★第29話 (3/12)
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「なんだ!?」
着装した5人が太平ジョイパークの駐車場に飛び込むと、突然頭上からきらきらと光る粉が降ってきた。
「待ってたわよ、オズリーブス」
鱗粉をまき散らして5人の頭上を飛んだ細身が5人の前にすっと着地する。青い金属光沢を放つ蝶もどきの大きな羽が目に鮮やかだ。頭部は短毛で覆われ四方に黒い大きな複眼。小さく丸い口とおぼしき器官。それは青い羽をドレスのように身体に巻き付けると、細い腕をあげて優雅な一礼をしてみせた。
「初めまして。あたしはスパイダル諜報部のモルフィ」
特異な暴動事件が起きた区域の観測ログから、ディメンジョンストーンが発する特殊電磁波が観測された。そうして電磁波走査の密度を上げたところで、この場所に怪人が出現したのだった。
「スパイダル! 今度は何を企んでやがる!」
「アンタたちを待ってたって、言ったじゃない」
「なんだと? みんな、気を付け‥‥」
黒羽の言葉が終わらないうちに、ゆらゆらとしだれていたモルフィの触角がぴんと伸び、金属を引っ掻くような高音が発せられる。だがすぐにその音は消え、今度は脳髄を細かく揺さぶるような不快な振動があたりを埋めた。
「ぐっ!」
「あ‥‥頭が‥‥」
5人が思わず崩れる。だが周囲からはもっと大きな悲鳴があがった。駐車場に面している玩具の量販店から、まだ待避しきれていなかった従業員や警察官ら20人ほどが頭を押さえながらのたうつように飛び出して来る。
「プ‥‥プロテクト・モードを‥‥っ」
皆がバックルのスイッチに手を伸ばす。低周波数の音波が彼らのスーツを覆い、幸いにも妙な振動は遮断された。プロテクトモードも負担だが慣れている分全然マシである。
「大丈夫ですかっ」
輝と瑠衣が転がり出して地面に踞った人達に駆け寄る。黄龍はその様子を見て不安げに呟いた。
「もしかして、これ‥‥」
「特警に連絡頼む!」
それだけ言って赤星は怪人に向かった。そのすぐ左後ろに黒羽。決め手になる黒羽の右腕を敵から隠すこのスタイルは2人が最も得意とするコンビネーションだ。何も言わなくていい。狙いは触覚だ。
怪人がばさりと羽根を広げたが、赤星がその細いボディを抱き竦めて飛ばせまいとする。その頭部めがけて黒羽のブレードが滑り込んだ。完璧なタイミング‥‥‥‥。
「なっ!?」
黒羽がぎょっとした声をあげた。ブレードが動かない。受け止めているのは青白い三本指の手。掌から腕にかけて刃が深くめり込んでいるのに一滴の体液も滲み出でいない。まるで粘土に切り込んだようだ。舌打ちした黒羽と赤星が引き下がる。
「ナクア様!」
不気味な手の持ち主はモルフィの背後に立ったひょろ長い人影。それがゆらりとモルフィの前に出てきた。手足は石灰のように白い。胴の部分は灰白色のウロコか甲羅のようなもので覆われている。身体にまとわりついて足元まで届く髪は銀色。白い顔に血で満たされたガラス玉のような目‥‥。
「これは粗野な目的で作られなかった。だから我がお相手する」
ナクアと呼ばれたその怪人は言葉を発したが、クレヨンで書いたかのような薄く紅い唇は微動だにしない。
「‥‥気っ色悪ぃ‥‥‥」
合流した黄龍が呟く。人々の呻き声が大きくなっている。
「とにかくあの青い奴を! この音を止めるんだ!」
3人がリーブラスターを構えた。
「シェルモード!」
ナクアがすっと移動して3つの光弾を受け止める。白いボディがぐにゃりと湾曲し、エネルギー流をあらぬ方向にはじき返した。
「なんだと!」
白い怪人は身体のあちこちをめこめこと凹ませたまま、淡々と音を出した。
「モルフィを狙うことは無意味」
「なに?」
瑠衣が叫んだ。
「なんなの、あれ!?」
玩具店のほうから何か小さなものが押し寄せてくる。立ち上がった輝が一歩そっちに近づいて叫んだ。
「まさか‥‥SPロボなの!?」
