★第27話 (2/20)
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「‥‥え‥‥?」
輝が小さく呟いてモニターを覗き込む。遠くから近づいてくる機影が映っていた。
「何か‥‥飛んでくる? 速いよ!」
ロボットの振動が止まった。ごおっという威圧的な飛行音が聞こえた。メインモニターの中を黒い大きな機体がものすごいスピードで通り過ぎていった。
「あれ‥‥レヴィン‥‥か?」
赤星が驚きの声を上げた。その名付け親である黒羽が思わず振り返る。
「なんだと?」
「それって‥‥田島さんたちが作ってた‥‥」
瑠衣が呟いた瞬間、いきなり爆発音がした。だが今度は揺れが無い。それはリーブロボに加えられた攻撃ではなかった。モニターで見ていた輝が叫んだ。
「やった! 命中したよっ」
黒羽が内側のハッチを開けて外を確認すると、外のハッチを少し開けた。
「今だ。行くぞ」
地面からは少し高さがある。落差を跳び降りた黒羽は、すぐ左側にあるロボットの左肩関節部を見て顔を歪めた。接続部が歪み、ケーブルが飛び出してバチバチと音を立てている。続いた黄龍が瑠衣を抱えるように降ろしてやった。輝は着地すると同時に左大腿部であるラガードラゴンの方に走り出そうとして、赤星にとっつかまった。
赤星はスピンドルの位置を見定めると左前方の大岩を皆に示す。
「4人ともあの陰に」
「え、リーダーは?」
「リーブトロンを止めてからすぐ行く」
「そうだな。3人とも早く行くんだ」
黒羽がそう言うが早いがリーブロボの身体に足をかけた。赤星は少し肩をすくめて3人に目配せすると、片手しか使えない黒羽を追い越しリーブロボの脇腹をよじ登った。
幸いにもスピンドルには小さな5人にかまっている余裕はなかった。突如現れた全翼機に手一杯になっていたからだ。そこから発射されたミサイル砲が2発立て続けにスピンドルの胸部に吸い込まれる。ランドドラゴンより一回り小柄なそのボディは、西洋凧のような三角翼を背負っていた。
ガーディ・レヴィン。
田島が中心になって作っていた新型ロボットを構成する一機体である。ランドと同じくロボットの胴体を構成するが、飛行体であるところが最大の相違だ。基本的には輸送機であるが、20mmバルカンを2基、空対空/空対地ロケット砲を6発搭載している。
仰臥したリーブロボの上に顔を出した赤星が破損状況を見やる。あちこちに無惨な傷痕が開いていたが、幸いにもリーブトロンのある腹部の右下側はあまりひどい状態ではなかった。スピンドルがガーディ・レヴィンに完全に気を取られていることを確認してから黒羽を引っ張りあげる。
腹の上を大急ぎで横切って右側面からぽんと飛び降りた。黒羽は右手を突起にかけて、動力ルームに入るパネルの付近から降りかけている。その足に赤星が触れると自分の肩に誘導し、黒羽の体重を支えて両足を踏ん張った。
赤星の肩に立った黒羽はキーボックスを開け、逆さまになっている30個の英数字キーから10文字のパスコードを入れた。重いパネルを引きあけると内部に入る。入り口に両手をかけた赤星も力任せに自分の身体を引き上げて後に続いた。
耳鳴りのような音とも振動ともつかぬものが響いてくる中、二人は身をかがめて天井を歩いた。160cmそこそこの高さしかないこの通路は、細長い鳥かごのように両側は20cm間隔の格子で覆われている。斜めになっても設備に体重をかけずに移動できるようにするための格子だから、数本ごとに簡単に外せるようになっていた。
照明の電源は通常のバッテリーにより供給されており、足下の天井に埋め込んだライトのおかげで移動に不自由はなかった。二人はすぐに目的の場所に着いた。円盤のように丸く平たい本体に長い首のついたカラフェのような形のリーブトロンだけは、重力に合わせて回転する為、正しい向きを保っている。二人は格子の間から手を伸ばして、周囲のパネルのレバー類を片っ端から切っていった。
これで内的要因でロボットが爆発することは無い。流石に顔を見合わせてほっとすると、今度は赤星が先に立って出口に向かう。外を見ると、ガーディ・レヴィンが再びスピンドルに襲いかかるところだった。
