★第27話 (20/20)
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マルキガイナスの胴体に突っ張るように押し当てられていたガーディアンの左手が甲の側にぱくりと折れた。折れ口から短い金属の筒がせり出してしゅうっと金色にけぶり出す。ガーディアンは頽れるかのようにがくんと沈み込み、左腕をマルキガイナスの足元に向けた。
「リーブ砲、ファイヤー!」
金色のエネルギー流がマルキガイナスの足元の地面を抉る。巨大化した怪人はその穴に沈み、大きく揺らいだ。ロボットに掴みかかろうとしたが、鋼鉄の巨人はいち早く後ろに跳びすさっていた。
「ガーディアン、テイク、オフ!」
黒羽がレバーを入れると駆動系の全権がレヴィンに集中した。前傾気味に跳んだガーディアンの脚部が背中側にスライドし、同時に背中の翼が開いた。腹部と後方からいくつも噴射が起こり巨体がふわりと浮く。次の瞬間、しゅん、と滑るように舞い上がった。
「わ、すげえっ!」
もはや木々の上に巨体の上部が見える程度まで離れていた早見は、子供のような歓声をあげつつもほっぺたをつねりたい衝動に駆られた。巨大な鉄の塊が人間のように動き回っていたかと思ったら、挙げ句の果てに玩具のように飛翔する。
上昇がとまった首無しの巨体に小さな戦闘機がまとわりつき、それが再び頭部に戻った。落下を始めつつ左大腿部のあたりに手をやって何かのパーツを取り外した。ぐんと長く伸びたそれを右手に持ち替える。棒の先端は槍状になっており、柄と刃のつなぎの部分は少し太くなっていて銀色に光を弾いている。
「リーブランス‥‥。お願い、うまく決まって‥‥」
有望のかすかな呟きを聞き入れたかのようにガーディアンはその長い槍をくるりと回し、そのまま急降下した。地面に嵌り込んでもがいている怪物の肩先に槍先が入る。落下の勢いに乗ってそのまま刺し貫くと、ガーディアンは自分の得物を置いたままぽーんとそこから離脱した。
ずんっとくぐもったような爆発音がして、マルキガイナス・ゴルリンが硬直した。グレーの巨体はそのまま内側に溶解していくように崩れていく。刃先と一緒に体内に入った高準位のリーブ粒子がその身体を焼き尽くしていった。
「やった‥‥んスか?」
田口が呆けたように聞いた。
「はい」
星加有望がそう言うと、振り返って早見と田口の顔を見つめた。
「ネオリーブロボ・ガーディアン。なんとか初陣に成功したようですわ」
早見はまじまじと星加有望の顔を見返した。いつもと違う印象を持ったのは服装のせいだけではなかったと初めて気づいた。目の下にうっすら浮いた隈や青白いほどの頬。髪の艶もなくほつれたままで、それは「疲れている」と言ってよかったろう。リーブロボが破壊され、装備の不調でオズリーブスが戦えなくなった‥‥。それは科学者たちにとってはまさに修羅場の始まりだったというわけだ。
だが、女の顔には深い安堵と素直な達成感があった。事件が終わってこんな風に単純に満足感が得られたことが何度あったろうかと、少し羨ましくなった。
「お疲れ様でした。警察を代表して‥‥‥‥」
そう言いかけた早見は苦笑して頭を掻いた。
「いや‥‥こんなの、本官のガラじゃないっすね」
本部長ならさぞかし格好良くキメるんだろうなと、早見は思った。
だがそう言われた有望はまるで少女のように嬉しそうな表情を浮かべた。
「いえ、ありがとうございます。お世話になりました」
そう言ってしなやかに一礼する。そのまま失礼しますと去ろうとするので、早見は慌てて引き留めた。
「ちょっと、星加博士! よかったら送りますって! 駅に戻れば車あるし。まさかそのカッコであれには乗れんのでしょ? 黄龍瑛那のバイクだってどーなってるか‥‥」
有望は虚を突かれたように数度瞬きをし、照れたように笑うと小さな声で言った。
「‥‥そうでした‥‥。すみません、それではお願いします‥‥」
有望が通信機に語りかける。そしてロボットに向かって大きく手を振った。ガーディアンはこちらの姿を認めて向き直ると浅く頭を下げてくる。その仕草が妙に人間臭くて、田口と早見は顔を見合わせて笑った。
