★第29話 (10/12)
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ブラスターを構えた黄龍はいつもの間合いよりぐっと怪人に近づいていた。輝と瑠衣がすぐにそれに倣う。
「誰でもいい! 手伝えっ シェルモードッ!」
黄龍は周りも見ずに喚くと引き金を続けて引き絞った。輝と瑠衣のブラスターも火を噴く。早見と柴田のマグナムがサイドから加わった。モルフィは残った羽を身体に巻き付け、とーんと跳ね飛んで距離を稼ぐ。被弾して弱ったのは確かだが止めではない。ブラスターのエネルギーも刑事達の弾丸も既に尽きた。
黄龍が舌打ちした。バズーカを使わずに倒せればと思ったが甘かったようだ。こうなっては致し方無い。リーブレスに向かってオズリーブスの切り札の名を叫んだ。
「ちょっと、どしたの!?」
「わりいっ!」
驚いたことに寸刻遅れた赤星と黒羽は着装が解けていた。ブレスレットを所定の場所に押し込んだ2人に向かって黄龍は早口で捲し立てた。
「早く離れろっての! グリーン、ピンク! いくぜ!」
この3人でスターバズーカを取り回すのは文字通り「ヘビー」ではあるが無理ではない。いつも中心になる2人を追い払うと、3人の身体にぐっと力が入った。
「ファイヤー!」
きらきらと鱗粉が降り注いだ。相手が何者であろうが、死は常に吐き気に近い圧迫感をもたらす。そこに安堵が重なって、毎度の虚脱感が5人を覆った。
「とにかく、ディメンジョンストーンを‥‥」
黒羽の言葉にバズーカを空に戻した黄龍達が前へ踏み出す。モルフィの残骸はどれも青緑色でストーンが判別しにくかった。
「え‥‥?」
微妙な圧力の変化を感じとった3人の足が止まった。赤星と黒羽もすぐに気が付く。そしてこの異様な違和感を一度だけ体験している早見と田口もあたりをきょろきょろと見回した。
「なんで!? 四天王はいないのに!」
瑠衣が困惑の声を上げる。
「とにかく離れろ! 離れるんだ!」
黒羽が刑事達を押しやるようにした。
「ガーディアンを!」
赤星がリーブレスを口元に上げた時、黄龍が叫んだ。
「あれ!」
ばらまかれた肉塊ががたがたと動き始めている。その中心にぼやりと人影が浮かび上がった。亜麻色の一枚布で身体の全てを覆ったその細長い肢体。頭部の布を取ると銀髪がこぼれ、血色の瞳が無表情に光を反射した。白い顔の中で薄く赤い唇がにっと孤を描く。
「我の身体をあんなに削って‥‥。あちこち足りなくて、戻るのに手間取った」
現れたナクアは大分背が低くなっていた。手を挙げるとその甲がぱくりと割れ、内部に禍々しい光を放つ石が覗く。ディメンジョンストーン制御装置。三次元で死んだ怪人を巨大化させるための装置だ。
「モルフィ。早く大きくなーれ」
老婆が少女の声色をしているような奇妙に無表情な声だ。
「お前は‥‥。何者なんだ!」
「我は夢織将軍アトラク=ナクア」
「夢織将軍? アラクネーと同じ‥‥?」
輝が疑問をそのまま口にする。ナクアが唄うように言った。
「アラクネーは死んだ。死んだ。もういない‥‥」
既に頭痛を引き起こすほどに耳鳴りが酷くなってきている。モルフィの破片は再構築され始め、ナクアの姿はまた消えていく。金属を摺り合わせるような不快な音が伝わってきた。5人は急いで遠ざかりながら、なぜかそれをナクアの「笑い声」と感じた。
合体したまま飛んできたガーディアンの巨体が爆音を響かせて下りてきた。初出動の時は間に合わなかったリーブ・トレーラービームも完備され、操縦席にダイレクトで引っ張り上げて貰えるようになっている。しかし‥‥。
「このカッコじゃトレーラーに乗れねえ。3人でやってくれるか?」
赤星が謝罪と悔しさの入り交じった顔で黄龍と輝、瑠衣に言った。トレーラービームはリーブ粒子によって構成されたスーツを引っ張りあげるもので、着装していない赤星と黒羽では使えない。もちろんペッカーから搭乗することも可能だが、動き回っているロボットの内部を生身の状態で移動するのはこの2人にしても少々難儀な相談だった。
「お任せ!」
明るい声で応じた3人は黒い巨人の3カ所のコックピットから発せられる光のエレベーターを上っていく。瑠衣はペッカー、黄龍がレヴィン、そして輝がオウルへ。
「神様。瑛ちゃんが無謀な操縦をしませんように‥‥」
黒羽がこっそりとそう呟き、赤星は思わず脱力した。
巨大化したモルフィは自分の前に立ちふさがった鋼鉄の巨人に向かって大きく羽ばたいた。マグネシウムのような鱗粉がガーディアンに降り注ぐ。ガーディアンの全身がばちばちと火花を散らした。
