★第29話 (9/12)
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「エージェント・ディから、ピースの散布ルートに調査が入ったと連絡があった」
ナクアはSPロボの1体を取り上げると、エンブレムを爪でひっかきながらそう言った。
「なんと‥‥。ではどういたしましょう」
「既に散じたピースで十分。お前の波動を遮断する仕掛けをしているならアセロポッドを出す」
「ディは、そのままで良いのですか?」
「いい。あれが何か言ったとてどうということはない。金で動く。それだけ。だが役に立つ。アラクネー将軍も面白い人間を見つけておいてくれた」
ナクアはゆっくりとSPロボが"脱走"して崩れた箱の山に近づく。地面に俯せに倒れている警官を避けながら言った。
「モルフィ。その玩具を連れて、行くがいい。何かを作る者達の夢、成長過程にある者達の夢全て破壊して、この世界に疑心暗鬼を‥‥‥‥」

「そうはいかねえ!」
「なに?」
ナクアが足元を見た。足首に人間の手が伸びてきたと思った瞬間、白い長身が膝からがくりと崩れた。異形の膝裏を猛烈に蹴り飛ばして跳ね起きたのは特警の柴田丈だった。
「伏せろ!!」
叫び声と同時に、どごん、という低い銃声が立て続けに響いた。もちろんさっきの撃ち合いで使われた空砲のニューナンプではない。早見と西条が至近距離から357マグナムをナクアの身体に撃ち込んでいる。白い粘土細工のような身体がめこめこと凹んだ。



「ナクア様!」
「逃がさないッス!」
飛び上がったモルフィの細い足を警官が捕まえた。特警で最もこの制服が似合う男、田口了。どんな異形だろうが相手が力を入れる寸前のわずかな隙を逃さない。モルフィの足の位置がぐっと引き下ろされる。
「お離し!」
怪人が両手を振り上げ、尖った手先から腕までがぎらりとぬめる。田口が一瞬固まった。

「着装っ!」
高い声が響いた。振り下ろされたモルフィの腕を掴んだのはまだ黄金に輝いたままの手。小柄な戦士は田口の幅広の肩を蹴り飛ばし、怪人の手を掴んだまま宙を飛ぶ。一回転して相手を地面に叩き付けた。
「オズリーブス!?」
やっと今定着したスーツで包まれたボディは鮮やかなグリーン。尻餅をついた田口の前に立ちはだかる姿はその身長よりずっと大きく見えた。
「いっくよーっ!」
握り締めた緑銀のスティックから三日月の刃が伸びる。輝は一直線にモルフィに飛びかかった。

「この小僧どもがッ!」
モルフィが一歩踏み込むと少し前屈みの体勢でスピンする。羽の先端分が回転刃となって輝を襲った。かざしたトンファーをはね飛ばし、空いたグリーンの胴を薙ぐ。
「うわっ」
輝が吹っ飛ばされた先には田口がいた。田口は反射的に腰を落として輝の身体を受け止めるが、完全に支えきれず、2人は立木にぶつかった。
「ごめんなさいっ!」
「だ、大丈夫ッス!」
「わっ 来たっ!」
輝が田口を横抱きにして飛んだ。ちょうど田口の頭があった位置をモルフィの羽が通過し、立木の上部がバツリと切り落とされた。



重心のずれた不自然な形でナクアは銃弾に曝されていた。肩がぴくりと痙攣した瞬間、両腕がコマ落としの映像のように急激に西条と早見に向かって伸びた。
「させるかっ」
着装した黒羽のブレードがナクアの左腕に振り下ろされる。その勢いとタイミング故か、前回は食い込むだけだった刃が、今は白い腕をばさりと切り落とした。
「リーブライザー・マックスモードッ!」
ナクアの右腕を捉えた赤星はそのまま相手の懐に飛び込み連打を浴びせた。だがナクアは少し後退しただけ。途中から切り落とされた左腕を平然と引き寄せてぶんと振り回し、赤いスーツを殴り飛ばした。
「くそ、筋金入りの化けモンだ!」
助け起こされた赤星が悪態をつく。とにかくモルフィを倒すのが最優先。そのためにはこの怪人をせめてこの場に止めておかなければならない。だがSPロボのことで手一杯で、この異様な白怪人への対策が練れていない。ブラスターがだめ、シェルモードもだめ、切ってもだめ、衝撃にも強い‥‥。
「打つ手、無しか?」
黒羽の問いに赤星が応じた。
「手はちゃんと2本あらぁ! いっくぜー!」
かすかに肩をすくめた黒羽が赤星とほぼ並んで、白い化け物に突っ込んでいった。



