★第8話 (6/16)
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昨日の事は余り覚えてない。
久しぶりに行った彼女のクラブで酒ばっかり飲んでた。
いくら飲んでも酔いが回らないと思っていたが、それは自分に対するウソだったらしい。

頭ががんがんするのを庇うように右手で押さえつけていると、彼女はボトル入りのミネラルウォーターをぼん、と投げつけてよこした。
「黄龍ちゃん、久々だったけど・・・。アンタちょっぴりいい男になったわネエ。」
「あん?・・・何何?そんなに俺様イイ男になった?」
彼女は黄龍の胸を人差し指でつつうっとなぞり、くすくす笑った。

「随分、鍛えたんじゃない。ちょっとだけ盛り上がってるからわかるの、いつからそんなに運動するほど健康優良児になったのかしらん?」
「ナエちゃん・・・。」
ナエの瞳で、覗かれるように見られる事が黄龍はあまりスキではなかった。
つけまつげの下から、なんでもかんでも見透かされるような気がして。

彼女のように、頭が良くカンがスルドイタイプの女性と深く関わり合いになる事を、黄龍は無意識のうちなのか、避けている事が多かった。
彼女とこうしてつきあいができるのは、彼女が生物学的には『男性』だから、というのもあるのだろう。

黄龍はハッ・・・と面白くなさそうに顔をしかめて、彼女に向き直った。
「なんでもねえよ、ナエちゃんの気のせいだっつの。」
「黄龍ちゃん。アンタは他人と面かわしてしゃべるのがキライでしょう?だからこそ、目があった女の子達はアンタにメロメロになる。」
肯定の意味を込めて、ひゅうっと唇を鳴らした。
その通りだ。
大正解。
かけひきで目を合わせることはあっても、普通にしゃべるときに目を合わせる事はあまりない。
男でも女でも。
たとえ命を預かりあう仲間でも。

目を合わせない、じゃなくて合わせるのをどこかで拒否してる。


「面と向かって、しゃべってごらんよ・・・。その後はすっごーくラクになるわ。」
彼女は黄龍のジャケットの内ポケットから、最新型の携帯電話を取り出して、彼の右手めがけてぶん投げた。
「?」
「昨日、電話来てたわよ。テルってコから。きっとカワイイ男の子でしょ?紹介しなさいよね。」
「輝から・・・・・・?」

ナエはベッドのそばにおいていた黄龍のタバコを、2本取り出して火を付けた。
「ゴメンね、思わず電話取っちゃったのよん。」
「なんの用だよ・・・。ったくよ。」
「こらこらそんな風に言わない〜・・・。」
彼女は自分のくわえていたタバコを彼の口に押し込み、自分は新しいタバコに火をつけた。

「今時、関係修復のために電話かけてくる子なんてめずらしーわよオ。こじれたら、めんどくさいからそのまんまってヤツがザラなのにさあ。『エイナと話がいっぱいしたいんです。そう伝えておいて下さい・・・。』だってサ。場所はいつもの公園、ずっと待ってるからって。」
「公園・・・。」

黄龍は髪をかき上げて、だるそうに大きなため息を付いた。
「ずっと待ってるって、男が言うセリフかよ。」
「黄龍ちゃん。」
ナエは彼の頬に軽くキスをしてニヤリと笑った。
「その子、今度アタシに紹介して。約束よ、や・く・そ・く。」
「・・・・・・努力してみるよ・・・。」

黄龍は頬をごしごしこすってから、裸の上半身にジャケットをばさりと着込んだ。

天気予報ははずれたらしい。
気分とは裏腹に、腹立つくらい眩しい光が体に射し込んでいる。



真っ暗の中に、赤黒く染まった雲。
太陽というものは存在しない。
闇の中、スパイダルの居城。
赤と黒が入り交じる空を背景に、スプリガンは螺旋階段に腰掛け、かちかちと工具をいじくり何かを作っていた。
ごつい金属の手のひらの中で、びっくりするほど繊細な仕掛けのリモコンが生まれようとしている。
こういうものを作っていると、何も考えずにすむ。しかし、今回に限っては物事を整理するのに少しだけ頭を使っていた。

