★第27話 (4/20)
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西条は赤星を連れ、テーブルが四角く並んでいるいつもの会議室に入った。既に左奥に浅見警備局局長、その隣に風間特警本部長が座している。浅見がちらりと西条に目配せし、西条は赤星にいつものドア側の辺でなく右側の席を示した。査問とも取られかねないこれからの質疑に、せめて対面を避けた浅見の気遣いに感謝しながら、西条は部屋を辞した。だが、配慮された当の赤星は、黙りこくったまま、まるで人形のように言われた椅子に座った。
「ご苦労だ‥‥」
「浅見さん、風間さん」
まずは労いの言葉をかけようとした浅見を遮るように赤星が顔を上げて二人を見つめ、警察のトップ達は普段のこの男らしからぬ様子に、少し目を見開いた。
「‥‥すみません。オズリーブスはしばらく出動できません‥‥」
謝るというより、かくりとうなだれるような頭の下げ方だった。
「まあ、普通の人間なら寝込んで当然だからな。特に副長の状況は‥‥」
風間が警察病院からFAXされたばかりの医師の所見を手に取りながらそう言う。だが赤星は首を横に振った。
「そうじゃないんです。リーブレスが‥‥壊れて‥‥‥‥」
「なに?」
「リーブロボが破壊された時、ショックで大きなエネルギーが信号ケーブルを逆流して、リーブグリッドがショートしたんです。今、博士達が必死で修理してますが、少なくとも何日かかかるんじゃないかって‥‥‥‥。俺が、もうちょっと早く脱出の指示を出してれば‥‥」
浅見と風間もさすがに押し黙った。
スパイダルの魔神将軍が都内に流した例の映像は民放3局の電波を妨害してもり、送信周波数は180MHz〜210MHz、各地から寄せられた情報から受信範囲は都心から半径20km程度の圏内と推定された。ただ政府が自粛を呼びかけるより早く、各放送局が録画した映像を再放送してしまったので、受信範囲が狭かったことはなんの慰めにもならなかった。
リーブロボが使い物にならなくなったのは事実。だからせめてオズリーブスの健在だけでもPRしておきたい気持ちがあった。だが‥‥。
目の前で俯いた青年の衣服は埃だらけだ。髪も乱れたままで、あまり顔色のよくない頬から顎にかけてうっすらと無精髭が伸びている。何より普段の快活さがすっかりと陰を潜めているために余計に疲弊した感じだった。
浅見が口を開いた。
「赤星。お前達が敵の司令官であるブラックインパルスとその寄生怪物を倒した処までの状況は、オズベースからの報告でわかっている。私はその後のことをきちんと知っておく必要がある」
赤星がこっくりと頷いた。ブラックインパルスと黒羽の関係について葉隠は特警には話さないでくれている。赤星としてもそれだけは知られたくなかった。
「今度の怪人は2体になって巨大化した訳だな?」
「はい。あのファントマっていう新しい幹部の作った仕組みらしいです」
「相手が2体と分かった時、退くという選択肢はなかったのか?」
「既に合体シフトに入ってたし‥‥。っていうか、そうじゃなくたって退けないです。あんなの2匹で暴れたら、M島の施設とか全滅しちまう‥‥」
「だが、あの時、少なくともあの島は無人だった」
赤星が目をまん丸くして浅見を見つめ返した。
「‥‥だから壊れちまっていいってんですか?‥‥」
「いや、そうは言わん。ただ、お前がその時どう判断したのかを知りたい。5人とも強化スーツは解除されていたし、副長はかなりの負傷をしていた。勝算をどう見ていた?」
「勝算なんて! 考えてたのはいつもと同じです。ヤツらが市街地に行かないようにすること。今までだってなんとかそうしてきたでしょう?」
