか? それとも敵さんがデカイのかな‥‥」
OZの女性科学者は緊張した顔に少しだけ笑みを浮かべて、早見を見た。
「いえ、確かにガーディアンはリーブロボより1割以上も小さいです。でもその分、姿勢の制御が格段に良くなっているから‥‥」
「あ、自分、それわかるッス!」
田口が口を挟んだ。
「あのロボット、重心の移動がきれいッス。ムダが無い感じがするス」
「あ、お分かりですか? 新しい分散型のスタビライザー・アルゴリズムを応用してるんです。7カ所の位置センサーにそれぞれ専用演算回路を直結させていて、そこで処理したものを‥‥」
「ちょ、ちょっと、星加博士っ!」
「はい」
輝きを帯びた瞳に見つめられて、早見は一瞬沈黙し、それから言った。
「とにかく! もう少し離れましょうって!」
さっきよりは大分離れたとはいえ、3人はまだ、何かあったら確実に巻き込まれそうな位置に居た。
ガーディアンは軽く足を踏み換えてすっと重心を落とした。敵に向かって巨体とは思えない敏捷さで突進する。怪物の右側に回り込んで肩の大筒に手をかけると、先端を押し上げるようにして破壊しようとした。だが敵も黙ってそうされているはずもない。巨大化した怪人の繰り返しの殴打にロボットは間合いを空けた。
マルキガイナスが火砲の狙いを定める。だがガーディアンは再び突っ込んだ。低い体制からボディブローとローキックを浴びせる。あまりダメージにはなっていないが、間合いを詰めることで火器を使わせない効果はあった。
「ぐわっとぶっ飛ばせるよーなの持って無いんですか、あれ!」
小走りに離れつつ、背後を見やりつつ、早見が喚く。
「みんなが乗り込まないと‥‥武器は使えないわ! ‥‥今は機銃ぐらいしか!」
息を切らせながら有望が答えた。レヴィンとオウルには誘導型のミサイルも搭載できるが、ガーディアンになる時にそんなものを持っていたら危険すぎる。
「んなこと言ったって! あんなんどーやって乗るんです!」
「少しチャンスがあれば、きっと大丈夫よ!」
思わず声を荒げた早見に星加有望がぱっと返した。ただ言い返しただけという根拠の感じられない物言いが逆に女っぽく聞こえた。
マルキガイナスの砲口がとうとう火を噴いた。どでかい榴弾を喰らったガーディアンがよろよろと後退する。怪人はロボットに近づき火砲を誇示するようにすっと両肩を張った。再度発砲しようとした時、ガーディアンの両脇で2機の自衛隊機がまるで展示飛行のように翻った。
F−2から放たれた誘導ミサイルが巨大化怪人の両肩にそれぞれ命中する。怪人がガーディアンに気を取られていたことで、F−2のパイロット達も遠距離からより確実にミサイルを誘導することができた。砲口に飛び込むまではいかなかったが、それはマルキガイナスの火砲を二つとも封じることに成功した。
赤星、黄龍、輝の3人はその時ガーディアンの右足脇まで到達していた。思い切り地面を蹴って地上から10メートルはあるロボットの右膝あたりの足場に取り付く。そこには小さなハッチがあった。内部は様々な装置類やパイプとケーブルで埋まっている。外壁には梯子が付いていて、その脇には少し間を空けてワイヤーが2本並んでいた。赤星が壁のスイッチを入れると1本は上に1本は下に向かって流れ出す。要は極めて簡便で使用者に優しくない上下の移動手段だ。彼らはそれに取り付くと勢いよく吊り上げられた。ガーディアンの動きに伴って揺さぶられてもあまり気にする風でもない。強化スーツ無しにはとてもできない搭乗方法であった。
天井に到達して隔壁のハッチをスライドさせると2メートル四方ほどの空間に出る。天井は半分が低く残りは高い。天井の低い側、中二階のようなその上部がガーディオウルのコックピットだ。通常時と合体時で回転するためこうなっていた。黄龍と輝がちょっと合図してそちらに飛び上がった。
ガーディアンはリーブロボと違い、操縦者はそれぞれのメカのコックピットから動かない。もちろん内部で互いに移動はできるが、基本的には最初に搭乗したメカのまま全体のコントロールに有機的に参加する。
頭部にはめ込まれるガーディペッカーは基本的に瑠衣か輝が搭乗する。合体した時には全ての外部モニターがここで分析されることになる。最悪の時はこの機体に5人を乗せて脱出することも可能だった。
胴体になるガーディレヴィンは黒羽がメインで赤星がサブの想定だ。ガーディアンになった時はここが制御の中心になる。輸送攻撃機と言うにふさわしいこの機には5人が乗り込むスペースがある。
腰部と脚部を形作る大型装甲車ガーディオウルは黄龍がメインドライバーになる。オウルは左大腿部に最も重要なリーブトロンを抱えており、サブドライバーはリーブエネルギーの調整機能を受け持つ。今日は輝がその役だ。
