★第29話 (7/12)
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ざわりと、無言の驚きが人々に伝搬した。誰に命じられたわけでもないのに人群れが自然に割れる。その中を強化スーツを着た男が一人、進み出た。
化け物と戦うための存在が、こんな人混みの中にいるのが不思議な感じがする。それでも大人達のざわめきは遠慮がちに引いてしまい、目に映った者の名をはっきりと言葉に出したのは、櫓の上の子供達だった。
「レッドリーブスだ!」
「うそ? ホンモノなの!?」
「ああ、レッドリーブスだ。君たちに降りてきて欲しいんだ」
2人の5年生のうちの片方が言った。
「嘘だよ。警察の人が変装してるんだ」
「嘘じゃない。俺達がこの前、怪人に逃げられちまったから、こんなことになってる。ごめん」
子供達は自分たちに向かってぺこりと頭を下げたヒーローの姿に目を丸くした。

「でも、今はとにかく降りてきて、そのSPロボを渡して欲しい。スパイダルの怪人はそのロボットを通して君たちを暴れさせたり、爆発して‥‥」
「もう何度も聞いたよ、そんなの!」
一番背の高い少年が叫んだ。少年は持っていた箱をぐっと突き出す。
「大人はボクたちのSPロボを壊しちゃう気なんでしょ?」
「ママは警察に持って行かないなら捨てるって言った。だから持ってきたけど、お巡りさん達、乱暴だし、早く早くって‥‥。きっと返す気なんか無いんだ!」

口々にそうだ、そうだと言い出す子供達に向かって、レッドリーブスは少し大きな声を出した。
「ちょっと待って! 頼むから俺の話を聞いてくれ!」
子供達が黙る。オズリーブスのリーダーは一度だけ深呼吸をして話しだした。静かな声だが、それは厚い胸で共鳴してよく通った。
「今、SPロボを作った博士たちがスパイダルがどうやって操ってるのか必死で調べてる。悪いトコがわかりかけてきたけど、全部のロボを直すには時間がかかる。それまでに怪人が出てきてSPロボが爆発したら、近くにいた人はきっと大ケガする。君たちみたいなSPロボのマスターとか、そのお父さんやお母さんもだ。それでもいいのか?」
櫓に上った一番年下の子が、赤いロボットを抱きしめて泣きそうな顔で言った。
「やだ‥‥。でも‥‥。アーサーが死ぬのも、やだもん‥‥」

「アーサーは死なない。そのために警察に預けるんだ」
「え‥‥?」
子供達が意外そうな顔をする。
「警察でSPロボを入れてるコンテナは鉛が入ってて電磁波を遮断する。スパイダルの電磁波に100%効くかどうかは保証できないけど、ある意味、君たちの家に居るより安全なんだ。俺にもロボットの友達がいる。俺はみんなを護ると同じようにSPロボも護りたい。そのためにあの怪人を倒す。だから降りてきて、SPロボを預けて欲しい」

あたりがしんとなった。5年生の1人が一番年下の少年の肩をそっと叩くと、弟のSPロボを受け取って梯子のほうに促した。少年はおっかなびっくりで梯子を下り始め、待ち受けていたレッドリーブスの腕の中にしっかりと抱きとめられる。そうして子供達はつぎつぎに地面に降り立った。


===***===

人垣に遮られて大輝と翔平に見えたのは櫓の上の小学生達だけだった。でも、彼らとレッドリーブスが何を言っているのかは聞こえたし、子供達が全員梯子を下りたのもわかった。大輝は緊張から解放されてふうーっと息を吐き、友達を振り返った。だが翔平は布袋の中のSPロボを抱えるようにして俯いている。
「翔平、どした?」
「僕‥‥」
「なに?」
「僕も、預けるよ。ナイトも‥‥ほかのみんなも」
「え? だってお前のSPロボも大丈夫って言ってたじゃん?」
翔平は困ったような、でも半分は嬉しそうな、そんな笑顔で友人を見る。
「やだなぁ。エンブレムがヘンって、僕がそう思っただけで、正しいかどうかわかんないんだよ?」
「でも、翔平君。翔平君の案、かなり当たってるみたいよ。それでも預けるの?」
瑠衣が小柄な翔平の顔を覗き込むようにしてそう言った。翔平はこっくりと頷く。
「さっきレッドがSPロボも護りたいって言ったよね。ちょっとびっくりした。大人はいつも人間のことしか考えてないって思ってたんだ。でもオズリーブスがSPロボを守りたいっていうなら、僕はそのオズリーブスを信じたい。信じるなら、ロボを預けなきゃ、ずるい気がして‥‥」

「それもそっか‥‥。よーし! オレもダイロン持ってくる‥‥と、と‥‥」
走り出そうとした大輝が思いついたように黄龍を見上げると、ぱっと掌を広げた。
「アニキ。家に帰るタクシー代くれよ。道混んでるといけないから多めだと助かるぜ」
調子のいいアニキ呼ばわりに黄龍はちょっとコケた。
「そこまで焦んなくてもいいっしょ? ちゃんと俺様が送るって‥‥」
「あーっ!」
「なんだっての!」
黄龍が大輝の視線を追って振り返った。そこに居たのは有賀浩二。先日大輝と翔平をからかっていた少年達の一人だった。
「浩二! なんでこんなとこ、いんだよ!」
「かんけーねーだろ!」
浩二は持っていた手提げ袋を大輝たちから隠すようにして歩み去ろうとした。

「ねえ。ちょっと待って」
瑠衣の言い方は毎度のことながらふわりとしている。日頃悪ぶっている中学生も思わず立ち止まってしまった。
「もしかして、持ってるの、SPロボじゃない? 届けにきたの?」
「お、オレのじゃねーよ! 弟のだよ!」
「へー。ホントかよ、浩二。案外お前も、隠れ‥‥いてっ」
浩二をからかおうとした大輝の頭をはたいたのは黄龍だった。
「あんた、そのロボット、途中で捨てたりしなかったんだ。捨ててるヤツ、いっぱいいんのにサ」
浩二は意外そうな顔で黄龍の顔を見る。黄龍がにっと笑った。
「見直したぜ」
「へっ。おっさんに見直されたくなんかねーぜ」
浩二はぷいっとそっぽを向いてその場を離れようとした。

「待って」
今度浩二を呼び止めたのは翔平だった。
「あの。有賀君。君の持ってるSPロボ見せてもらっても、いい?」
浩二は持っていた袋から一体のSPロボを取り出すと翔平の方に突き出した。少し近寄った翔平はすぐに感心した声を上げた。
「SP03Wの限定迷彩版だ! スゴイ!」
浩二がぶすっと言った。
「モヤシ。お前もロボット預けるって言ってたな」
「うん」
「一緒にこれも預けとけ」
「え‥‥?」
「壊れてもお前のせいにはしねーから。ケーカンと話すなんざ、うぜぇんだよ」

浩二はロボットとペーパーバッグをどんと翔平に押しつけた。黄龍と大輝をちらりと一瞥したが、何も言わずに去っていく。翔平と大輝は目をぱちくりしてそれを見送り、黄龍と瑠衣は視線を交わして淡く笑った。

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