★第29話 (6/12)
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太平ジョイパークの玩具店"ばぶらんど"は全国にいくつもの支店を持つ大きなチェーン店だ。事件当日はSPロボのキャンペーンをやっていて、普段より多くのSPロボがパッケージから出されて展示されていた。とはいえ今や客の暴動のせいで店内はひどい有様だった。
壊されてごちゃごちゃになった商品の山の中で青年が一人動き回っている。背広が少々だぶだぶした感じがして、いまいち決まらないのは、その若い青年が瞳の大きな人形のような顔つきだからだろう。
とはいえ翠川輝の表情は真剣そのもの。壊されてごちゃごちゃになった商品の山の中から、もはや空き箱になってしまっているSPロボのパッケージを次々と引っ張り出した。事件の時に暴れ出したSPロボのものだ。奥のほうに数個、まったく無事な箱があった。中にはまだ商品が残っている。つまりこれだけがスパイダルに"操られなかった"らしい。
輝は空き箱と正常な箱を見比べる。手近なレジカウンターからセロテープを持ってきて、壊れた箱を器用に修復し、元のイメージが分かるようにする。そこに話し声が聞こえてきた。
「うちのSPロボのエンブレムが偽物だなんて、いったい何を証拠にそんなことを?」
黒羽健と並んで歩いてくる店の責任者は流石に機嫌が悪そうだ。
「偽物だと決めつけてるワケじゃないんですよ。ただ、そういう情報が寄せられたので。マニアの目ってのは時にプロ以上ですからね」
黒羽も輝同様ごく普通のスーツ姿だ。人から何かを聞き出そうとするときは、身分証以上に服装や物腰がモノを言うことを黒羽はよく知っている。
「あの、すみません」
空箱と中身の入ったものと、二つの箱をかかえた輝がやってきた。
「まだロボットが残ってる箱が少しあって。ほら。パッケージが少し日に焼けた感じでしょっ? 空き箱のほうはそんなこと無いから、最近仕入れた分がおかしくなったってことじゃ‥‥」
店長は輝が元の形に戻した空き箱を手にとってじっと見つめた。黒羽がそっと言った。
「ご存じとは思いますが、これらのロボットはスパイダルの怪人の操作によって人を凶暴化させ、その上、爆発する可能性もある。小売店にとって仕入ルートが重要なのはわかりますが、ぜひご協力頂きたいのです」
店長は黒羽と、そして輝の顔を見つめると、ふうっと息を吐いた。
「わかりました。実は最近、ある輸入業者と取引をするようになって‥‥‥‥」
===***===
「なんかあったみたいですね」
タクシーの運転手がそう言う。少し前から車が渋滞して動かなくなっていたのだが、警官が何人も走っていくのが見えた。
「ったく、もう少しだってのに、なんなんよ‥‥」
伊藤翔平の父親はもう2kmほど先にある酉井の工場にいるはずなのだ。助手席に乗っている黄龍がぶつくさ言った時、彼の携帯が振動した。
「ああ、瑠衣ちゃん。どったの? ‥‥うん‥‥。え、なんだって?」
黄龍が急に驚いた声をあげたので、運転手も、後部座席にいた2人の中学生も目を丸くした。
「俺様、いまその近くにいるトコ。翔平君たちも一緒だけど、タクシーで立ち往生しちゃってさ。わーった。じゃあ、車降りてそっち行くワ」
黄龍は携帯を閉じると、身体を捻って、後ろの伊藤翔平と高野大輝と隣の運転手を見やった。
「近くの警察署で、親に引っ張ってこられた小学生が4人、ロボ取られるの嫌がって逃げ出したらしい」
「えーっ!」
「んでもって近くの火の見櫓に上がり込んじまったってから‥‥もう‥‥」
「すげぇ。小学生のくせして、やるじゃん!」
「感心してるバアイかよ! とにかく、運転手さん、ここで降りるよ。いくら?」
