★第27話 (7/20)
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「てめーは何をしてたんだ!!」
スプリガンの怒号が響いた。左腕はメンテナンスの最中だ。だからスプリガンは右腕だけでシェロプの胸ぐらに掴みかかった。
「司令官がやられたなんぞ、オレは信じねえっ!」
スプリガンとシェロプを見比べるゴリアントの赤い目も驚きでまん丸に見開かれている。
「スプリガン。シェロプの言っていることは事実なんだ。私が三次元に行った時は‥‥遅くて‥‥」
無言で項垂れたままのシェロプを取りなすように沈痛な声が割って入った。スプリガンはそのよく通る声の持ち主を睨め付けた。
金髪碧眼のこの男‥‥。ファントマという。
暗黒次元に戻る直前、ブラックインパルスの手助けをしている貴族がいるとシェロプから聞いた。貴族階級の中にも、かつての四天王のように素直にブラックインパルスを買っている者がいることは知っていたから、そのうちの一人なのだと思った。元々貴族連中と語ることが大の苦手であった機甲将軍にとって、上司のそういった交友関係は興味の範疇ではなかったのだ。
そしてブラックインパルスのラボで待っていたのがこの男だった。高位の貴族だから言葉に気をつけろとシェロプがさんざん心配していたが、ファントマは想像よりずっと若く見えた。まあ自分の身体を若く作りかえる貴族がいてもおかしくはないから、実際の処はわからなかったが‥‥。
一応礼儀にのっとって頭を下げたスプリガンを押しとどめると、ファントマは明るいブルーの瞳を輝かせ、自分はブラックインパルスを尊敬しているのだと言った。だから自分の財力と人材を彼のために使いたいのだと。
きちんと現場に降りてきて、なのに居丈高に科学者連中を追い詰めるでもない。貴族にしてはまあまあだった。ディメンジョンクラッカーを安定させるため、スプリガンとファントマは十分に協力したと言っていい。やっと出力を安定させたのに、一度ルートが完全に途絶えた時は驚いた。だが、ファントマの科学陣が行った増幅装置の改良が功を奏したのか、それとも3次元で再び空間の歪みが生じたのか、大きな次元回廊が開いた。
驚いたことにファントマは自分が三次元に行きたいと言い出し、メンテナンスが後回しになっていたスプリガンはそれを了解した。あのバイオアーマーを纏った黒騎士相手にオズリーブスが勝てるとは思えない。この若造が行こうが自分が行こうが、もともと「手助け」など不要だとスプリガンは考えていた。ファントマが3次元に向かった直後に次元回廊は再び不安定になって閉ざされてしまったが、それでもスプリガンはまったく危機感を感じていなかったのである。
それが、いったい、なぜ、こんなことに‥‥。
スプリガンは突き飛ばすようにシェロプの軍服から手を放すと金髪の青年に向き直った。半分困惑し半分挑み掛かるようなレンズの反射を、ファントマは正面から受け止めた。
「シェロプは自分が出ると言った。でも参謀は次元回廊を優先せよと命令したそうだ。そのおかげで、どんな歪みを与えれば次元の壁が打ち破れるのかはわかったんだ。ブラックインパルス殿は自らの命をかけて、次元回廊を我々に残して下さった‥‥」
ファントマは黒い軍帽を持った右手でマントを軽く後ろにのけた。
「三次元で作っていたディメンジョン・クラッカーはオズリーブスに破壊されたけど新しいモノを用意させてる。次元回廊をきっとすぐに私たちの自由になる」
「司令官を殺ったのはオズリーブスか。本当にあのガキどもなのか?」
詰め寄る青灰色のボディに、色白の上品な顔がこっくりと頷いた。
「そうだ。だけどこっちもリーブロボを壊滅してやった。奴らの首は確認できなかったけど連中にも相当のダメージを与えられたと思う」
ファントマはゴリアントとスプリガンの顔を等分に見やった。
「巨大化したスピンドル・ゴルリンの働きだよ」
ゴリアントの頬が葛藤に引き攣った。ゴルリンの成功は喜ばしい。だが自分が、ひいてはモンスター軍団がこのスパイダル帝国の中でここまでの場を与えられたのは、ブラックインパルスの取り立てがあったからで‥‥。
ゴリアントはちらりとスプリガンを見やった。鋼鉄の将軍は俯き加減で、左肩の腕の接続部の部品をかちかちとまさぐっている。およそらしくない無意識の行動のようだ。四天王最古参の動揺を見てとったゴリアントは、逆に自分がすとんと落ち着くのがわかった。
生きるものは老いる。どんなに強いヤツだっていつかは老いる。そうしたら、のたれ死ぬか、"喰われる"。それが道理ってモンだ。黒騎士サマにはもう少しだけ頑張っていて欲しかったところだが、こうなったら直接にスパイダル皇帝に軍団の力を見せつけるだけだ。あのカンに触る妙な声の持ち主が、かなりの事柄を直接に「観て」いることは確かなようだ。
ゴリアントは他の人間にわからないようにすっと大きく息を吸った。そして、ブラックインパルスの訃報がもたらされてから初めてになる言葉を吐き出した。
「で? 三次元をもらうってことには変わりはねーんだろ? 今度はオレっちの番だからな!」
スプリガンとシェロプが面を上げて怪物めいた牙将軍の顔を見やる。ゴリアントはかまわずに続けた。
「軍団のヤツだけ作ってサッサと出たかったってのに、てめーやら小娘の持ち駒なんぞ復活すんのに手間かけさせられるわ、チップはトラブルわ‥‥。とにかく! 言われた分のゴルリンは作ったんだ。もうラボに入り浸ってんのはコリゴリだぜぇ!」
シェロプが呆れたように一歩踏み出した。
「だから貴様はバカだと言うんだ。司令官亡き今、同じように作戦が進むと思っているのか? まずは、司令官の代理を決めなければ‥‥」
ゴリアントは突き出た鼻面をぴんと弾き、ぎらりとシェロプを睨め付ける。
「シェロプよぉ。いきなりオレっちが司令官になるってのがムリなのは解ってる。だが、オレはてめーの指図も、そこにいるメカダンナの指図も受けねぇ。となりゃ司令官の後釜なんぞ、オレにはなんの意味もねえ。そーだろ?」
節くれ立った両腕を伸ばすと、ゴリアントは途中から闇に溶けているような高い天井を振り仰いで叫んだ。
「ぜんぶ見てんでしょうが、皇帝陛下!」
「お、おいっ ゴリア‥‥!」
慌てふためいたシェロプがゴリアントを止めようとする。ファントマの白いマントがさりげなくそれを遮った。スプリガンも身体ごと向き直り、喚くゴリアントを見つめている。
「参謀がいねえとなりゃ、オレはあんたに聞くっきゃねえでしょう? ゴルリンはもう4体、完璧になってがす! うち2体を引き連れて出撃する許可を!」
「いいでしょう。頼みます、ゴリアント」
いつものような頭の中に直接響いてくるような音ではなかった。それはすぐ傍、同じ部屋の中から聞こえてきた。シェロプとスプリガン、そして呼ばわった当のゴリアントすら驚いて声の方角を見た。中央司令室の中空に"それ"は現れた。
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