高くなってきた陽射しが金属の巨体で白く照り返す。
ネオリーブロボ・ガーディアンは光に埋もれているように見えた。
いましばらくは地球の守護神となる鋼の巨人に、祝福が降り注いだように‥‥
===***===
「ふうん‥‥。せっかくのチャンスだったのに。残念だったね、シェロプ」
意外なことに新参謀は部下の失敗にずいぶんと寛大だった。まだ叱責の仕方がわからないのかもしれない。一方の魔神将軍は床にひれ伏さんばかり。以前とはえらい違いだった。
「‥‥も、申し訳ございません。それもこれも、すべてゴルリンの出来損ない故‥‥」
「なっ テメーの指揮の悪さを棚に上げて、何言って‥‥!」
怒りに燃えて喰ってかかったゴリアントをファントマがなだめた。
「まあまあ、ゴリアント。‥‥だけど、あいつらもバカじゃない。手の内を読まれていると、ちょっと辛いのは確かみたいだね」
「それは‥‥‥‥」
ゴリアントが押し黙る。ゴリアントの自慢の部下達を模した2体のゴルリンも、大暴れをしたとはいえ、沢山の人間達に潰されてしまっていた。
少し離れたところに立っていたスプリガンが腕組みをしたままぼそりと言った。
「例の2体になる新しい巨大化光線。なんで魔神将軍に持たせなかったんですかい?」
「あ、これ?」
ファントマが皆の前で手を開いた。そこには青く光る小さな小石が幾つも乗っている。一つの固まりだったものが砕けたもののようだった。シェロプもゴリアントも訳の分からない顔をしている。だがスプリガンは身を乗り出し、訝しげな声を上げた。
「‥‥ハミルタイト鉱石‥‥?」
「さすが機甲将軍だ」
「ウソでしょう? こんな純度の高いハミルタイトなんざ、見たことねーぜ!」
「そう。極めて珍しい」
「まさか、これを使ってあの巨大化光線を?」
「そういうこと。だが1度使うとこうなる」
「‥‥なんてこった‥‥」
「おい。なんなんだよ、スプリガン! オレっちにも判るように説明しろ!」
ゴリアントが喚く。シェロプも口にこそ出さないが興味津々の顔つきだ。スプリガンは再び腕組みをし直すと説明してやった。
「オレらがディメンジョンストーンを制御するときはティタニウムを使ってる。このハミルタイト鉱石はティタニウムの何十倍もの効果とエネルギーがあるのさ。だが、こいつはもともとこの世界のもんじゃねえ。よその次元から落ちてきて、次元間を通過する過程で変性したって言われてる。だからとにかくえらく稀少品なんだよ」
「では‥‥2体へのの巨大化はもうできないということですか?」
シェロプの問いに、ファントマはぽりぽりと後頭部を掻き、どこか媚びたような笑みを浮かべた
「今、色々探させてるから、またそのうちね」
と、ファントマが顔を上げた。三将軍もつられて入り口の方を見やり、驚いた。扉の音は一切しなかったし皇帝の城で空間移動を使うのは御法度である。だが、その白い人影は、確かにそこに居た。
「おいで。皆に紹介しよう」
その人物は頭の先から足の先まで一枚布を巻き付けたような厚い白っぽい衣装に覆われていた。妙にひょろ長い体型で、それが移動してくるだけで不気味に感じられた。その者は言葉もなく三将軍の脇をすりぬけてファントマの前に跪いた。ファントマは軽く頷くと、三将軍の顔を見やった。
「新しい夢織将軍だ」
白い人物はフードを取った。中から床に引きずるほど長い銀髪が流れ出る。立ち上がるとシェロプと同じくらいの背丈があった。それは深々と頭を下げた。
「我はアトラク=ナクア」
女の声のようだが、何か妙な風に響いた。顔をあげると何かを塗りたくったように真っ白。目は全体が虹彩で覆われているのか硝子体がそういう色なのか、とにかく赤い。
「ファントマ閣下の元、夢織将軍のお役目、しっかりと全うしていく所存。よろしくお願いする」
話している間、一切動かなかった口元が、声が聞こえなくなって始めてゆっくりとカーブを描いた。白い顔の中で深紅の薄い唇に浮かんだその笑みは、新しい夢織将軍アトラク=ナクアに、ひどく酷薄な印象を与えていた。
(終)
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