★第7話 (4/18)
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メキッ ボコッ という金属音が、悲鳴に混じって響きわたった。
負傷者の救助のために入っていた救急隊員と警官隊にいきなり現れた巨体が襲いかかっている。どでかい拳がジェラルミンの楯ごと機動隊を打ち飛ばしていた。
「リーブ・チャクラムッ」黄龍がとっさに残りのチャクラムを投げる。チャクラムを避けた怪物と警官隊の間に距離ができた。
赤星は周囲を見回した。今、人がいるのは、その方向だけだった。一瞬の躊躇の後に彼は叫んだ。
「ガードだ!」変形前のバズーカはそのまま上昇し、4人はだっと怪物と警官隊の間に入った。
黄褐色のざらついた感じの肌と黒い斑点模様。黒光りする角。恐竜がこの世に現れたとしか思えない。だがぎょろついた赤い目は高い知能とずるがしこさを感じさせる。発達したキバが覗くその口が、ニヤッと左右に裂けた。大柄なのに恐ろしいほどのバネを感じさせるその生き物が4人を睨め付けた。
「上から見てたが、なかなかヤルじゃねーか、OZの死に損ない?」
かすれた耳障りな声音だった。
「お前は‥‥?」赤星はぞくっとするような感触を覚えていた。危険だ。こいつは危険だ!
「スパイダル四天王、モンスター軍団のゴリアント様だっ!」
言葉を発すると同時に、ゴリアントは大剣を振りかざし、赤星に襲いかかっていた。反射的に変化させたブレードでその刃を受け止める。輝が身構え、赤星の側に位置づける。
「早く避難するんだ!」黒羽と黄龍は負傷者の救助に入ろうとした。
「なにをするっ」「やめろっ」いきなり驚愕の叫びが周囲を埋める。
気を失っていた負傷者の半数ほどがいきなり立ち上がり、救急隊や警官隊に殴りかかってきた。
「な‥‥!?」
「どーなってんだっ!?」
予想外の展開に黄龍とさしもの黒羽までが動きを止めた。ゴリアントの引きつったような笑いが響いた。
「"アモク"だ! きかねーのかと思ったぜ! 地球人にはよっ」
「どういう意味だっ」赤星が力任せにブレードを薙ぎ払う。まるでカンガルーの様に後ろに跳ね飛んだゴリアントの脇に、朱色の怪人、アモクが並んだ。
「こういうことさ!」
アモクがすっと腕を一閃させた。赤星と輝はスーツに何かがぴしぴしと当たるのを感じた。背後で悲鳴が上がる。
「レッドッ 針だよっ 腕から針を発射するんだっ」
救急隊員、警官隊、そして救助されるている途中の負傷者たちまでもが、針にさされてうずくまっていった。
「楽しみにしろっ! そいつらもそのうち、暴れ出すぜっ アモクッ こいっ」
ゴリアントはそう言い捨てると、アモクと共にそのまま消えた。
ごく普通のサラリーマンやOL達が襲いかかってくる。その強さと速さが異常だった。
「どーなってんだっ! 人間業じゃねーっ」彼らに掴みかかられて黄龍が怒鳴る。
黒羽はスーツ姿の華奢な男の拳を紙一重でかわして、首筋にすとんと手刀を落とした。崩れた身体をささえてぞっとした。今のストレート、入ってたら相手の手の骨も折れていた‥‥。
「攻撃を受けるな! かわせっ 受けたら相手がケガするぞっ」
赤星は一番最初のアモクの不思議な行動を思い出した。あの時、アセロポッドたちもあの針で刺されたのだ。そして自己保存のためのリミッターが外れ、自分の身体が壊れることもかまわずに攻撃してきた。それがあの強さの秘密だったんだ。
「オズベース! 警察と回線接続して下さいっ」
赤星はリーブレスに向かって、手早く事情を説明しだした。
瑠衣を呼ばなかった自分の判断を、痛恨の思いで噛みしめながら‥‥。
===***===
被害者達は警察病院の特殊病棟に監視付きで隔離された。アモクの針に刺されるとすぐ意識を失うが、30分程度で異常な興奮状態になって暴れ回る。自らの格闘行為で手足を骨折した人もいた。彼らのカテコールアミンの血中濃度は正常値の5倍以上にも達していた。だが、幸い現在使用されている薬物で、それを下げることは可能であり、二度目に攻撃を受けた人たちは、発症を抑えることができた。
コントロール・ルームで赤星は、無言で戦闘データの整理と分析を行っていた。もし5人揃っていれば、先にアモクを吹き飛ばせていただろう。チャージに20秒もかかっていては警官隊に死者が出るかもしれない。そう思って撃つのをやめた。
(赤星、甘いぞ)
4人で出撃すると言った時、黒羽が耳打ちした一言。
その通りだ‥‥。先週、瑠衣を戦わせると決めたばかりなのに、こんな大事な時に迷うなんて‥‥。
まだ、チームで戦うことが、どういうことか、俺にはわかってねえんだな‥‥。
それでも黒羽は現場に出れば、いつも黙ってフォローしてくれる。
自分にはできすぎた相棒だと感謝の言葉もない。
黄龍や輝でさえ、それを戦いの場に引きずり出すのだと感情的に納得するのにしばらくかかった。ましてや小さな小さな子供時代から知っている少女をリーブスの一員とすることに、赤星の感覚は追い付いていなかった。
感情にとらわれちゃ、ダメだ‥‥。冷静に考えないと‥‥。
自分が自分でなくなっていく気がしたが、こんなことは、ここ何年のうちに何度も経験していた。
「赤星さん、こっち終わったよ〜。次、どれだいー?」
黄龍の声で我に返った。輝は上に行っており、黄龍と黒羽がデータ分析を手伝ってくれていた。特に黄龍は、多少のハッキングをやる程度の知識があり、ちょっと教えるだけでこういった作業を効率よくこなしてくれた。
「サンキュ。次、じゃあ、グリーンのログデータ、処理してくれるか?」
「オッケー」
警察の専用回線に通信が入った。側にいた田島が通話機を取った。
「はい、こちらオズべース‥‥。え、浅見警備局長‥‥!」
赤星が思わずがばと立ち上がる。その顔が一瞬歪んだのを黄龍は見逃さなかった。警察庁警備局はテロやゲリラ対策を担当する公安1課2課を抱えるいわば特殊犯罪担当局である。OZは、この警備局局長が直に管理する警備局特命課と最も密接に連絡を取り合っている。黒羽の先輩にあたる西条進吾刑事もこの特命課に在籍していた。
「赤星‥‥。浅見さん、こっちに来るって。お前と話したいらしい」
通話機を置いた田島が少し気の毒そうな声で、赤星に言った。
「げ‥‥。こんなトコ‥‥来るヒマあんのかよ、あの人‥‥」
「グチは言わない。現場はお前の担当だ」
「‥‥ですね‥‥。はい‥‥。覚悟、決めますよ‥‥‥‥」
「赤星さん、めっずらしいねー? そんなヤなヤツってわけ〜?」黄龍が口を挟む。
「いや‥‥イヤっていうか、キツイ人なんだよ。前からあの人とは色々あって‥‥」
「グチは言わない」黒羽が田島のマネをして笑った。
「西条先輩、その局長、厳しいが悪い人じゃないと言ってたぜ?」
「悪い人じゃないのはわかってるさ‥‥」赤星は大きな溜息をついた。
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