★第30話 (7/18)
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医務室のドアが開き、皆がいっせいにそちらを向いた。
「輝君、意識、戻ったよ。ケガの方も大したことなくて済みそうだ」
ドアを後ろ手に閉めた田島は、輝の手当をする洵の手伝いをしていたのだった。

皆ほっとしたように笑みを浮かべる。瑠衣が思わず涙ぐんで俯き、有望がその肩をそっと抱いた。ちょっと離れて立っていた赤星は、安堵の余り膝に手をついて深く頭を垂れた。
「赤星。輝君がお前に話があるって云っていたよ」
田島にそう言われて、赤星は軽く頷くと一人で医務室に入った。

「りーだー‥‥」
ついたてから顔を出したとたんに輝の声がした。ベッドの中の輝は、いくぶん弱々しいが笑みを浮かべている。上掛けの上に出ている両前腕は包帯でぐるぐる巻きにされていたが、手先を少しあげてひらひらと振って見せた。赤星は思わず洵の顔を見た。洵が微笑んで答えた。
「腕と腹部の打撲がちょっとひどかったけど、アイシングと圧迫でなんとか収まると思うよ。骨に異常なかったのがほんとよかった。だから安心して、竜太さん」
「ありがとう‥‥洵」
赤星が洵にぺこりと頭を下げる。勧められるままに輝の右手側の椅子に座った。

「でも、輝君。三日間はおとなぁしくしててね。ちゃんと治療しないと内出血が治まらないから」
「えー、大丈夫だよ、洵さん。りーだ、オレ、すぐ起きられるからね‥‥」
口をとがらしてそう言うが、声はまだどこかふわふわした感じがする。赤星は黙って首を振ると、輝の右手をそっと手にとった。


小柄な身体に似合わぬ、骨太の大きくてしっかりした手だ。
いろいろなモノを作り、直し、生かす、魔法のような手。

宮大工の親父さんが、愛情を込めて、厳しく育ててきたこの手‥‥。
‥‥‥‥長い伝統と歴史を、受け継ぐための‥‥手‥‥‥‥。

もし、この手が動かなくなるようなことが起っていたら‥‥。


赤星は輝の手を包んだ自分の両手に額を押しつけた。
「‥‥輝‥‥すまねえ‥‥。‥‥‥俺のせいで‥‥ほんとに‥‥」

輝が赤星の手を握り返すと軽く振った。
「リーダー‥‥。あは‥‥、なんか、へんだよ。えっと‥‥、なんていうか‥‥。だって、オレたち、安全なことやってるわけじゃないもん。そうでしょ?」
「ああ‥‥。だけど、俺が甘い行動しなきゃ‥‥あんなことには‥‥」

「ね、リーダー。みんなにはナイショね」
「え?」
赤星が顔をあげる。輝は思い出すような表情で、天井に視線を上げた。
「今まで、マリオネとかトナカンダーとか、色々いて‥‥。ホント云うと、オレ、今でもよくわかんないこと、いっぱいあるんだ‥‥‥‥。でもね‥‥」
大きな瞳が赤星を見あげて、にこりと笑った。
「あの人を、いきなりみんなで倒そうとしなかったリーダーが、オレ、やっぱりスキ」

赤星の目がまん丸になった。何か言いかけて口を閉ざし、泣き笑いのような表情で輝を見つめた。
「‥‥ありがとう、輝‥‥」

輝は照れたように微笑んだが、すぐに真剣な眼差しになった。
「リーダー。あの人、リーダーの友達なんでしょ?」
「ああ。高校ん時に行方不明になって‥‥ずっと探してたヤツなんだ‥‥。なんか、すっかり誤解はいっちまってるみてえで‥‥‥」
「それで、これからどうするの? あの人のこと、どうするの?」

赤星はちょっとだけ視線を落とした。
「‥‥正直云って、もう少しだけ気持ちの整理がしたい。俺、納得できねーと動けねえからさ‥‥。でも‥‥‥。一つだけ、確実に云えることがある」

