★第8話 (13/16)
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(表紙)
輝の実家には、ミグという名前のでっかいネコが一匹いる。
中途半端な毛足で薄茶色、金色の目をした女の子だ。
彼がまだ小学生だったころ、近くの寺に父親の仕事を見学に来ていたとき、拾ったのだった。
まだ小さな仔猫だというのに、毛足はぼろぼろ。鳴くことさえままならないくらい衰弱していて、それでも力を振り絞ってみゅうみゅう鳴いていた。
人を疑って生きるということをまだ知らない猫は、自分を見つけた輝に精一杯助けを求めている。
輝が見つけた時にはすでに時遅し、3匹いたけどもう2匹は寄り添うようにして冷たくなっていた。
「ねえ、おとうさん・・・?」
助けを請うネコの代わりに、輝が父に助けを請う。
反対されたってどうにかして連れて帰るつもりだったけど、大好きな父親がこの提案に反対することは、多分なかったんだと思う。
「住職にお墓を作る許可をもらってこい。そいつは蛍んとこに連れて帰ろう。」
「うん、わかった!」
行きは父親と手をつないでいたけど、帰りはその子を両手で大切に抱っこしてた。
小さな手のひらに、これまた小さな赤ちゃん猫。頬を寄せるとふわふわしている。
まるでぬいぐるみみたい。
けど、ぬいぐるみと違うのはこの子には体温があるってこと。
暖かくて、柔らかな毛の感触は昨日の事みたいに思い出せる。
「おかあさん、あらるぎーとかなかったっけ?」
「アレルギーだっ。大丈夫、蛍はそんなモン持ってない。」
「ひなたは?」
「平気だろう?それに、ここに捨てていったままで家帰ったら、蛍はきっとオレ達を家に入れてくれねえだろうな。」
「そうだねっ。」
彼女を拾って育ててくれる事を許してくれた父も、「まあ、カワイイ子供がまたひとり増えたわね。」と言って喜んでくれた母も、小さな手をばたばたさせて触ろうとしていたひなたも、そして自分も、優しかったンだと思う。
そのあとに生まれた昴も、燈子も、ミグには優しかった。ミグも優しかった。
じゃあ・・・?
目の前にいるロボットは、一体誰に祝福されて生まれたんだろう?
誰に優しくしてもらったんだろう?
誰が・・・・・・。
「おい、グリーン!!」
はっとして顔を上げる。スーツのおかげで降っている雨は体に何も感じない。
だが視界をさえぎる薄いカベになっている事に、違いはない。
先日イエローが頭を吹っ飛ばしたはずのネコ型ロボットは、地面に落ちたままになってたマリオネの両腕を食い、そして彼の右腕だった場所にからみついている。コードを彼の体に這わせて、ヒフの下にずぶずぶと食い込ませる。赤い色に似た毛を逆立たせて、のたうち回るコードが血管のように脈打ってマリオネの裸になっている右半身を覆っていく。
まるで何かの小説で読んだインプラントを埋め込むような、そんな違和感があった。
違和感という単語は、『なんでもあり』の怪人に対してふさわしくないかもしれないけど。
「あのネコ・・・?こわれたはずじゃなかったの!?」
最初に声をあげたのはピンクだった。
「確かにブッ壊れていたさ、主任達の話だとな。けど、異次元製品なんだよな。」
まいったな、と黒羽は少しもまいってないようにつぶやいてみせた。
「さて・・・どうしようか。」
拳をがつりと合わせて、目の前の大ピンチに少し微笑む。
「あ〜あ、焼いておけばよかったってか?」
髪をかき上げる仕種をして、そういえばマスクしてたんだっけと、手持ちぶさたになった右手を振ってみせる。
またみんなの声が遠くに聞こえる。
声が出てこない。
ロボットが・・・・・・あのロボットが、そんな・・・。
もう、壊れたから動かないはずじゃなかったの?
サルファの言ってた通り、『壊してあげた方がよかった。』んじゃなかったの?
「どうして・・・。」
(グリーン!)
サルファの声がリーブレスから聞こえる。彼も『機械』のはずなんだけど、なぜか必死な声に聞こえてくる。
(聞コエテマスカ?さるふぁデス。)
「聞こえているよ・・・サルファ、どうしてあのロボットがまた動き出したの・・・?」
(原因ハワカリマセン。グリーン、倒シテ。オ願イデス。アノロボットハ意思ニ関係ナク起動サセラレタンデス。マタ、破壊スルタメニ・・・。)
「どうして・・・?」
(エ?)
グリーンの、輝の良く通る声が低くなった。つられて周りの仲間達も振り返る。
昨日の出来事が頭をよぎる。丸い瞳を見開いて自分の腕に噛みつくロボット。
頭を吹っ飛ばされて、機能が停止して、もう動かないんじゃなかったの?