黄龍、輝と別れた赤星は今度は直径1メートルぐらいのパイプの中に入る。内側には取っ手が並んだようなハシゴもどきが上に向かっていた。オウルとレヴィンの接続部を金属の筒に保護されながら駆け登る。レヴィンの胴体に入ると動力伝達システムやメインエンジンの脇を抜けて、可動コックピットにたんと飛び上がった。
「黒羽!」
メインパイロット席の高い背もたれの左脇で白い手袋がひらりと舞った。近寄った赤星がリーブレスを差し出す。だが黒羽は手を引っ込めて顎をちょっと突き出した。唇が拗ねたようなへの字になっている。
「どーせオレは怪我人のメカニックなんだろ?」
「え! い‥‥。そっ、そーゆーワケじゃ‥‥っっ」
「こいつに免じて許してやるんだからな。覚えとけよ」
黒羽はガーディアンのパネルをぽんと叩くと尊大な仕草で手を差し出した。赤星はブレスレットをそおっとその手に乗せると、脱力してコパイ席に転がり込んだ。
<こっち、OKだ!>
黒羽が黒いスーツに包まれると同時にパネルの隅にある小さなモニターから声がした。イエローのマスクの前に興味津々といった感じでグリーンのマスクが身を乗り出してくる。
<危ないわ!>
瑠衣の声がモニターを通じてレヴィンとオウルのコックピットに響いた。F−2がマルキガイナスに再度接近していた。マルキガイナスは封じられてしまった左の火砲をむしり取って右手で掴んでいる。
「オーバードライブだ!」
赤星が叫ぶ。ガーディアンは既に黒羽の操るままに踏み出している。刹那激しいGが5人の身体にかかり、ガーディアンはまるで瞬間移動したかのようにマルキガイナスの懐に飛び込んでいた。
ガーディアンを構成する各メカは、リーブダイナモと呼ばれる発電機で生み出した電気を動力源としている。"燃料"は科学的には極めて不活性な窒素であり、リーブ技術のお陰でエネルギーに変えることができた代物だ。
だが"兵器"としてはリーブ粒子そのものを使う方が効果的だった。だからガーディオウルにはリーブ粒子のエネルギー炉であるリーブトロンが搭載されている。その出力を武器ではなく通常の駆動系動力の方に加えることで高速に移動することもできた。もちろんリーブトロンを活用するには最低4つのリーブグリッドが必要になるが、それもこうやってブレスレットをケーブルで接続してしまえばOKだ。
火砲を振り回そうとしたマルキガイナスの腕を、巨人はがっしと押さえ込んだ。相手の手を逆手に掴み、歪みねじけた金属筒を叩き落とす。
「おっ ウソみてー! やたら反応いいぞ!」
「だろう?」
ガーディアンの腕をコントロールする赤星が感心したように言い、黒羽が得意げに応じた。
<オーバードライブ解除! パワー30%ダウン!>
「もうかよっ!」
機体に負荷をかけるオーバードライブは短時間しか使えない。輝の警告に赤星がスティックを握り直す。
「まともにやり合うと、パワー負けするぞ!」
そう黒羽が言った時、マルキガイナスの両手はガーディアンを捉えていた。
「わっ 捕まったッス!」
F−2が叩き落とされる寸前に怪物の腕を押さえ込んだまでは良かったが、今度はロボットの方が捕まった形になった。マルキガイナスが小柄なロボットに自らの頭を叩き込む。激しい金属音が響きガーディアンが振動した。
「プロレスファンかよ、あいつわ!」
早見が思わずそう怒鳴り、有望は有望で通信機に向かって叫んだ。
「みんなっ?」
<‥‥って、しゃべらすな! 舌噛んじまうっ! 離れろ! とにかくずーっと離れるんだ!>
その割にはきっちりとしゃべりまくった赤星のわめき声に、有望はほっと苦笑した。
「あ、まあ、敵のバズーカは無くなったし、あとはなんとかなりそうってとこですかね」
早見のフォローに有望がこっくりと頷く。
「はい。ただ、ガーディアンはスリムで頑丈な分、衝撃を吸収するゆとりが少ないんです」
「サスペンションの堅い車みたいなもんすか?」
「ええ」
「でも、なんかそれなりに対応してるみたいッスよ?」
田口が少し面食らったような声で上空を指さした。直撃を避けて1機だけ離脱したガーディ・ペッカーがぐるぐると飛び回っていた。
「‥‥‥‥‥‥おい!」
黒羽が突っ込んだ時はもうガーディ・ペッカーは離脱していた。
<やーん! 壊れちゃうよ!>
<ちょっとピンク! それヘン過ぎっしょ!>
<だって、この子、絶対スターよりもろいよ〜! ロボットは顔が命!>
<雛人形じゃないんだから〜っ>
<えーい、この! ガーディを離しなさい!>
ペッカーが急降下してマルキガイナスの背後からバルカンを浴びせた。マルキガイナスの身体はそれを吸収してしまいびくともしない。だがそれでも意識はそちらに逸れた。
「グリーン! リーブ砲、エネルギー充填だ!」
<この距離で? 跳ね返されたらヤバイよっ?>
「撃つのはアイツじゃねえ。ブラック、テイクオフ準備! 最後までなだれ込むぜっ!」
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