★第7話 (16/18)
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普段使う38スペシャルでなく357マグナム弾を籠めてあったが、それでもポッドを確実に倒すならストーンを狙うしかない。だがこの角度で額を狙うのは冒険に思えた。流れれば後の人間にあたる危険がある。赤星の考えていることはわかっていた。柴田は前に飛び出して角度を稼ぎ、赤星に向かってくるポッドの胴体めがけて引き金を絞った。
銃弾の衝撃にくの字に折れ曲がり、突き出されたポッドの顎の先端に、飛び込んできた赤星の拳頭が炸裂する。脳と頸椎に激しい衝撃を加えるピンポイントに強烈な打撃をくらってポッドが崩れる。流石に生身の拳でストーンを破壊するのはヘビーだ。赤星はそのまま前方の3人を目指して駆けた。
二人の警官がいきなり民間人を取り押さえにかかったのを見て、アモクは驚き、制動物質の蒸散を止めた。会社員と二人の運転手が手近の警官に襲いかかった。赤星が一人の運転手の上腕を掴み、自分に注意を向けさせる。自分の身体が、アモクからの楯の位置に入るように注意していた。
柴田は思わず舌打ちした。銃口を向け直そうとした時には既に遅く、ポッドのでかい手ががっしとシリンダーを掴んでいた。これをやられたら相手が女性でも引き金は引けない。しかし、だからと言って、銃から手を放すわけにもいかなかった。
「頭、低くっ!」
後ろから少年のように澄んだ声が響いた。反射的に身を沈める。視界の最上端に銀色がかった緑の煌めきが走り、トンファーの長柄が吸い込まれるようにポッドのストーンに入った。その一点を支点にして小柄な緑のボディが自分の頭上を翻っていく。信じられない思いでそれを見やった時、銃にかかっていた力が消え、目の前のポッドが消えた。
「リーブラスター、フレームモードっ!」
朱色の長い腕がふりあげられるのと、小兵の持つ銃から炎が射出されるのが同時だった。ほんの瞬刻遅れて左手からも火線が走る。グリーンとピンク。柴田からみたら子供のように華奢な二つの身体から放たれた火焔は、完璧なタイミングでアモクの両腕を燃え上がらせた。
柴田はそのオレンジ色を横目に右手の警官のそばに走り寄った。警官は会社員の身体を引きずりながら待避しようとしていた。
「よくやった、大丈夫か!?」柴田がひょいと会社員の身体を抱え上げる。
「はい!」弾んだ息で柴田を見つめた警官は若く、今風のひょろ長い体型の男だった。
「逃げろ、急げ。救急車は回してある」
よく凶暴化した人間を取り押さえられたものだと内心苦笑しながら、柴田はその若い警官の背中にぐったりした会社員を背負わせた。警官は、一瞬後ろにバランスを崩しそうになりながら、それでもその重みを背負い直すと出口に向かって駆け出した。
崩れた身体を抱きとめた刹那、赤星はうなじの産毛が逆立つ気がした。とっさに運転手を抱え込み身体を丸める。右肩胛骨の下から背中の中心にかけて3本、針が刺さったのがわかった。もちろん皮膚には達していないが、熱を感じる。アモクの喚き声が聞こえていた。発射しかけた分が発火して飛んできたのだろう。この程度なら皮革は十分耐えられる、が‥‥。
「大丈夫ですかっ!」警官に向かって怒鳴る。もう一人の運転手の上に覆い被さった警官の背中にかかった火を、島が脱いだ上着で払っていた。と、島がぱっと赤星を見やった。
その時、既に赤星は運転手の身体を横たえ、向きも変えずに後に踏み込んでいた。背後から迫ってきたポッドの懐に入り、相手の破れかけた服を掴んで腰から跳ね上げる。最も危険なその両手を身体の前に引き込んで固定すると、仰向けになったポッドの鳩尾に、背中から倒れ込むように肘打ちをぶち込んだ。
よく磨き込まれた小振りの拳銃が視界に飛び込んできた時は、反射的にそれを掴み取りそうになった。思いとどまり、起き上がろうとするポッドを、背中で力一杯押さえつける。若い刑事はS&Wチーフス・スペシャルを無造作にポッドの額に押しつけた。引き金が引かれると同時に、鼓膜を庇おうと思わずごくりと唾を飲み込んだ。いくら小さな拳銃でも頭のそばでぶっ放されるなど気持ちのいいものではなかった。次の瞬間にポッドが消え、赤星の身体はずんと床に落ちた。
ワイシャツ姿の少し紅潮した顔で、島は、床から自分を仰ぎ見た赤星に笑いかけた。
「運転手さん、僕が連れて行きます」
「あ‥‥。あとの人と早く逃げて下さい」
赤星は、若い刑事の妙な剛胆さに半分呆れ、半分感心しながら跳ね起きた。
アモクは強く両腕をはらった。勢いで火が消える。が、彼の大事な針はもう使い物にならなかった。
「貴様らっ!!」
怒りにまかせて右手のピンクの小柄な身体を捉えにかかった。
瑠衣は身を沈める‥‥というよりほとんど床に倒れ込んだ。床につけた両手でくんっと身体を回転させる。このスーツを着て床運動したらきっと凄いと思うのっ‥‥とは、有望にしか言ったことのない瑠衣の素直な感想。瑠衣の綺麗に揃えられて伸びた両足がアモクの足を思い切り払った。
アモクの長身が倒れ込む。しかし逆の方向から衝撃が加わった。
「トンファー・ブレードモードッ!」
緑銀に輝くトンファーの短柄と長柄の交差した部分から三日月刀のような刃が伸びている。ルートンファーの長柄の先を逆手に持ち、ブレードでアモクの肩のあたりからすくい上げるように斬りつける。既に体制を立て直したピンクの手にはブラスターに変わってスティックが握られていた。
「エレクトリック・サイクロン!」
さしもの柴田も着装した二人の驚異的な動きにただ圧倒されていた。6人の人間が全員建物の外に避難するまで、怪人の注意を完全に自分たちに引きつける。アモクはもはや怒りに自分を見失っているようだった。
切り込んだトンファーのブレードが、固い皮膚に阻まれて動かなくなる。
「ブレード、戻せっ!」
赤星の声に輝はとっさにブレードを引っ込めた。飛び込んだ勢いのまま、アモクの頭に手を付いて建物の奥の方に飛び、瑠衣と並んだ。
アモクは声の方を見る。最初に飛び込んできた二人の男が、最初のままの挑発的な様子で、自分を見ていた。やわな形態をしていながら、自分に一杯食わせたのがこいつらかと思うと頭に血が上った。ゴリアントの処に返る前に、この二人だけは血祭りに上げようと思った。
赤星と柴田はアモクを睨め付けたまま数歩後じさった。アモクが数歩進み出る。二人がまた数歩下がる。アモクが詰める。アモクの後ろから、輝と瑠衣も近寄ってきていた。
二人の男は、ばっと向きを変えると、建物から走り出た。
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