★第3話 (1/6)
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「いーぜ。やってやるよ。面白そーじゃん?」
その瞳と同じくらい剣呑に、黄龍は笑った。
「あんた達にもキョーミ有るし。やりたいこともなかったしね・・・・・・丁度いーや。暇つぶしくらいにはなりそーじゃん?愛しの人にそー言っといてよ。手伝ってやるってさ」
「・・・・・・ありがと」
髪を掻き上げて、有望は微笑んだ。それは今まで黄龍に見せる事のなかった柔らかい笑みだった。
「私は有望よ。星加有望・・・・・・宜しく、黄龍瑛那君」
「やーっと名乗ってくれたな・・・・・・こっちこそ、ってね」
差し出された手を握る。二人は握手を交わした。
「じゃ、私は行くわ・・・・・・多分明日には説明を受けられると思う。内容を聞いてひっくり返らないでよ?そういうリアクションはもう飽きたわ」
「そりゃまた、凄そーなお話みたいね・・・・・・楽しみにしておくよ」
「そうして頂戴。お休み、黄龍君」
ぱたんと音を立て、扉が閉じた。黄龍は仰向けにベッドに倒れ込んだ。
「守りたいもの、か・・・・・・確かに、俺様にはねーな、そーいうの」
だが、言葉とは裏腹に、零れてくるのは笑みだった。掲げた両の掌を見つめて黄龍は独りごちた。
「もし、俺様にもそーいうのが出来たら・・・・・・強くなれるかな?」
あの二人のように。
黄龍はふと窓を見た。心地よい風が流れ込んでくる。隣の部屋の明かりが見えた。
「でも、ってーことは・・・・・・俺様、明日からあの二人の部下?マジ?」
思わず苦笑する。どんな波瀾万丈の生活が待っているのか想像も付かない。
「でも・・・・・・ま、いっか・・・・・・」
黄龍は頭から布団を被って笑った。そしてそのまま眠りに付いた。
二日後。
「・・・・・・ああ〜!!答えがまた違う・・・・・・もう一度だっ!」
「全く・・・・・・お前さんは本当に科学者かい?」
「うっせえ!純粋な計算は苦手なんだよっ!」
「威張ることかね。ほら、もう一度計算するんだろ?」
帳簿を目の前に唸る赤星が、我関せずとギターを弾いている黒羽をうっとうしげに睨み付ける。
「そのギターやめろよっ!気が散るっ!」
「フッ・・・・・・何を仰いますやら」
言うなり立ち上がり、椅子に片足をかけてギターを掻き鳴らす。開店前の喫茶店は即席のコンサート会場と化した。その出で立ちと相まって素晴らしく絵になっていたが、生憎いるのは白い視線の観客一人だけである。早々にフィニッシュし、黒羽は椅子に座り直した。
「この俺のギターテクにケチを付けるのは百万年早いぜ、赤星。もう一曲どうだ?」
「いらんっ!!」
その時店の奥から黄龍が出て来た。二人の視線がそちらに向く。
「よ、黄龍。怪我はどーだ?」
「ん?へーきへーき。別に大した怪我じゃねーし」
絆創膏とガーゼがべたべた貼られた顔で笑う。パーカの下の包帯はまだまだ取れないようだったが、動くには支障無さそうだった。
「今日アパート引き払ってくるわ。表のチャリ貸してよ。俺に貸してくれる部屋どの部屋?」
「ああ、それは・・・・・・」
赤星がそこまで言ったところで、ぱたぱたと元気のいい足音がした。黄龍を追って制服姿の瑠衣が顔を出す。
「瑛那さん!ケータイ、忘れてたよ!いいな〜、クロムハーツ!これ本物?」
じゃらじゃらと、アダルト組には訳の分からないストラップの付いた携帯電話を持って瑠衣が尋ねる。
「あ、忘れてた?サンキュ、瑠衣ちゃん!お礼に今度どっか連れてってあげるよ。今週暇?」
「え?残念!今週は友達と約束があるの」
言いながら、手渡すために携帯電話を左手から右手に持ち替える。その拍子に携帯のボタンを押してしまい、ピッと音がして液晶画面に明かりが灯った。
