★第34話 (8/9)
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特警一の常識人の西条と、常識外れの育ちの良さが売り物の島であっても、風間本部長から全て黄龍瑛那と桜木瑠衣に従えと命令された時はさすがに少し面喰らった。だがOZ組と合流したとき、揺らぎは消えた。黄龍瑛那と桜木瑠衣から感じられるオーラを説明するには、日常的な語彙から乖離した言葉が必要だった。

瑠衣は黄龍を説得して「実験」を買って出た。生身のままネペンテスの前を何度か通過し、通行人を助けたのだ。香料のせいだと説明された時は唖然としたが、女性の被害者が少ない理由に合致していた。オズベースはお得意の電磁波走査で怪人の場所を絞り込み、西条と島は言われた通りに警官隊を配備した。

黄龍は怪物に飲み込まれるために淡々と準備を始め、瑠衣は無言でそれを手伝った。にっと笑って瑠衣の頬をちょっとだけ撫で、きびすを返して走り出した長身も、それを微笑んで送り出しながら、黄龍が背中を向けた途端に表情を失った少女の白い顔も、西条と島の心に突き刺さるようだった。



黄龍を飲み込んだあと、怪物は予定通り川辺のグラウンドの方にのたのたと降りてきた。草野球を楽しんでいるのは全て警察の人間だ。悲鳴を上げて逃げまどうが完全に逃げ去りもしない。もうしばらくこの地にとどまってもらう必要がある。ネペンテスはゆらゆらと触手を伸ばし始めた。そこで……。

「動きが変わった」
触手がびくりと引き攣れた。かすかな変化を瑠衣は見逃さない。
「うまくいったんですか?」
「わからないけど、行きます!」
「おい!」
西条が反射的に瑠衣を止めようとしたが遅い。少女はもうネペンテスに向かって走っていく。


ネペンテスはむちゃくちゃに触手をゆらめかせ、全体でのたうっていた。そのうちその胴体がぶうっと膨れ始める。

<瑛那さん! みんな!>

瑠衣の声なき祈りに応えるように、ネペンテスが金色の固まりをがぼりと吐き出した。回りを覆ったバリアが消える。中から怪人に呑み込まれた者達全員が姿を現した!

「瑠衣ちゃん!」
駆け寄る瑠衣に最初に気づいたのは輝だった。倒れ伏した人々の中央で銀色のカプセルを抱きしめて立っている。その傍で座り込んだ赤星に上半身を預けるように黄龍が横たわっていた。

「瑛那さんっ」
膝をついて覗き込んだ瑠衣に、黄龍が精一杯の強がり笑いを浮かべた。
「……やだね……俺様としたことが…。みっともねえ……」
赤星が瑠衣と黄龍の顔を見やる。
「二人ともよくやったな! 黄龍はパワー喰われただけだ。少し休めば……」

「いや、もしかすると……」
黒羽の声に赤星たちが振り返ると、立ち上がった黒羽が不思議そうな顔をしていた。持っている大きな光球に沢山のひび割れが入っている。やはり傍まで来ていた西条と島も固唾を飲んで見ていた。黒羽がおそるおそる光球を頭上に上げる……

「わっ……」
短い驚きの声が重なった。球がぱりんと弾け、いくつかの小さな球に分かれて降ってくる。瑠衣も赤星も輝も黒羽も、そして当の黄龍自身も、舞い降りてきた光のボールが黄龍瑛那の胸に吸い込まれていくのを、声もなく見つめていた。


「……あれ……?」
「ここ……どこ?」
倒れていた人たちが頭を振って起きあがり始めた。呆然としていた西条が我に返り、合図を送る。野球のユニフォームと警察のユニフォームの一団がわらわらと駆け寄ってきて、被害者たちを助け起こし運び出した。
黒羽が西条に声をかける。
「先輩。その人達、頼みます。フォローできなくて……」
黒羽が示した先には2人の高校生と洒落た格好の若者が一人、まだ倒れ伏している。一番最初の2人。そして自分たちのあとの最初の1人。エネルギーを横取りできなかった被害者達だ。
「わかった。まかせろ。それより……」