「だって、昨日壊したんだよっ!!壊れて・・・壊れたでしょっ!?どうしてまたこんな事のために動かされなくちゃいけないんだよっ!!」
(デ、デスカラ・・・)
「いやだっ!!壊しても壊しても、また動き出す・・・。そんなのかわいそうだよっ!」
どがっ!!
顔を思いっきり蹴り飛ばされて、地面に転がった。
頬骨に痺れが走る。
蹴られた頬を押さえて顔を上げるとイエローの姿があった。マスクをしていてはよくわからないが、このごろそこそこ掴む事ができるようになった気配でわかる。
彼の背後に渦巻く感情が。
リーダーをまた尊敬してしまった。渦巻く気配が掴めることがどれだけ凄いって事が。
そして、その恐怖に押しつぶされないようにするにはどれだけ大変だって事が。
「・・・・・・っ、お前、ピンクに感謝しろよ。本当ならリボルバーで頭ぶん殴るとこだったんだからな・・・。」
彼の利き腕を、柔らかな両手が必死になって押さえている。
小さなリボルバーだったが、スーツを着た人間の腕力で殴られたら、どうなるかわかったものではない。
「かわいそうだと・・・・・・?」
イエローの、黄龍の声が低くなる。マスクをしていてよかった。
はっきり言って今の彼の表情は見たくない。
きっと、怖い顔をしてる。
とてつもなく。
彼の口から放たれた言葉も、こわかった。
「それはてめーの事か?それともロボットの事か?」
「・・・・・・・・・・・・。」
雨が降る。雨がスーツの上からつたう。
イエローの後ろで異常なほど赤い『右腕』がつながりつつあるマリオネの表情は変わらない。雨に打たれた肌に、コードが這う。ネコロボットの口が大きく裂けて、キバを剥いた。
ロボットだというのによだれの糸が引く。
雨の音が頬に響く。
「な・・・なにいってん」
また声が遠く響いた。
「レッドっ!お人形さんはもう準備万端のようだぜえ!!」
イエローの声がグリーンの声に重なるように雨空に響く。
つま先で地面を蹴って、そのあとには戦いの音が聞こえてくる。
イエローのチャクラムがマリオネにぶつかる音がする。ブラックの矢が刺さる音も。
握力が戻ったマリオネは彼らの攻撃にスピーディに反応している。
雨の地面にへばりついたままのグリーンは動かない。
頭の中が土の地面のようにぐっちゃぐちゃになっている。
整理するほどの時間もなさそうだし、そんな心の余裕も彼は今持ってない。
戦う音が聞こえる。
「いかなくちゃ・・・いって、倒さなくちゃ。」
仲間が戦う音が聞こえるけど足がどうしても動かない。
頭がくらくらする。
めまいがする。
彼が言った一言が頭を渦巻く。
(・・・・・・それはてめーのことか・・・・・・?)
違うよ・・・ロボットの事だよ。
操られて、かわいそうじゃないっ・・・。したくもないことをしなくちゃいけないんだよ。
自分の意志とは関係なく、こんな事しなくちゃいけないんだよ・・・。
「・・・・・・ロボットだけどさ。」
ひとりごとのように口から出た言葉を、レッドとピンクは聞き逃さなかった。
2人はイエローとブラックの後を追って、駆け出そうとしていた右足をグリーンに向けた。
「ぐ、グリーン・・・。あたし、ね。」
最初はゆっくり目に、けど少しだけ早口でピンクが彼につぶやいた。
「優しい事って、とっても素敵な事だと思うよ。あたしも誰かに優しくされたら嬉しいし、優しくしたいと思うもん。けど、輝さんはだれにでも優しいんだよね・・・。あたし達にもあのロボット達にも。」
「ピンク・・・・・・?」
「あたしはもう少し、輝さんの優しさが、こっちに向いてくれると嬉しいな。」
彼女は、じゃあ行くねっ!と買い物に出かけるかのような軽やかさで元気良くマリオネの方に向かう。華奢な体に魔法のスティックを携えて。
「輝、時間ねえからヒントだ!」
「は、ハイ。」
レッドはこんな時でも返事をするグリーンにちょっと苦笑して、明るく、多分にっこり笑って彼に叫ぶように言った。
「瑠衣の言ってた優しい・・・って感情はさ、色々と応用がきくんだぜ。多分な!」
「お・・・応用?」
「そ。瑠衣の言っていた『こっちに向けて欲しい優しさ』はなんだと思う?」
「な、何ってそんな・・・。」
「今は俺達にまかせるんだ。結論が出たらこっちに来い!」
「ま、まってリーダーっ・・・あ。」
彼が請うようにして掲げた手をレッドは遮った。
「・・・・・・みんな待ってるぜっ!」
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