★第29話 (5/12)
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「もうちょい先か」
黄龍瑛那は電信柱の住所表示と手元のメモを見比べる。伊藤敏という名と住所。見慣れた達筆は黒羽のものだ。
<開発の主要メンバーには警護が入ってるそうだが、伊藤博士は最重要人物だからな。瑛ちゃんにはガードを頼むって、隊長さんのお達しですよ>
今朝黒羽からそう言われてこのメモを手渡され、伊藤の家に向かっているところだった。
赤星と瑠衣は葉隠や田島と共に酉井に行ったそうだ。実際に怪人に操られたからにはあのロボットには何かがあるはずなのだ。だがそれがわからない。黒羽は輝をつれてSPロボの納入業者の方の聞き込みに回っているだろう。
SPロボの回収は相変わらず続いている。各警察署では鉛の大型コンテナを用意してそこにロボットを収納している。回収場所に大事そうにロボットを預けに来る子供も居るが、ゴミ収集場所に捨てられたロボットも多数あるらしい。
昨夜のニュース。記者の質問に答えている伊藤を見て、翔平がもしこれを見ていたら‥‥と思ったらたまらなかった。父親がテレビで吊し上げを喰らってる図など、子供にとったら最悪だ。少なくともかつての自分にとっては‥‥。
黄龍は何かを振り払うように髪を掻き上げて頭を振ると、早足で歩き出した。
===***===
「うーむ。何かヘンじゃのう‥‥‥」
葉隠暁紘がテーブルに肘をつくと手を組んで顎を載せる。
「なんか判ったんですか!?」
ここは酉井の工場内の実験棟だ。最新の計測設備が揃っている。葉隠は分解した部品や図面をチェックし、伊藤や田島に次々に質問していたが、暫く前から黙りこくっていたのだ。灰色の脳細胞がフル回転モードに入ったことを知った伊藤と田島それに赤星と瑠衣は、足音や声にも気を付けて計測を続けていたのであった。
「いや、どう考えても全く問題なさそうじゃ。そう思わんか?」
「だから困ってんじゃないですか〜〜〜!」
がくっと突っ伏した赤星にはかまわず、葉隠は穏やかに続ける。
「となると、じゃ。もっと別の視点が必要なんじゃないかの?」
「別の‥‥と言われますと‥‥?」
「たとえば塗料の成分とか」
「そんな馬鹿な!」
「いや‥‥相手はスパイダル、我々の常識が通用する相手じゃありません」
驚きの声をあげた伊藤に田島がそう言った。
「伊藤博士。この子たちの色って、やっぱり博士の会社で塗ってるんですか?」
瑠衣の問いに、伊藤は組みあがったばかりのSPロボを手にとる。
「殆どは樹脂パーツの色のままで塗装はしてないんです。でもほら、このあたりの金色の部分はあとから仕上げないとダメで。仕上げから梱包まではダンバイのラインなんですよ」
「あー、でもダンバイの方も、昨日からさんざん調べてるけど、なんも出てないって、今朝西条さん言ってたしなぁ!」
赤星が頭をがしがしと掻いてふうと溜息をついたところでノックの音がした。入ってきたのは特警の風間本部長だった。風間は軽い会釈をすると単刀直入に切り出した。
「伊藤博士。残念ですが現在回収しているロボットは処分する可能性が高くなりました」
「ええっ!?」
「だって今、預かりって形で回収してるんでしょう!?」
「事件が解決して、原因究明が終わったら、同型のものをお返しすることで代替する。こちらも在る程度の予算は確保したが、酉井にもダンバイにも在る程度の損失が出るだろう。幸い両社の経営陣が納得してくれた」
「子供達が預けにきてるの、同じ型返しゃいいってもんじゃないんですよ? あれはそれぞれ持ち主が育てたロボットで‥‥」
「"育てた"ではない。"学習させた"に過ぎない。やり直して貰えばいいだけだ」
「風間さん!」
「竜太、やめなさい。安全を考えれば仕方の無いことじゃろう」
葉隠はそう言って、風間の顔を見上げた。
「処分はいつから?」
「準備でき次第、まずは廃棄されたものから順番に取りかかります」