まだマリオネには動くよう指示は出していない。
少しだけ暴れさせればいい話なのだが、あれが暴れるとOZの残党どころか日本自体壊滅しかねない。
オモチャの暴走を止めさせるのは自分の意識次第でどうにでもなるが、万が一、の場合も考えて一応手は打っておいた。
そのためにこんなリモートコントローラを作っているのだ。


「精が出るこって。」
「・・・・・・。」

振り返ると、自分の手のひらの中身をじいっとみつめる牙将軍ゴリアントの姿があった。
猫背に、でかいキバを光らせていつも通りぎらぎらと輝く目玉。
スプリガンは自分の顔を、あまり表情を出せるように作っていない。
それでも顔をしかめるマネをしてゴリアントに悪態をついた。
「あまり顔近づけんな、近くで見て耐えられる顔だと思ってんのか?お前さんは。」
「うるせいやい・・・。おめえんとこの怪人はどうよ。ひ弱そうだなア、ありゃ。」
「ふふ。」

スプリガンは作りかけのリモコンを傍らに置き、すっと右手をはらうと目の前の空間にマリオネの立体映像が出てきた。
人形のように無機質な表情、冷たく青い瞳、そして何より細いからだ。
3次元の人間達とあまり変わらない姿の怪人は、武器すら持っていない。
ゴリアントは自分が率いる魔獣達とはあまりにもかけ離れた姿に、思わず鼻を鳴らして牙をむいてニタリと笑った。
自分が力を込めるだけで、くずれて壊れそうなその体に彼は嘲笑を浴びせた。
「何回見ても弱そうだな〜・・・。オレっちんとこの下級魔獣にもヤラれそうだぜえ?」
「・・・・・・シンプルな程強い、オレはそう思う。」
彼は目の前にいる立体映像に触れるマネをして、ゴリアントに振り返った。


「なあゴリさんよ、このマリオネ・・・何か特殊な能力があるかといや、そんなこたねえんだ。」
「何?お前なんだ、人形をぶっ壊されるためにわざわざ、3次元へ送ったのかよ?」
「まあまあ焦らさんな・・・特殊な能力もない、オレの命令がなければ何もできん、その上弱そうな体。・・・それでも、それを補って余りあるほどの『力』が、こいつにはある。」
「力?それじゃやっぱり能力があるんじゃねえか。」

「そうじゃねえ・・・マリオネは・・・・・・とっても。」
あるはずのない物体を握りしめるマネをして、スプリガンは嬉しそうに笑った。


「『力持ち』なんだ、ゴリアント・・・。」


ゴリアントはスプリガンのレンズがぎらりと光るのを見た。
まるで自分が戦う時のように、らんらんと輝いてるのがわかり、彼は少し後ろにその身を引いた。

「その両手は、ヒトやモノを簡単に・・・・・・『ひきちぎ』る・・・。」
「な、なるほど。乏しい顔つきや動きはそのせいか。」
「まあ、その気になりゃ壊滅くらいできそうだが・・・。今回のあいつへの命令は、ジャマするOZの残党だけを片づける事だ。」

スプリガンは赤と黒の空を見た。
この場所の空は、決して最初からこんな空ではなかったはずだ。

暗黒次元と呼ばれるようになったのは、一体いつからだったか・・・。



BIが彼らに出した命令は、『降伏』させること。
美しく青い空、豊かな資源、意外にも高水準の文明社会。
暗黒次元は文明こそ優れているかもしれないが、青い空というモノが存在しない。
いつでも赤黒く、よどんだ空気がたちこめる。
 
「他の人間達は奴隷やらでオレ達が使うんだろ?もしマリオネが意思を持って暴走したとしたら、あの国なんてすぐになくなっちまうぞ。」
スプリガンは両手でものを引き裂く真似をした。

「それに、あいつら偵察機をぶっ壊してそのまんまにしているらしいな・・・・・・。」
「なに、あのネコ型のか?・・・どうするつもりだ。」
「・・・・・・。」
青灰色の通信装置に、赤い斑点のような物がひとつ、ぽつんと浮かんでいる。
壊されたネコ型の偵察機はどこにあるかまではわからないが、とにかく存在している事は確かだ。



スプリガンはくっくと何かをこらえているかのように、笑って見せた。
「再利用は大切だと思わんか?マリオネよ・・・。」


立体映像のマリオネは、何も見つめてない。
彼の命令だけをずっと待っている。

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