★第3話 (1/6)
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窓から入ってくる昼の強い日差しが佐原探偵事務所の一室に入り込んでいた。
佐原は書類が山積みのデスクから、正確にいくつかの資料を選り分けた。脇のデスクに腰掛けている黄龍にそれを手渡す。
「じゃ、これ。今回のお仕事の資料だよ」
「あ、どーも、所長」
黄龍が手を伸ばして受け取る。
「先ずは君に下見に行って来て貰いたいんだ。それから後は・・・・・・」
「お父さんの出番、よね?」
コーヒーを乗せた盆を手にして、佐原の一人娘、瞳がからかい混じりに言葉を繋ぐ。
「悪いっすね、こればっかりは俺もお手伝いできなくて」
「通常の探偵業なら君にも任せられるんだけどね、暴力団絡みとなると流石にね」
黄龍は受け取った書類に目を通し始めた。その隣では佐原が尚ぶつぶつとぼやいている。
「健が他の仕事掛け持っちゃったから、その分私に鉢が回ってきてね・・・・・・やれやれ、探偵稼業も楽じゃないですよ」
「働かざる者食うべからず!いい機会よお父さん、今まで健さんに面倒押し付けてた分頑張ってみたら?まだまだ現役なんだから」
「でも若くもないですよ?もうそろそろ楽をしてもいい年じゃないか」
親子の温かい会話の応酬が為されている横で、黄龍は書類に一通り目を通した。
「・・・・・・あ〜らら、こいつは確かに下見必要なみたい。じゃ、早速行ってくるとします」
「先ずは依頼主に会って、詳しくお話を聞いてきてくださいね」
「は〜いはい、わかってますって」
立ち上がると、それらの書類から更に数枚を選んで鞄に放り込む。その鞄を手に提げて、黄龍は扉へ向かった。「行ってらっしゃい」と手を振る瞳に愛想良く微笑むことも忘れない。
黄龍がドアノブに手を掛けようとしたまさにその時、扉が音を立てて勝手に開いた。目を点にする黄龍。瞳が声を上げる。
「健さん!」
ドアの前に立っていたのは黒羽健だった。
「どうも、ご無沙汰してます、おやっさん」
「健!久しぶりにこっちに来てくれたんだね・・・・・・もう、お仕事溜まって大変なんですから、少しは手伝ってくださいよ」
「そいつは申し訳ない・・・・・・こっちにはちょっと野暮用で」
言うと、眼前の黄龍を指差す。
「ジャストタイミング。おやっさん、これちょっとお借りします」
事務所の先輩である黒羽のあまりの言い草に、黄龍はムッとして抗議する。
「黒羽・・・・・・いきなり来たと思ったら『これ』呼ばわり?そいつはねーんじゃねーの・・・・・・っていてててて!?耳、耳は引っ張るなっての!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい健!彼はこれから仕事が・・・・・・」
「すいませんおやっさん、すぐお返ししますんで」
黒羽はそう言うと、黄龍を引きずりさっさと退室した。ばたんと閉まった扉の前には黄龍が取り落とした鞄だけが残された。瞳は鞄を拾い上げ、先程放り込まれた書類を取り出し父親に手渡す。
「はい。いってらっしゃい、お父さん」
娘の一言に、佐原は思わずがっくりと肩を落とした。
「・・・・・・で?」
人気のない裏路地。そこで自分が発した最初の一言がそれだった。
いるのは自分と自分をここへ連れてきた黒羽、そして初対面の男が一人。会話から察するに、黒羽とは随分親しいようだ。彼は赤星と名乗った。しかし、彼の話は、自分にはおおよそ理解できないことだらけだった。
何処の世界に、いきなり「俺達と一緒に正体不明の敵と戦って欲しい」などと言い出す人間がいるだろうか?・・・・・・いや、実際ここにいるのだが。
「『で?』・・・・・・って・・・・・・」
赤星は一瞬言葉に詰まったが、めげずに繰り返した。
「俺達と一緒に、正体不明の敵と戦って欲しいんだ!」
・・・・・・それはもう聞いた。
「じゃ、聞くけどさ〜・・・・・・あんたと黒羽、一体何なわけ?」
「う・・・・・・」
「残念ながらそれは言えん。答えがわかってるくせに聞くんじゃないぜ」
再び言葉に詰まった赤星をフォローするように、黒羽が答える。
「だんまりってわけ?それじゃ判断材料少なすぎねー、いくらなんでもさ?そんなんで信じてもらおーって方が間違ってんじゃねーの?」
「ま、信じられないのも無理はないがね・・・・・・だが俺が保証するぜ、こいつは正真正銘真っ当な『仕事』だ。世のため人のため、って奴さ」
「詳しいことは引き受けたら、ってわけね・・・・・・黒羽、あんたもまた面倒そうなことに足突っ込んだね〜・・・・・・俺様とてもついて行けそうにないって感じ?」
「引き受ける気はない、ってことか?」
厳しい表情で尋ねてくる赤星にこれ見よがしにやる気のない態度をとってみせる。
「俺様、そーゆーの嫌いなんだよね〜。いわゆる『セイギノミカタ』ってやつ?」
「何故?」
「綺麗事ばっかりだからだよ!」
何を当たり前のことを聞いてくるんだか、とばかりに爆笑する。
「んで、もーひとつ」
その瞳が急にぎらりと光って赤星を睨み付けた。
「俺様、あんたみたいな奴が世界で二番目に嫌いなわけ!黒羽、あんたにはわりーけど断るわ。他当たってよ」
「・・・・・・おい!待てよ!」
「ほっとけ、赤星!」
さっさと裏路地を抜けていく黄龍を追いかけようとする赤星だったが、黒羽に引き留められる。
「あいつはああいう奴だ。そう言っただろ?これ以上しつこく追いかけたりしたらもっとへそ曲げちまう」
「・・・・・・」
「お、へこんでますな、赤星隊長」
暫くの沈黙の後、赤星は溜息をついて苦笑した。
「ああ、正直な・・・・・・あんなにきっつい言葉吐かれたの初めてだぜ。ひねくれもんって居る所には居るんだなー・・・・・・」
「ま、気にしないこった。お前は自分の吐いてる台詞が綺麗事ばかりだと思うか?」
首を横に振る赤星。
「フッ・・・・・・だったら気にする必要も無い筈だぜ?リーダーってのはいつだって自分に絶対の自信を持ってなきゃな。だからこそ、仲間もリーダーを信じてついていけるんだ」
赤星はひとつ頷くと、ちょっと笑った。
「・・・・・・俺、お前が居なかったら多分、仲間五人集められずに終わってたな、きっと」
「おや、そいつは嬉しいお言葉」
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