★第7話 (15/18)
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枯れ草の中を歩いていく。瑠衣のハイソックスにも島のウールのスーツにもイノコズチの種子が沢山ついた。元工場だった建物のトタンのあちこちに、貰いサビが浮いている。

鉄の大きな扉のそばで、赤星は輝と瑠衣に手早くいくつかの確認をした。自分達の陰に入って近づくこと。針が射出されても焦らない。準備から射出後までチャンスはしばらくある。タイミングは輝がとり、瑠衣はそれに合わせること‥‥。

「彼、なんであんなに落ち着いてんですか? ホントに普通の民間人なんですか?」
島が、どこかで笑みさえ浮かべている赤星を見ながらこっそりと柴田に耳打ちした。
「L機関のアカとクロは人間じゃねえって、聞いてねーのか?」
柴田の言うL機関とはOZを呼ぶ特警の隠語だった。なぜLなのかはよく分からなかったが、とにかく特警ではOZをよくそう呼んだ。
「え‥‥ま、まさか、ロボットとか改造人間なん‥‥」
がごんと島の頭に衝撃が入り、若い刑事は涙目で先輩を見上げた。
「バカ。んなワケあるか。モノのたとえだ。やたら資質のあるヤツをよちよち歩きから鍛えるとあーなるってぇ、見本みてーなヤツらなんだよ」

ヤツら、歩くのと同じように戦いやがる、と柴田が呟いた。脳ミソまで筋肉でできていそうなこの先輩刑事が言うのなら、ここにいる赤星とまだ会ったことのない黒羽という男が、とんでもない"達人"であるのは確かなようだった。
だけど、それだけじゃない、と島は思った。この男の持ってる妙な"安心感"のようなものはなんなのだろう。あの若い二人があんなにリラックスできる理由は‥‥? 皆、素人で、現場や恐怖の経験が少ないから、逆に力が発揮できるというのはあるかもしれない。それにしても‥‥‥‥。


「じゃ、入りましょう」赤星が柴田を見る。その目を、柴田が面白そうに見返した。
「出だしはオレが音頭とるぜ」
「仕方ないっすね」にっと挑発的に、赤星が笑った。

こいつ、自分がこんなカオしてることに気づいてんだろうか、と柴田は思った。普段はむしろ素直な好青年の部類に属するだろうこの男が、穏やかさをかなぐり捨てて、ぎらりと闘気を纏う。

この赤星という男は、勝負が心底好きなのだ。こんな現場であれ会議室や研究室の中であれ、ぎりぎりの状態に飛び込んでいってなんとかすることが好きでたまらないのだ。

幼い時から叩き込まれた拳法家としての技量やカン、鍛え上げた身体、類い希な集中力と決断力‥‥。その全てを、ただ一つの目的のために集約させる。高いポテンシャルを持つが故に、その高揚した感覚がより一層の快感になるだろうことは、容易に想像がついた

それでいい。何をもったいぶることはない。

それがあるからお前は動けるし、周りもお前についていく。
プレッシャーを楽しめるヤツがいるから、この世の中も、なんとか回っていくんだぜ。




頭がクリアになっていく。五感がどんどん鋭敏になって、身体中で全ての気配が感じ取れる。

柴田と鉄の扉を両側から開けて飛び込んだ。一瞬で、写真さながらに必要な情報が焼き付く。朱色の化け物の両脇に一人ずつ無表情なコートの男。左側には運転手風の男が二人、警官が一人。右には会社員らしき男と制服の男が一名ずつ。二人の警官が顔を上げて、はっきりとこちらを見た。

「特警だ! その連中、返してもらおうか!」
柴田の勝ち気な声を聞きながらすっと左側に位置づける。着装した輝と瑠衣はドアの陰だ。柴田が囮を買ってくれたおかげで、小柄な二人は自分たちを盾に完全に死角から近づけるだろう。

「はっ! これはまた、役に立ってくれそうな小僧どもだ!」
別の世界の生き物にも戦意はわかるのだろうか。アモクは嘲るような声でこちらに向き直った。少し重心を落として相手を睨み返す。右脇の柴田からも剥き出しの闘志がにじみ出ているのがわかった。

もう必要な音しか入ってこない。ものの動きがゆっくりと染みつくようだ。肉体が変質して限りない弾力が生じてくる気がする。全身が"合図"を待っている。それはたぶん歓喜に近い。

自分には修羅場を楽しむ気質があるという自覚には、どこか後ろめたさもあって‥‥。それが赤星をして、他者を庇い、自らをよりシビアな状況に追い込む所以となった。だが一方でその性分は、彼の素意を叶えるに有益であることもまた事実だった。

好きな奴が笑顔でいられるように。
その好きな奴の好きな奴がまた笑顔でいられるように‥‥。
端から見たら欲深いとも思える連鎖が、この男の内ではごくシンプルな願いとなる。

自分が幸せだったから、他人も幸せでいて欲しかった。それを護りたくてもっと強くなろうと思った。そして自分の思いを踏みにじられない強さがあったから、優しいままでいられた。ひたむきであればあるほど、優しさと強さが相乗して進んだ。

二人のコートの男が一気にアセロポッドの姿になって前に進み出る。3人の人間が怪人の周りに近寄り、少しだけ遅れて二人の警官がその外側に寄った。

柴田が、愛用のS&W357コンバットマグナムを引き抜くその動きが、スターターになった。



いい得物だとアモクは思った。自分の針にはその生物の限界までの力を引き出す力がある。"アモク"――熱病――に冒されたように、身体が壊れるまで暴れまくる。そしてその行動は体内で作り出すフェロモン物質によってコントロールすることが可能だった。とにかくもう少しサンプルを集め、発症するまでの時間を短くしたいところだった。

OZの残党に針が効かなかったのは少々残念だが、あの戦闘要員はどうもきわめて少人数のようだった。一般形態の人間の中にも多少の装備を持っている連中がいるようだが、その防備も武器もこちらには効かない。あえてそいつらを狙ってみたから、これからぞくぞくと集まってくるだろう。

早く向かってこい。おまえらのように敵愾心を露わにしてくるヤツほど役に立つ。そのパワーを自身の仲間に振り向けるがいい。

アモクの両腕の剛毛が逆立った。

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