スピンドルの右側面はアオコのような緑色に染まっていた。片腕を失っていることは相当のダメージにはなっていたようだった。バルカンの掃射を受けたスピンドルはぐらりとよろめきながらも反射光のビームを放つが、黒い機体はきらりと翻ってそれを交わす。一回転しながらもう一度ミサイルを撃ち込んだ。
スピンドルはついに崩れた。ぐらりと膝をつきそのままうずくまる。光の中に解けていくようにその巨体が煌めきに変わっていく様は美しいと言ってよかった。
その光景に引き寄せられるように、赤星と黒羽はリーブロボの頭部に向かって早足で進んだ。上腕が吹き飛ばされた右肘の破損部を回り込み、頭側部を越えると黄龍達3人が大岩の前に飛び出しているのがわかった。赤星が両手で大きな丸を作ってみせる。一体どこにそんな体力が残っているのか、輝がぱたぱたと小走りに近寄ってくる。そのあとから、瑠衣が少しふらつきながら、黄龍がそれを支えるようにしてゆっくり歩いてきた。
すぐ近くでホバリングに入ったガーディ・レヴィンの轟音に5人は我に返った。簡易梯子が伸び、田島が降り立った。
「大丈夫かっ!」
簡易飛行服に身を包み、まろびそうになりながら走り寄って来る。
「赤星! 輝君! 瑠衣ちゃん! 黄龍君!」
「‥‥‥田島さん‥‥」
皆の名前を一人一人呼んだ田島は、最後に黒羽を見つめ、しゃがれた声で言った。
「‥‥黒羽ちゃん‥‥。本当に大丈夫なのか?」
「いやですねぇ、博士。‥‥ちゃあんと足はついてますぜ‥‥?」
「田島さん‥‥。俺、リーブロボを‥‥‥。‥‥すみません‥‥」
赤星が田島に向かって項垂れる。
「いいんだ。メカは修理すれば直る。君たちが無事でいてくれて、よかったよ‥‥」
「ホントなの! ラガーもすぐ治るのっ?」
輝に両手を取られて、田島はちょっと困ったような笑顔を浮かべた。
「上から見ただけだが、ラガーとランドはだいぶひどいね。ジェットもかなりやられている。そう簡単にはいかないと思うが、最善を尽くすと約束するよ」
「博士。あの‥‥ブルーンのヤツは‥‥」
黒羽が心配げに聞いた。
「ああ、オズブルーンなら少し離れた処に無事不時着している。右の主翼の先が折れているが、すぐ治るだろう。まったく悪運の強いお嬢さんだよ」
「ところで、田島さん。誰が、レヴィンを‥‥?」
赤星の言葉が途中で止まった。ガーディ・レヴィンは既に着地し、操縦席から飛行服に身を固めた人物が降りてくる。パイロットは急ぎ足で近寄ってくる途中でヘルメットを外した。
「‥‥島、さん‥‥?」
輝と瑠衣の声が重なる。特警のプリンス、島正之は、頭をふって髪を軽く整えると、人懐こく笑った。
「よかった! 皆さん、ご無事だったんですね?」
「‥‥こりゃ、驚いたな。島警部補は、あんなものの操縦まで‥‥?」
黒羽の本心から驚いたような声に、島は無邪気に笑い返した。
「ええ、アメリカで少し。今日はシステムに助けられたというのが、ホントのとこですが」
そこで島の顔はふっと引き締まり、ぴしりと敬礼をすると5人を順に見やった。
「オズリーブスの皆さん、お疲れ様でした。もうすぐ自衛隊の輸送用ヘリが到着します。それで警察病院までお送りしましょう」
ヘリのはめ込み窓からリーブロボを見下ろした5人は、その悲惨な姿に声もなかった。
左足は不自然な形にねじ曲がり、長い傷口から機械類が丸見えになっている。胴体のあちこちが切り裂かれ、ぱくり、ぱくりとむごい疵痕を晒していた。右腕は肘から先が吹き飛び、左肩はほとんどもげかけている。そして顔の部分は、自らの得物である龍球剣で斬り削がれて、もはや面影さえなかった。
一人、また一人と顔を背けて床に座り込む。うち捨てられた人形のようなリーブロボが完全に視界からアウトして、赤星がやっと窓から離れた。
壁を背にしてうずくまった5人は、いつの間にかもたれ合うように寄り添って、泥のような眠りに落ちていた‥‥。
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