「だが、結果的にリーブロボは破壊され、その上それを心理作戦として利用された。あのあと首都圏の各警察署には問い合わせが殺到して、一時は110番回線も一杯になったぐらいだ。すぐにマスコミを通じて呼びかけて、今は収まっているが、リーブロボが破壊されたことに関しては公式発表せざるを得なかった。事実、怪人が巨大化した時の決め手を我々は失っている」
赤星が視線を落とした。警察病院のロビーにいた人達の様子を思い出していた。いや、思い出したのではない。さっきからその情景だけが頭を埋めていた。男は机上で左の拳を右の掌でぐっと握りしめた。
「‥‥2体になるってわかった瞬間にまずいとは思いました。戦い始めて、普通には勝てないと覚悟して‥‥。でも、せめて片っぽは倒そうと思ったんです。相手にダメージを与えておけば、たとえこっちがやられても、あとの被害が少なくなるはずだって‥‥。確かに俺、相打ちでもリーブロボ壊れても、仕方ないって考えてました‥‥‥‥」
赤星が顔を歪めて浅見と風間を見つめた。
「‥‥昨日‥‥俺たちは象徴だって、言いましたよね‥‥?」
特警本部長の風間が無言で頷く。
「だからって負けるくらいなら退けなんて‥‥。それじゃ何のためのリーブロボなんですか?」
「局長が仰ってるのはそういうことじゃない」
風間が穏やかな声で言った。
「相打ちになれば、その時は良くても後続は防ぎきれん。そのことを君は常に忘れてはならない。極端な話、多少の犠牲を出しても、リーブロボを温存する選択も十分に有り得るのだ」
「‥‥それは‥‥‥‥」
赤星は何か言いかけたが言葉が出てこなかった。2体目のスピンドルが消えていく様を見ながら、では次の怪人にどうしたらいいのか、深淵を覗く気分を味わっていたのは他ならぬ自分自身だった。
「今の日本はスパイダルの巨大化怪人に即時対応できる体制がない。自衛隊法では確かに、国会の承認があれば、自衛隊は武力行使を含む防衛出動が可能だ。だが過去に防衛出動が実際に行われた例は無いのだ。その上、スパイダルは今の法律では同じ組織として同定できないから、新たな巨大化怪人が現れる度に、別個の脅威として国会で承認を取ることが必要になる。法の上では事後承認を前提とした、総理大臣による緊急時防衛出動も謳われているが、実質的にはそれが不可能なことはわかるな?」
赤星としては頷くしかない。OZが国連の機関であることは、日本政府にとっても、最もセンシティブな部分に触れることなく国土を守ることができるというメリットがあったのだった。浅見が風間のあとに続けて言った。
「今回の件で、総理は自衛隊法第76条第1項による防衛出動の承認要請を衆院に提出することになった。私はこれから参考人として永田町に行かねばならない。だからお前の話を聞きたかった。お前を責めているわけではないのだ。戦闘を放棄することが実際は不可能なこともわかるし、もし最初から放棄して、その映像を利用されれば、もっとまずいことになっただろう」
浅見が書類をまとめて立ち上がった。
「あの海域はお前達のおかげで救われた。それ以上に奴らの世界とこちらの世界を繋ぐというとんでもない陰謀を防いでくれた事については、本当によくやってくれたと感謝している。ある意味、日本は、法制度が揃わないツケをお前達に背負わせているとも言えるだろう。だが、リーブロボが破壊され、その上、オズリーブスが出動できない今、対スパイダルに関して、国全体が心理的にも物理的にも非常に不安定になってしまったのは事実なのだ‥‥」
赤星が力無く頭を垂れた。オズブルーンがスピンドルと交戦している隙に各メカを切り離して離脱すべきだったのか‥‥。それとも本当に最初から戦闘を放棄すべきだったのか‥‥。
色々な自省は次に生かす糧なのだろうが、今はただ、それがそこにあるだけで苦しい。何より‥‥。
再度同じことがあった時、適切な判断ができる自信が自分には無くてよけいに苦しかった。
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