★第34話 (5/9)
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ストリートバスケットに熱中していた若者達は、ゴール下に突如現れた"袋"に驚いた。ニュースの映像を思い出した一人が逃げろと叫んだが、結局二人が餌食になった。ネペンテスは6本の足を伸ばし、ぞわぞわとターゲットを求めて移動し始めた。
着装した黄龍と瑠衣が現場に駆けつけた時、ネペンテスはフェンスをへし曲げてテニスコートに入るところだった。悲鳴を上げる女性たちに向かってネペンテスの触手が伸びる。
「チャクラムっ」
黄龍の手から光るディスクが放たれ、伸びる触手を断ち切るラインを描いた。だが触手は急に向きを変え、生徒を避難させていた男性コーチと、高校生らしい少女を巻き取った。
「やめなさい!」
瑠衣がその包みに飛びかかったが、間に合わない。逆にその瑠衣を殴りつけるように別の触手が襲いかかった。
「ブレードモード!」
飛び込んできた黄龍が触手を断ち切りにかかる。その時……。
「なにーっ!?」
触手がブレードに巻き付くと、光の刃が消えた!
<エネルギーが! 放出を止めて!>
リーブレスから有望の叫びが聞こえる。スーツのエネルギーを吸収するのと同様に、高準位のリーブ粒子で形作られた刃は、文字どおり「喰われて」しまったのだった。
「食べ方、わかった。少し熱いだけだ」
跳び退った黄龍と瑠衣が、マスクの中で目を見開く。ネペンテスの触手の根元に、6つの目とおぼしき器官と、丸い穴が1つ生じていた。その丸い穴が、もぐもぐと動く。
「だけどおまえはイヤだ。覚えてるぞ」
触手は瑠衣を指していた。唖然とする黄龍と瑠衣を尻目に、また少し成長したスパイダルの怪人は消えてしまった。新しい獲物を求めて…。
===***===
森の小路はCloseの札を下げたまま静かだった。カウンターに座った黄龍は、組んだ手をじっと見つめているまま。一方の瑠衣はきれいなままの調理場を、ただ機械的に拭いていた。
赤星、黒羽、輝の3人を含め、何人もの人間が怪人に飲み込まれているのに打開策が見つからない。スポーツをしている人間が襲われ易いことだけは予想でき、戸外でのスポーツを中止するように勧告が出された。
だが怪人は、なぜ「ピンクがイヤだ」と言ったのか。理由がわかれば糸口になりそうだが、被害者には瑠衣と同じ年齢の女性もいる。従来の怪人と異なりオズリーブスの姿を見ると逃げてしまう上に、追って攻撃してもエネルギーを吸収されてしまう。
いったいどうすれば良いのか。科学者達も必死に分析しているが、オズベースの空気もどんどん重くなってくるようだった。「できるだけ休んでいた方がいいから」と田島に言われて上がってきたが、胸の中のつかえは大きくなるばかりだ。
「なあ、瑠衣ちゃん…」
黄龍がぼそりと言った。
「はい?」
「なんで、赤星さん、助けなかった?」
瑠衣が目を丸くして黄龍を見つめた。黄龍は視線を落としたまま独り言のようにつぶやいている。
「あん時、赤星さんのすぐそばにいただろ?」
瑠衣は黙りこくっていた。反響しているように言葉が何度も鼓膜を叩いていたが、なぜか意味が頭に入ってこない。そして、それに対する応えも……。
「違う。あたし……。助けるとかと……違う……」
やっとそう言った瑠衣に、黄龍がはっとしたように顔を上げた。
「わからない。気づいたら、ああなって……」
瑠衣はシンクの端に手をついて俯いた。伸ばした腕が震えている。
黄龍がチェアから滑り降りると瑠衣の前にそっと移動した。
「……ごめん。瑠衣ちゃん、ごめんな」
瑠衣が下を向いたまま、黙って首を振った。
時計の音だけが店内に流れている。しばらくの沈黙のあと黄龍がゆっくりと口を開いた。
「あの人が……。赤星さんが助かってたら、もっと……きっと今と全然違ってた。そう思ったら、つい……。輝や赤星さんには待ってる人が大勢いるし、俺には……」
「貴方には待ってる人が居ないなんて、言わせないわ、黄龍君」
黄龍と瑠衣は驚いて、Staff Onlyと書かれたドアの前に居る有望の顔を見つめた。
「お姉様!?」
有望はこんな時にはよくあるように眼鏡だった。顔色は白く、不安を押し隠しているのははっきりと分かったが、それでもにっこりと笑ってみせた。
「ちょっとコーヒーが飲みたくなっちゃって」
「あ、淹れます」
「あら自分でやるわよ」
有望はカウンターに入るとブレンドの缶に手を延ばした。煮詰まってくると食べ物も飲み物もどうでもよくなって、「とにかく濃いコーヒーならなんでもいいわ」と言い出すのがこの美人の常なのだった。
黄龍は顔を背けていたが、つと有望に挑戦的な眼差しを向けた。
「有望さん。はっきり言っとくけどね。俺様、赤星さんとは違うわけ。あん人みたいに誰からかれから好かれてるような人とは……」
「私達は? 瑠衣ちゃんは? 自分が居なくなった時に誰が悲しむかって、本人が決めることじゃないし、その人たちが多かろうが少なかろうが、重要性に差はないわ」
「優等生だね、有望さんもさ。……あんただって婚約者が無事な方が良かったに決まってんだろ?」
黄龍が不機嫌そうな声で言った。
「そうかもしれない。でも、誰かのかわりに赤星が助かっても『助かって良かった』なんて絶対言えないわ。あの人がどれだけ辛い思いをするかわかるから。……今の貴方と同じように………」
黄龍は吸い込まれそうな有望の瞳からむりやり視線を引きはがした。
「……俺は、別に……」
有望は祈るような眼差しで、黄龍と瑠衣を見つめた。
「黄龍君。今は貴方がオズリーブスのリーダーだから……。瑠衣ちゃん。たった二人だけど、それでも二人はオズリーブスだから……」
しばしの沈黙のあと、黄龍がふうっと息を吐いた。カウンターに背中を向けると、髪をかき回し、また手櫛で整え直した。
「……わかってる。そんなこた、分かってるよ!」
背中を向けたまま、腕を振り下ろすようにそう言った。
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