★第8話 (4/16)
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「あら、輝くん。」
「有望主任っ!ごめんなさい、いきなり押しかけて・・・。あの、リーダー達が運んできた、ロボット・・・いる?」
「これのこと・・・ね。」
有望は頑丈なプラスチックケースに入ったロボットの残骸を見せた。
原型はほとんどとどめていない。
かっと見開かれた目、くずれた顔、柔らかそうな毛の下から突き出たグレーの金属破片。
それを見て、輝はようやくこれがロボットだったんだと納得がついた。先ほどまではどうしても家で飼っているネコと一緒にしていたから。
「・・・うちにいるネコみたい・・・。金属がなかったらほんとにそっくりなんです。」
「輝くんの家はネコいるんだ?」
「ハイ、ミグっていうんですっ!この子みたいな中途半端な毛の長さをしたネコで、薄い茶色で、なんでもかんでもよく食べて・・・。」
輝は優しくみつめる有望の視線に急に気が付いて、すっと目をそらした。ときめきの動悸じゃなくて、後ろめたい動悸音が自分の体を圧迫する。
「輝くんは、どうして黄龍くんの腕を横殴りしたのかしら?」
「え?ど、どうして有望主任が知っているの・・・?」
「だって、色んな画像がこちらまで届くようになっているもの、ね?」
彼女はくすくす笑い、輝にコーヒーを差し出した。
輝はずずっとそれをすすり、熱かったせいでちょっとだけ顔をしかめた。
黄龍の腕。きっとそれが赤星の腕でも、黒羽の腕でも彼はふりほどいていたに違いない。
少し細めで、銃をかまえるすっとした姿に似合うその腕は、いつも自分をおちょくったり、助けたりしてくれていた。
今日の腕は、初めてみる黄龍の腕だったのだ。
今まで出てきた敵は、ここに住んでいる人間や動物たちとはかけ離れた生き物だった。
それで迷うことなく、倒せていたのかもしれない。
敵があんな小さなネコの姿になっただけで、それを壊す黄龍の手をみただけで、こんなにも動揺している自分に腹を立てていたのかもしれない。
「わかんない・・・わかんないです。けど、スパイダルは敵なんです。瑠衣ちゃんのお父さんも、お母さんもそいつらのせいで殺されて・・・。敵は敵、なんです、よね・・・。」
「輝君。」
「悪いヤツは悪い、そんなこともわかってる、オレだってオズリーブスなんだもんっ!!」
ひとしきり大声を出した後で、輝は黙ったままになっている有望に「ごめんなさい、大きな声だして・・・。」とあやまり、プラスチックケースの中にいるロボットを見た。
触れられないとわかっていても、ケースの上から柔らかな毛のネコに手を這わせる。
「けど、この子達は本当に悪いヤツじゃないでしょ?作ったヤツが悪いでしょ?・・・違う?」
「輝サン。」
有望の横で黙って話を聞いていたサルファが口(?)を開けた。
「何?サルファ・・・?」
輝はまるで自分の家にいるミグの頭を撫でるようにして、彼の頭にポンと手を置いた。
「輝サンハ、ろぼっとノ価値ハ一体何ダト思イマスカ?」
「ロボットの価値・・・って、そんなの。」
いきなり何を言っているんだろう?サルファ・・・?
機械の話をしたところで輝はわからない、というのはサルファと有望が一番よくわかっている。リーブレスの説明をするだけで、あまりの物わかりのわるさに赤星や彼女達を困らせた彼なのだ。
彼はサルファの質問の意図がよくわからなかったが、サルファの頭に置いたままの手を離し、サルファの手をぎゅっと握った。
「そんなのわかんないよ、オレ、難しい事はわかんない。けど、サルファはサルファでしょ?」
自分のレンズをのぞき込む輝に、サルファはそれをかちかちと点滅させてみる。
彼なりの、『嬉しい』をあらわす表現方法だ。
「さるふぁハ、ろぼっとノ価値ハ、ソノろぼっとノソバニイル人間ニヨルモノダト思イマス。」
「そばにいる人・・?」
「ソウデス。」
サルファはレンズをかちかちさせるのをやめて、輝が手を伸ばしていたケースに頭を一回転させてのぞき込んだ。
「コノ、ねこ型ノろぼっとハ、ソバニイタヒトガ輝サンノヨウニ優シイ人デハナカッタノデショウネ。」
「どういうことなの・・・?サルファ?」
「さるふぁハコウシテ、ココニイテ、輝サントオシャベリデキマスケド、ソレモ人工知能ノ範囲内デス。ケド、さるふぁハトッテモシアワセデス。博士ヤ主任、優シイ赤星サン、黒羽サン、黄龍サン、瑠衣サン、アナタガイテ。」
「サルファ・・・。」
サルファは壊れたネコ型ロボットを見て、また瞳をかちかちと点滅させた。
そしてまた潤んだ目になった輝に、有望からハンカチを借りて彼の目の前に差し出した。
「ダカラ、コノろぼっとハ壊シテアゲテヨカッタト思イマス。破壊活動ヲ繰リ返スダケノ機能シカナイ、ソンナノハコノろぼっとダッテ嫌ダッタハズデス・・・。」
「オレ、エイナに嫌な事しちゃった・・・?」
「どちらも正しい行動でしょ?」
2人のやりとりを聞いていた有望はニッコリ笑ってちょっと濃いめのコーヒーを口にした。
「敵を倒した黄龍君も、それを見てびっくりしちゃった輝君も、どっちも正しい。私はそう思う・・・。けどね、輝くん?」
「優しいだけじゃダメな時だってあるはずよ。」
その言葉の意味は、自分にはまだよくわからない。
どうして、優しいがダメなの?
一番普遍的な感情でしょ?
それだけが、無条件にひとに受け入れられる感情じゃないのかな・・・。
違うの?
「けど、ちょっとホっとした・・・。」
「有望?」
彼女はまた濃いめのコーヒーを口にして、赤星にゆっくり微笑む。
メインルームから輝と出てきた有望は、途中で自室へと戻った輝を見送った後、喫茶の中へ入ってきた。
店の中には赤星しかいない。明かりを一段階落として、彼はゆっくりと後かたづけを終了させたところだった。
「だってね、輝くんてばあなたや黒羽くんの言うことはなんでも聞くでしょう?日常のつまんない事でも、トンファーのお稽古でも、ちょっとムリかなって思う事だって。」
彼女がそこまで口に出すと、ようやく赤星は顔をあげた。それを確認しつつ有望はまた話を続ける。
「気持ちがいい返事ができるっていうのはいいことだわ。なかなか出来ない事ですもの。あなた達を彼がいかに信用しているかっていうのもあるけどね。自分のポリシーに反する事が、戦いの場面で出てきた時・・・その時に彼は一体どうするのかな、って思っていたの。」
「あいつは・・・俺達の言うことを聞いていただけ?」
「受け身になりやすいのが、輝くんの悪いトコでもあるわね・・・。けど。」
彼女は瞳を細くして、またくすくす笑う。
「大丈夫でしょ?あなたがそんな顔しないの、みんなけっこう強くできてるモノよ。」
ラジオから流れるニュースは明日の天気を電波に流している。
明日の天気は、曇り空、ところにより一時雨・・・。
黄龍はまだ帰らない。
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