★第34話 (9/9)
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スーツが解除されると、いつも通り、5人は自分以外の4人の様子をさり気なく見回した。生身の姿を見ることで互いの安全を確認する。いつの頃からか、これが彼らの無意識で暗黙の儀式になっていた。

赤星が黄龍と瑠衣に歩み寄り、ありがとうと言おうとして、固まった。
「る、瑠衣……?」
瑠衣が急に俯き、両手で顔を覆ったのだ。声は無いが肩が震えている。

赤星の目はまん丸になり、黒羽でさえ驚いた顔になる。黄龍の開きかけた口は、戸惑ってパクパクするだけ。輝だけは少し余裕の表情で、瑠衣と黄龍を見比べていた。

「る、瑠衣ちゃん、どうしたっての? ちょ、ちょっと、さ……」
黄龍の声がやっと出て、瑠衣の肩を叩くようにする。

「ごめん……」
瑠衣が俯いたまま呟いた。
「みんな、帰ってきて良かった……。帰ってこられて……良かったよ……。良かった……」

自覚する余裕の無いままに澱み積もった不安と恐怖。それが今始めて涙に溶けて流れていく。黄色のパーカーをぎゅっと掴んで、少女はしばし泣きじゃくっていた……。


===***===


あの人があの怪物に呑まれに行くと行った時、とても怖かった。他に手がないと解っていてもイヤだった。新しい装置を作っている葉隠博士や有望さんを恨みたくなるほどだった。でも一方で、彼が決めたことだから、きちんとやらせてあげたい気もして、すごく複雑で……。あの人が包まれて飲み込まれた映像は、まだ頭にこびりついている。

無事に戻ってきてと祈っていた。ダメだったら次はどうするかって考えていた。

どうしても、どうしても、無事でいて欲しかった。

あの人がみんなと一緒に無事出てきた時、ただただ嬉しかった。

―――だから、あいつを、憎いと思う余裕がなかった。


大事な人を助けたい。守りたい。
それって、あんなキモチのことなんだ。

みんなを守る為に戦ってると思っていたけど……今まで、あたしは……。

だけど……



「……ちゃん……? 瑠衣ちゃんってば!」

瑠衣はびっくりして顔を上げた。小さなテーブルの向こうから小倉亜由美と千葉メイがまじまじと自分を見ていた。例の広場。瑠衣の前のアイスティは、一口も飲まれないままに氷が全部溶けていた。

「……あ、あれ。ごめん。え……と、何?」
「聞いてないし」
「どうしたの、瑠衣ちゃん。やっぱまだ具合悪い?」
瑠衣は昨日、学校を休んでいた。
「ううん。もう大丈夫。ただちょっと考え事してたから。ごめん」

亜由美がしょうがないなぁというジェスチャーで話し出す。
「じゃあ、最初から言うよ。北島がね、やっぱどうしても瑠衣と話したいんだって。あいつ、ホントに瑠衣のこと好きなんだよ。一度会って話してみない?」


瑠衣を見つめる亜由美の顔はとても真剣だった。

この友達には好きな人が居る。だから誰かを好きなクラスメートのキモチが解る。なんとかしてあげたいと思うんだろう。

でも今はあたしにも解る気がする。亜由美ちゃんのキモチも、北島君のキモチも……。


瑠衣はゆっくりと首を振った。
「ごめんね、亜由美ちゃん。北島君にも、ごめんねって言ってくれる?」
「……この前、好きかわからないって言ってた人?」
「うん、そう。わかったの。あたし、あの人、好きなんだ」

亜由美とメイが顔を見合わせた。その顔がにこーっとほころんでいく。殆ど声が揃った。
「で、誰々? 同じ学校?」
瑠衣は思わず脱力した。亜由美とメイの目がきらきらしている。

「違うよ。知り合いの知り合いなの」
「向こうから好きって言ってきたの?」
「違う違う。あたしが好きなだけ」
「いつ言うの?」
「まだ……ちょっと……」
「うーん、北島になんつったらいいかなぁ」

瑠衣は半分溜息をついて、半分苦笑した。少し考えて亜由美とメイの顔を見る。
「その人ね、もう社会人なの。でも今すごく大事な仕事をやってて、忙しいっていうか……。だからもうちょっとね……。自分の気持ちも、もっときちんと考えたいし」

亜由美が丸い目で肯いた。
「わかった。北島にはちゃんと言っとくよ。だって、瑠衣もホントにその人のこと好きみたいだから」
瑠衣もまたこっくりと深く肯いて返した。
「うん。ありがと」

恋は全ての優しい気持ちの始まり。

不思議な人から聞いたそのフレーズを、瑠衣は今思い出していた。

   (おしまい)

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