赤星が、輝の瞳を見つめた。
「もうこれ以上、みんなを傷つけるようなことはさせねえ。絶対にだ」

輝が、赤星の瞳を見つめ返して笑った。
「オレ、リーダーのやることなら賛成だからね」
「ああ‥‥。本当にありがとな、輝」

少しだけけぶったように潤んだ大きな黒い瞳が、ひたすらに自分を信じていた。

何があったのかと問いかけることもなく‥‥‥‥。


===***===

モニターには、ハンドが、レッドとグリーンに飛び込むシーンが何度も映し出された。最も理想的な垂直方向からの映像。だがスローにしてもその動きは掴めない。かろうじて位置がわかるだけだ。ましてやレッドやグリーンの映像は‥‥。がくんと激しくぶれて、空が映り、それが急激に流れる。その瞬間には聞こえなかった輝の叫び声に、赤星の顔が歪んだ。

「‥‥はっきり云って、このスピードは、今のセンサーじゃ、捉えきれませんね‥‥」
田島の言葉に5人の沈黙が深くなった。瑠衣は医務室で、洵から手当の仕方を教わっていた。輝の腕は、定期的に冷やしたり、圧迫包帯を巻き直すなど、こまめな治療が必要な状態だった。

「なんとかしてバズーカ喰らわすまで大人しくさせとく方法、ねーのかよ‥‥」
そう呟いた黄龍に向かって、壁によりかかった黒羽がテンガロンハットを突きだした。
「おい、瑛ちゃん、正直に云え」
「なんだよ」
「さっき、アイツが旦那とやり合ってた時、チャクラムかブラスターで、ヤツの頭、うまく狙えたと思うか?」
「‥‥うーん、けっこう際どいトコだけど‥‥なんとかなったんじゃねー?」

赤星がデスクに両肘をついたまま、ちらりと上目遣いに黄龍を見る。
「‥‥的場‥‥、あの時本気じゃなかった。俺‥‥完全にあしらわれてたんだぜ?」
「げ。マジかよ。だとすると、よけられちまうのかな。くっそ。アッタマくんぜ」
「それに‥‥輝が治るまで‥‥、バズーカはムリだ‥‥。時間がかかりすぎる‥‥」
デスクに視線を落として、誰に言うともなく呟いた。


自分が招いた事態だ。それもリーダーであるべき自分の‥‥。黒羽が怒るのも当然だ。
なのに、『あの時、5人でかかっていればバズーカで倒せたかもしれないのに』という後悔が湧いてこない。輝を傷つけてしまったことが苦しくてしょうがないのに、だからといって、的場を、今までの怪人と同じように吹っ飛ばす映像が出てこない。


的場は人殺しだ。
俺達の命を手土産にスパイダルの一員になろうとしている。
完全に怪人のカラダとなって‥‥。

倒さなきゃならない。
オズリーブスは、あいつを倒さなきゃならない‥‥。

必死で自分に言い聞かせるのだが、だめだった。

殺し屋って云っても、強いヤツ相手の殺ししか受けないって‥‥。あいつ、こと拳法に関しては、本当に真剣だったんだ。ただ強いヤツと戦ってたくてスパイダルに‥‥。他の怪人みたいに一般の人に何かするなんて思えねえから‥‥。

誰にも取りあってもらえないような言い訳ばかりが頭の中をぐるぐる巡る。何より、自分に的場を裁く資格はないという心の声が抑えられない。的場には借りがある。なのに自分は、的場が分かれ道を踏み出す瞬間にそこにいて、結局何もできなかった。

だけど‥‥。もう二度と、的場の手で仲間が傷つくところを見たくない。絶対イヤだ。それだけは何があっても‥‥。

じゃあ、どうすれば‥‥。
いったい‥‥どうすれば‥‥‥‥。

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