「なるほど。では、伊藤君、儂たちも急がなければなりませんぞ」
部屋にいる全員が思わず葉隠の顔を見つめた。
「SPロボを全部処分するには時間がかかる。まさかその場でスクラップにするわけにもいかんしの。原因が分かれば3割は助かるかもしれん。うまくすれば6割を救えるかもしれん」
「はい!」
4人の声がぴったりと揃った。
===***===
伊藤翔平と高野大輝が急ぎ足で歩いている。もう学校に行っている時間なのに私服のままだ。
「おい、翔平、それホントかよ?」
「僕だって自信あるわけじゃ‥‥。でも、この間事件のあった大平ジョイパークのSPロボも違ってたんだ。それでSP07S、せっかく出てたのに買うの止めたんだもん」
「げ、じゃ、じゃあオレのダイロンは? あれはみどりやで買ったんだけど‥‥」
「ダイロンは大丈夫だと思う。ヘンなとこ無かったか‥‥‥‥あ‥‥この前の‥‥?」
翔平と大輝は長身の青年が近寄ってくるのを見て立ち止まった。黄龍はよっと手を挙げて笑ったがすぐに真剣な顔になった。
「今、言ってたこと、詳しく聞かせてくんない?」
2人の少年は目をぱちくりする。大輝が訝しげに言った。
「えとさ、あんた、どういう人なの?」
黄龍が懐から佐原探偵事務所の身分証明を出した。
「探偵さん。警察から頼まれて、今度の件を調べてるとこなの。君のお父さんが酉井の伊藤博士だってわかった時は驚いたけど、これも何かの縁っしょ」
翔平と大輝は顔を見合わせる。大輝がちょっと頷くと、翔平が話し出した。
「大平ジョイパークにあったSPロボって、エンブレムが正規品じゃなかった気がするんです」
「エンブレム?」
翔平がごそごそと手提げ袋からSPロボを出した。先日見た大輝のロボットより一回り小さい。色はシルバーだ。翔平はロボットの肩に接着されているエンブレムを指さした。碧い縁取りにやはり碧でSPというロゴがデザインされており、型番号とシリアル番号らしきも入っていた。
「これがダンバイの正規エンブレム。で、大平ジョイパークのは何かちょっと違う感じでヘンだなって思って。あとで父に聞こうと思ってたんだけど‥‥」
「ちょ、ちょっと俺様にも見せて」
黄龍はロボットを受け取った。翔平が示したシールはシリアル番号も入っているしっかりしたものだった。模造品対策のライセンスでもあるのだろう。もしこんなものに秘密があるのだとすれば、本体をいくら調べても分からないはずだ。考え込んだ黄龍を見ながら翔平が続けた。
「父に連絡とろうとしたんだけど、会社に電話しても話し中だし、携帯も繋がらなくて、これから父の会社に行ってみようと思ってるんです」
「でもさ、翔平。お前のオヤジさん、今警察とかに行ってんじゃないの? だって昨日のニュースで‥‥」
「そんなの、わかんないよ!」
翔平は大輝を睨むように見つめ、大声を上げた。
「SPロボが悪いんじゃない! 完成品にニセのエンブレムを貼ったヤツがいるんだ! 父さんがスパイダルに利用されるようなもの、作るはずないだろ!?」
「‥‥‥‥だよな。そうだよな‥‥」
声を荒げた翔平も、そして普段静かな友人の反応に驚いた大輝も、思わずじっと黄龍を見上げる。
「ちょっと待ってみ」
黄龍は携帯を開くとちょっと少年たちから離れた。
「ああ、赤星さん? 伊藤博士の息子さんが興味深いこと言ってる。昨日のロボットはエンブレムが偽物だったらしいんよ‥‥。‥‥だろ? 可能性大アリ。‥‥まあね‥‥。普通気づかないやね‥‥。それでこれから翔平君を博士のトコに連れて行きたいんだけどさ。今、どこいるワケ?」
黄龍は目をまん丸くしている二人の少年ににっと笑いかけると、携帯に向かって言った。
「できたらお父さんに直接話してもらえると有り難いんだけどなー。このまま連れてくったら、俺様、誘拐犯みたいっしょ?」
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