近寄ってくるのは大きめの車の玩具だ。ボンネットにSPという文字をデザインしたエンブレムがついている。5種類入り交じって30台ほどが、かたかたと近寄ってくる。
と、モルフィの2本の触角が摺り合わされて、リーンという済んだ音が発せられた。それを合図に従業員達がゆらりと起き上がり、いきなり瑠衣と輝に掴みかかってきた。
「きゃあっ」
「わわっ 何するのっ」
「まさか、あの玩具が何かしてるのか!?」
黒羽の言葉で黄龍がブラスターを小さな車達に向ける。だが人々が3人にまで押し寄せていた。
「やめろっての!」
「呼びかけてもムダだ! 気絶させるしかない!」
操られた人々がわらわらと手足にすがりついて来る。なんとか怪我をさせないように2人の意識を奪った赤星のすぐ傍にナクアが滑り込んできた。振り上げた手は鉈のような形状になっている。それが無造作に振り下ろされた。
「やめ‥‥! ぐっ!」
思わず側にいた警備員を庇って背中で数撃を受けた赤星が向きを変えた時は、怪人はもう仲間の方に移動していた。
避ければ一般人を巻き込む。だがナクアと組み合うと、今度は人々がまとわりついてくる。オズリーブスにとっては最悪にやりにくい状況になった。
そこにサイレンの音とともに4台の車が到着した。白いジープと赤いルノー、そしてパトカーと桜の紋の入った大型車。ジープから特警の早見瞬。ルノーから降り立った金髪碧眼の青年はジャン三上だ。そしてその助手席からは貴公子、島正之。
「待たせたな!」
彼らは3人の警察官と共に一般人の身柄の確保に入った。
ナクアがすっと後退した。
「モルフィ。我のもとへ」
いつのまにやら洒落た照明灯の上に逃げていたモルフィが、ナクアの傍に降りてきた。その触角が今一度摺り合わされ、5人が飛び出した。
「止めろっ!」
「また会うだろう。もしお前達が生きていれば」
その言葉を残して、ナクアとモルフィはすっと消えた。
「いったい何ネ!」
怒声に振り返ると、ロボットが変形したSPカーがわらわらと走り回り始め、刑事達が足をとられそうになっている。と、そのうちの1台が5人の近くにやって来た。
「どういうことだ?」
黒羽が訝しげにその脇に膝をつく。だが、伸ばしかけた手がぴたりと止まった。いきなりその玩具をはねのける。SPカーは驚くほど大きく爆発した。
「なんなんだっ」
「他のも来るよっ!」
既に十数台がぞろぞろと5人と所に集まりつつある。
「オレたちを狙ってる?」
「空いてるとこに散れ! みんなや車から離れて潰すんだ!」
駐車場の奥の空いている場所に向かって5人が動き始める。警察組の周囲にいた全てのSPカーが自分たちに引きつけられたことを確認してだっと走り出した。瑠衣のすぐ右後ろに居た黄龍が、瑠衣を追う玩具を掃射する。数台がまとめて爆発し、かなりの爆風が起こった。だが、その隙に黄龍の背中でSPカーが飛びついてくるように爆発した。
「イエローっ」
吹っ飛ばされた黄龍に瑠衣が慌てて駆け寄る。
微妙な距離を保ちながらSPカーを引きつけつつ、なお周囲を見回す余裕のある輝は、赤星が立ち止まったのを見て驚いて叫んだ。
「リーダー、どうしたのっ!?」
赤星がいきなり着装を解く。と彼を追っていたミニカーが戸惑うように立ち止まった。
「やっぱりか!」
待ちかまえていた黒羽が1台だけ残して残りを撃ち壊した。
「こいつら、スーツについた鱗粉を追ってくるんだ!」
スーツは解除のタイミングで付いた不純物を消滅させてしまう。今度は輝が叫んだ。
「みんな、着装を解いてっ 早く!」
「ミド、何を‥‥!」
「オレに任せて!」
ただ一人だけリーブスーツを着た輝が皆の間を縫うように走り回る。後続のSPカーも全てがその小さな身体を追いかけ始めた。
「輝っ」
「やべぇぜ、まとめて爆発したら‥‥!」
「輝さん!」
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