「リーブラスター!」
黄龍と瑠衣の声が重なる。モルフィは身を起こすと、今度は羽を自分の身体に巻き付け紡錘形で回転した。2本のエネルギー波がことごとく弾き返された。
「何が実戦向きじゃねーだっての!」
「まるでバレリーナみたい」
「感心してる場合!?」
「イエロー、続けて! あれ、ほどいてみる!」

一陣の桜吹雪のように。
三日月の刃が飛び出たままのトンファーを拾い上げると、モルフィの頭上を舐めるように小さな躯が飛んだ。黄龍のブラスターを跳ね返そうと回転する怪人は巨大糸車。瑠衣はトンファーをその先端に投げつけて着地すると、マジカルスティックを引き絞った。引きずられそうになるスティックを飛び込んできた輝が一緒に押さえた。
「すごいよ、ピンク!」
少女はトンファーをマジカルスティックのリボンで結わえ、鎖鎌のように放ったのだった。上部を引っかけられたまま回転を続けたモルフィの羽がばさりとほぐれる。

吼え荒れる砂塵のように。
「行けーっ チャクラム!」
モルフィの頭部が露わになった瞬間、殆ど一直線に飛んだ円盤が、ソテツの葉のような触角をスパリと切り落とした。完璧すぎるタイミング。蝶の怪人は触覚が無くなったことより先に、視界が開けたことに驚く始末だった。刑事達の足下をうぞうぞと危うくしていたSPカーがぴたりと止まった。

そして燃え立つ新緑の竜巻。
チャクラムが戻り始めた時には既に2本のトンファーを握り締めた輝が高く跳ね上がっていた。落下のエネルギーを全てぶち込んで、2つの刃をモルフィの右肩に叩き込む。片羽をもがれた怪人がバランスを崩してくるくると回った。
「貴様ら!」
モルフィが金切り声で叫んだ。



地面に落ちていた白い腕がざわり、と蠢く。パン生地の様にぐにゃりと変形し、びゅんと飛んだ。
「危ない!」
気づいた島が叫んだ時はもう遅い。パン生地は赤と黒の獲物を絡め取り、そのまま持ち主の元に戻る。赤星と黒羽は白い柱にぐるぐる巻きにされた形になった。2人の足は完全に宙に浮いている。
「こ、のっ」
「放しやがれっ」
2人の男ごと自らの身体を数周も取り巻いている腕。その先端からヤツデ並の大きな掌がにゅっと飛び出した。まるで慈しむように2人の頭部を覆い、白い肩に押しつけた。
「動くな。くすぐったい。すぐ終わる」
ナクアの口元がにいっと裂け、腕のあちこちが隆起した。締め付けられた赤星と黒羽が苦痛の声を上げる。だが見ていた島が助けを呼ぼうとした瞬間、白粘土に覆われた2人の身体が金色に輝きだした。

白い怪人が、シャアア、という、悲鳴ともなんともよく判らない音を出し、腕がまるで気化するように溶けた。半ば賭のようなドラゴンアタックで窮地を脱した赤星と黒羽が転がり出てへたり込む。島が駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「な、なんとか‥‥」
着装の解けてしまった2人は珍しく肩で息をしていた。顔面や胸を煮溶かされたナクアが藻掻くようにして立ち消える。と、そこに黄龍の声が響いてきた。
「仕方ねー! スターバズーカだ!!」

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