縮み引き攣れていたネペンテスが再び起きあがっていた。触手の動きが元に戻り始めている。その脇の空間がゆらゆらと歪んでいた。
「ゴリアントっ」

現れた牙将軍ゴリアントは怒りまくっていた。
「くっそー、てめーら! 可愛いネペンテスになんてことしやがる! 他人に吐き気催すもの喰わせるなんざ、タチの悪い手使いやがって〜!!!」
食い物の恨みは根に持つタイプのようだった。


立ち上がった黄龍が、輝から渡されたリーブレスを左腕に巻くと、長めの髪を掻き上げる。
「うっせー! この世界に、てめーらに喰わせるもんなんか、ネズミ一匹だってねーんだよっ」
「これで終わりだ、ゴリアント!」
「ちょーどいい。てめーら5人喰い尽くせば、取り戻せるぜー! ネペンテス、喰い方わかってんだよな。あいつら全部喰っちまえ!」
ゴリアントががなって消えた。

「喰い方って……まさかあいつ、リーブエネルギーを?」
赤星の問いに瑠衣がうなずく。
「そうなの。ブラスターもブレードも食べちゃうようになったの」
「じゃあ攻撃したら、余計強くなっちゃうってことっ?」
輝の緊迫した言葉に、黄龍がのんびりと応じた。
「そーゆーこと」

一瞬固まった赤星と輝の間から、2人ををかき分けるようにして黒羽が顔を出した。
「……お二人さん。余裕かましてないで、種明かししてくれませんかね。でないと隊長さんと坊やが騒ぎ出すぞ」

瑠衣がにっこりと笑い、黄龍が黒羽もどきに人差し指と中指をピンと立てた。2人はそのまま振り返ると叫んだ。
「着装、フレグランス・モード!」
ピンクと黄色のスーツが2人を包む。だがそのボディはいつもより艶やかだ。あたりにふわっと甘い香りが漂った。
「行くぜ!」
「はい!」
2人がネペンテスに向かって突っ込む。勢いよく延びてきた触手をあっさりとブレードで断ち切った。

「ピンク!」
黄龍が投げたブレードを左手で受け取った瑠衣が両手にブレードを引っさげて、ネペンテスの懐に飛び込んで行く。
「今度は逃がさないっ!」
ネペンテスは己を防ぐために再び触手を伸ばすがピンクのスーツに触れようとしてはふわりと宙に避ける。瑠衣はそれを容赦無く叩き切って行った。

「チャクラム!」
黄龍の投げた2枚の円盤はネペンテスの足を狙う。何度かのシュートでネペンテスは手足をもがれ、元の袋の姿に近くなっていった。



唖然としてイエローとピンクの背中を見送った赤星達3人のリーブレスから、有望の声が聞こえてきた。
<あの怪人は匂いで獲物を判断してたみたいなの。そして香水をひどくいやがることを黄龍君が見つけてくれた。だから2人のリーブレスに手を加えて、スーツやブレードの表面に香料分子を定着させたのよ>
「じゃあ、黄龍が持ってきてくれたあのカプセルは……」
<そう。香り付きリーブシート発生装置。うまくいって本当に良かった>

「そうだったのか……って、なっ、なんすか?」
近寄ってきた島が急に3人に何かを吹き付けたので赤星が驚いた声をあげた。
「あれ。すごくいい香り!」
輝が嬉しそうな声を上げる。
「でしょう。ほらほらこれつけてれば安全です。また飲まれちゃ大変ですからたっぷりと付けておかないと」
にっこり笑った島の手にはド派手でどでかい香水瓶が握られている。
「可愛い香りだよね。ね、りーだ……、あ、あれ……?」

赤星は赤ジャンパーを脱ぎかけて咳き込んでいたし、黒羽は手で目のあたりを覆ってうつむいている。
「ど、どうしたのっ?」
「お、俺、こーゆー香りの、強いのダメ……。鼻痛い、頭痛い……」
「あ……アカさんと、クロさん、怪人と同じですか?」
「勘弁して下さい……。板前にゃ、香水とタバコは厳禁だってのに……」
「……誰が板前なの……」

今度は3人のリーブレスから黄龍の声が聞こえてきた。
<ほーら、バズーカ、頼むぜ、お三方!>
「お、おう! スターバズーカ!」
「「「着装!!」」」

バズーカのエネルギー弾もしっかりと香料で覆われていた。ネペンテスが吹き飛んだあと、辺り一面、に酔うほどに甘い香りが立ちこめた。


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