タクシーを降りた黄龍はきょろきょろとあたりを見回すと、ゲーセンを見つけて指さす。
「悪いんだけどさ。ちょっと‥‥」
「待ってるなんて、やだよ。オレたちも行くぜ。いいだろ?」
「いや、でもさ‥‥」
「オレだってまだSPロボ、警察に持ってって無いんだ。お袋には嘘ついてて‥‥」
黄龍は開きかけた口を閉じた。大輝の瞳は熱を帯びている。
「だから。オレも行きたい」
「僕も行きたい」
翔平も言った。2人は真剣な顔で黄龍を見上げてくる。黄龍はふうっと溜息をついた。
「わかったよ。じゃ、俺様からはぐれないように頼むぜ」
「おう!」
騒動に向かって早足で歩いていく3人。周囲には泣きべそをかいた子供の手を引いて現場から離れようとしている母親やら、逆に野次馬根性丸出しで騒ぎの方に向かっていく大人達。それらをかき分けつつ警察署の敷地に踏み込んだ。敷地の中にはまだ多くの野次馬やマスコミの人間が居た。
「瑛那さん! あ、こんにちわ。この間はどうも」
「こ、こんちわ‥‥」
周囲が異常な雰囲気になっているのに、現れた桜木瑠衣の声は穏やかで、大輝も翔平も面食らったような表情を浮かべた。
「状況は?」
「親御さんとか一生懸命説得してるけど言うこときかなくて。でも本部長さんも無理なことはしたくないって」
「そりゃ、これだけ人の目があっちゃね。ブン屋さんもいるしな」
「それで‥‥」
瑠衣が背伸びすると黄龍の耳元で何かささやいた。黄龍の顔が不快そうに歪んだ。
===***===
「俺が‥‥?」
パトカーと警官と私服刑事に囲まれた空間。赤星は肩越しに言葉を投げてきた風間にそう問い返していた。空を見上げれば3階建てほどの高さはある古びた火の見櫓に4人の子供が座り込んでいる。もう1時間ほど経っただろう。小学校の3〜5年生で、うち2人は兄弟なのだそうだ。
風間はくるりと向き直ると派手な制帽の鍔の下から赤星をまっすぐに見つめ返した。
「そうだ。キミに‥‥レッドリーブスに、あの子達の説得を命じる。オズリーブスが表に出れば、これからの回収もスムースになるだろう」
赤星は言葉に詰まった。集められたSPロボは子供達に返されない可能性が高くなっている。早く安全な場所で処分した方が安全なのは確かだ。だがSPロボはただのモノじゃない。特に子供達にとっては一個の人格を持った友達だ。敢えて言えば自分にとってのサルファのような存在‥‥。
数日前、出会った少年たちの顔がちらつく。自分のロボットが壊れてないかと本気で心配していた。そして事件の解決に大きな糸口を見つけてくれた偉大なる小さなマスター。彼のお陰である業者を経由したロボットだけが問題なのはわかってきた‥‥が、それらを分別する時間などないだろう。
「スパイダルの罠が仕込まれたロボットだ。いつ、何が起こっても不思議はない。怪人の信号によってはいきなり爆発する可能性もある。だから一刻も早く回収しなければ」
「‥‥はい‥‥」
風間の言うことは判る。判るが身体が動かない。たまたま近くにいてこちらに回されていた特警の三上が少し苛ついた声を上げた。
「もう‥‥。早くしなきゃ駄目ネ。そーゆーのも隊長の仕事ネ」
赤星が大きく息を吐いて、着装するためにその場を離れようとした時、一人の私服刑事が、伏し目のまま、すっと赤星の前に出てきた。
「お前さんには演技は無理だな」
「‥‥あ、お、お前‥‥?」
黒羽健はいつもながらの茶目っ気たっぷりの眼差しで赤星を見やると、人差し指でとんとんと親友の胸をつついた。
「ホンネで行けや。それしか出来んだろ?」
赤星は珍しく少々自信のなさそうな笑みを浮かべると、それでもぽんぽんと友の肩を叩き、人の輪を抜け出ていった。
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