「センサーが!!」
瑠衣の前に並ぶたくさんのモニターの全てがぶつりと途絶えた。瑠衣が慌ててオズベースの指示を仰ぐ。そこに激しい衝撃が加わった。モルフィがエッジのついた青い羽をぶん回したのだった。
「このやろう!」
黄龍は右足を一歩だけ下げて安定度を上げるが、周りの状況が判らず動けない。
<メインモニター復旧!>
瑠衣の声が響くと同時になんとか正面のモニターが復旧した。同時に3人のリーブレスから赤星の声が飛び出した。
<奴を止めろ! 触角だ!>
メイン・モニターの中でちょっとだけ後退した巨大モルフィがくんと背を逸らして触角を伸ばしかけている。この状態でコントロール波を発せられたら大変なことになる。だが輝は攻撃の間合いから敵の次の手を読んでいた。
「早くなるヤツOKっ! 間に合うっ!」
<よっしゃ!>
黄龍がぐんとスティックを押し込む。
「オーバードライブ!」
ガーディアンはあり得ないスピードで間合いを詰めると両手でモルフィの頭部を押さえた。輝は既にオーバードライブを切り、リーブ砲のチャージに入っている。
「リーブ砲充填あと2秒!」
モルフィはめちゃくちゃに羽を動かし、ガーディアンの身体のあちこちで再び火花が散るが巨人は手を放さない。
<チャージ!>
「ファイヤー!」
ガーディアンの左手からエネルギー流が噴出しモルフィの頭部が吹き飛ばされた。だがまだ動きは止まらない。鋭い羽のエッジを振り回して警察署の上部を思い切りぶち壊した。
「イエロー! 早く消滅させないと!」
正面と左右の広角カメラの回線をなんとか保持している瑠衣が叫ぶ。
「飛ぶヤツもOKだよっ!」
輝の手回しは完璧である。
「ガーディアン、テイクオフ!!」
変形して三角翼を広げたガーディアンがモルフィを抱えたまま一直線に上昇する。
「あとは薙刀だっけ? それもOK‥‥」
「リーブランス! 適当に呼ぶと気ぃ抜けるっしょ!」
黒い手の中からぐんと伸びた槍の刃先がモルフィを貫く。ガーディアンは上昇のスピードを上げ、槍ごと巨大な怪人をもっと上空に投げ上げる。自分はすっと脇にスライドして離脱した。
ずんとくぐもるような爆発音が起こり、空高く放り出された青い巨大な蝶は内部から高準位のリーブ粒子に焼灼され尽くした。
「やるなぁ、3人とも!」
ガーディアンを見上げた赤星が感嘆の声を上げた。
「まあまあ、ですかね」
黒羽もまんざらでもなさそうだ。
「お前ら、いつ引退してもよさそうだな」
柴田がぼそりと言った。早見がにやにやしながら2人を見やる。
「いっそ特警に来いや。こきつかっちゃる」
「ヤですよ! 警察勤務なんて、俺、絶対無理‥‥」
「でも、いいとこッスよ! アカさんもクロさんも気に入るッスよ、きっと」
かなり本気でそう言う田口の肩に、西条がポンと手を置いた。
「ストップ。よりによってこの2人スカウトして本部長の心配事をもっと増やす気か? 今のメンツだけで十分だろう?」
そりゃ無い! いや全部お前が悪い!と騒ぐ男達のもとに島がやってきた。
「実験は成功ですよ、赤星さん」
「え! ホントですか!」
島がさっきSPロボを回収していた場所に歩いていく。あとの連中もそれに続いた。テントは引き倒されて段ボールの山も崩れていたが、3つあった段ボールのうちロボットが暴れたのは1つだけなのがよくわかる。島はテーブルに並べた3つの装置を示した。記録された電磁波振動の状況がプリントアウトされている。
「偽エンブレムを貼られたSPロボは、あの怪人が出てきた時、異常な電磁波を発していて、実際に暴れ出しました。でも正しいエンブレムを貼っていたSPロボと、偽エンブレムを貼られていたけどきちんと剥がした分は、問題ありませんでしたよ」
赤星が心底嬉しそうな顔をした。
「よかった‥‥。これでほんとにエンブレムだけって証明できましたね。あんな状況で、きちんと計測して下さってありがとうございました、島さん」
「いやー。僕としても、せっかく声を覚えさせたSPロボ、破棄したくなかったですから」
「え‥‥。島警部補。もしかして‥‥」
黒羽の問いに島はまるで少年のような笑みを浮かべた。
「プレミアムが出るたんびに買ってたら10体ぐらいになっちゃって‥‥。忙しいんでまだ3体のマスターにしかなってないんですけど‥‥」
特警の先輩たちは呆れまくり、赤星と黒羽は大笑いして島に握手を求めた。
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