「あ、いけない!・・・・・・何これ?アドレス?キョーコちゃん?明美ちゃん玲ちゃん詩織ちゃん・・・・・・」
悪気が無い分余計にたちが悪い。思わず読み上げてしまった瑠衣の手から、黄龍は慌てて携帯を引ったくる。背後からの冷たい視線が痛かった。瑠衣が瞳をぱちくりさせる。
「?何?どうしたの?」
「やれやれ、瑛ちゃんは相変わらずだねえ」
「・・・・・・たった今、お前の部屋は瑠衣ちゃんの部屋から一番遠い部屋に決まったよ」
「殺生だな〜、赤星さん。別に俺様そんなつもりじゃないぜ?」
「とにかく、私もう行くね!行って来まーす!」
「ああ、行ってらっしゃい」
元気良く飛び出していった瑠衣を三人揃って見送る。赤星がじろりと黄龍を睨んだ。
「黄龍・・・・・・言っとくがな、俺には瑠衣ちゃんに対する責任があるんだ」
「は〜いはいはい、わかってますって!そんな怖い顔しないでよ」
「そう言えば昨日も、瑛ちゃんの携帯ひっきりなしに鳴ってたぜ。色男は辛いねえ?」
すかさず黒羽が茶々を入れる。
「あ、やっぱ?実はさ〜、昨日だけでも二十一件・・・・・・」
「あのなあ・・・・・・!」
ばん!とテーブルを叩く赤星。テーブルの上の帳簿とペンが三センチほども宙に浮いた。黄龍は慌てて顔の前で両手を合わせる。
「まあまあ!明日からはケータイもうるさくなくなるからさ、今日は勘弁してよ!俺様これから忙しいの」
「何を言い出すかと思えば・・・・・・荷物取りに行ってくるだけだろ?」
黄龍は手にした携帯電話をひょいと掲げた。
「これからこの子達の所回ってくるの」
「ど阿呆!」
「別れてくるんだ。全員と」
「何・・・・・・?」
言葉を失った赤星に飄々と告げる。
「やばいっしょ?この仕事、相っ当さ。話聞いた限りじゃもしかしたらって事もあるじゃん?瑠衣ちゃんみたいな前例もあるしさ」
「・・・・・・」
「だから俺様、少なくともこの一年間はフリーって訳!ってことで行ってくるわ。じゃーな♪」
からんからん、と鐘が鳴る。しばらくの間、店内は沈黙した。
「・・・・・・なあ、黒羽」
「どうした、赤星」
「俺ってもしかして、凄く怖いことしてるのかも・・・・・・」
「・・・・・・?」
赤星は黄龍の出ていった扉を見つめた。
「赤の他人から、今までの生活全部奪っちまうんだ。・・・・・・それって凄く、怖くねえ?」
「・・・・・・」
黒羽はギターの弦を一本、指で弾いた。
「我等がリーダーは、そんな事も考えず仲間捜しをしてたんですかい?まあ、気持ちはわからないでもないですがね。だからって、やめるわけにもいかんでしょう」
「お前や、あいつや瑠衣ちゃんや・・・・・・有望に何かあったら。俺は、その責任をとれるのか?」
黒羽は立ち上がった。
「・・・・・・何か勘違いしてるみたいだな、赤星。誰もお前に責任とらせようなんて思ってねえよ」
「黒羽・・・・・・」
「俺達は俺達自身の意志でここにいるんだ。自分のことは、自分で責任取る覚悟があるんだよ。瑛ちゃんだってそれがわかってるから、自分から今までの生活を捨てようと思ったんだろ。全部打ち明けたときの有望さんの嬉しそうな顔、お前にはわからなかったのか?」
「・・・・・・」
「もっと、俺達を信じろ。自分を信じるのと同じくらいにな」
「・・・・・・・・・・・・」
赤星はばりばりと頭を掻いた。大きく伸びをする。そしてゆっくりと笑んだ。
「・・・・・・そっか。そうだな。ちょっとだけ楽になった」
「『ちょっとだけ』ねえ。まあ、今日の所はそれで良しとしましょう」
黒羽も笑うと、店の奥へ入って基地へ戻っていった。おそらく格納庫へ行ったのだろう。彼は毎日、愛機の手入れを欠かさない。
一人になって、静かになった店の中、赤星は帳簿に向き直った。
今度の計算はぴったり合った。
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