★バブルチョコ(1/2)

主のいなくなった迅雷の谷は静かだった。
崖に申し訳程度に付いた草、もう張っていない結界の跡。
手を伸ばしたら、自分が何処かにいなくなってしまいそうな、そんな不安をかき立てられる青い空。
だから、そんな空からなるべく頭を低くしようとして、彼女は寝転がる。

泣く子も黙るジャカンジャ暗黒七本槍、1の槍フラビージョは時々ひとりでここに遊びに来ていた。
針、もといヤリの代わりにバスケットに大量の駄菓子を詰めて、シャボン玉を持って。


「サーガインて、蟻のくせに甘いものきらいだったなあ〜」


ここに初めて来たのは、潜入捜査のためだった。
ゴウライジャーの動向を気にしての事だったが自分はさして興味もなく、ウェンディーヌと行くと色々とうるさい、と言う訳で自分が引っ張られるようにして来たのだった。


「チョコ、おいしー」


幸せとは何なのか、他人がキズついていてそして自分が楽しいのが幸せな彼女だが、今はちょっと気が滅入っていた。

口にチョコレートを運ぶ。甘い砂糖でコーティングされたチョコは、ひとときの幸せを口の中だけにとどまらず与えてくれる。
しかし、今はいくつ頬張っても、甘美な幸せはやってこない。


** ** **


「ねえサーガイン?ちょっと頼みたい事あるんだけど〜」
「断る」
間髪入れず返事を返したサーガイン。
しかし、それもいつもの事と心得ているフラビージョは、ずんずん歩く彼の前にひょいっと立って、可愛らしくとうせんぼをしてみせた。 
「このごろさあ、みーんならくだいでしょ〜?だから今度の作戦、あたしがやろうと思って。だけどあたし、あんたと違って直接の配下っていないでしょ?だーかーらあv」
無邪気に、さも害がなさそうにフラビージョは笑顔を作った。

「ねー、クグツつくって」
「クグツ一体造るのに、どのくらいの時間がかかると思っているのだっ?お前のために造っている時間があるなら、あいつらを効率よく倒す算段でも考えてた方がいいだろ」
「だから、あたしが作戦するっていってるじゃない」
「ダメだ」
「ねえねえ?」
「ダメだ」
「ねーったらあ」
「何回言ってもダメだっ」
「きゃあ、こわーいvアハハハっ・・・・・・」


** ** **


「わあ〜っ」
「お前の注文通りだぞ」
明るい赤のボディと、大きな複眼にお団子頭。
そこからふわりと出ている自分の羽と同じ色をした4枚の羽(もどき)。手首にふわふわの毛皮(これももどき)。
すべて自分の注文通りのスタイルに満足したのか、フラビージョは明るい声を出した。
サーガインの研究室兼作業室の端にでんと立っていたのは、シルエットだけはフラビージョそっくりな忍者、フラビジェンヌだ。

結局、しつこいフラビージョに折れた彼は文句を言いつつ、クグツを作ってくれた。
彼は意外と面倒見が良い。
その面倒見の良さを発揮するのは何もフラビージョだけに限らず、ウェンディやマンマルバ達にも言える事なのだけれど・・・。

けど、嬉しいものはうれしいのだ。

「かあわいい〜v注文どおりだね、フラビジェンヌ!」
「もう少しで完成だ」
「みんなきっと驚くだろうなあー♪」
フラビージョは無責任なくらい浮き足だって、赤色のクグツの周りをくるくると回っている。そしてクグツの顔に触れたり、羽をめくってみたりして、まだこれに意識がない事がわかり、「はやくおしゃべりできたらな〜」などとホザいている。

これを作るのにどれだけ時間がかかった事やら・・・いや、フラビジェンヌに限らずクグツを作るのはけっこうな時間がかかる。有能な科学者であるサーガインだからこそ、この時間でまかなえるのであって、並の者がつくろうとしたって、こんな突貫工事でつくれるハズがない。
にもかかわらず、無邪気に笑っているフラビージョが協力したのはただひとつ、遺伝子情報の提供・・・・・・髪の毛を一本引っこ抜いただけだ。

「ありがと、サーガイン」
「フン、これだけ手間をかけたのだ。どんなクグツの使い方をするのか見せてもらうぞ」
サーガインは半ばヤケ気味でフラビージョに吐き捨てた。
「もちろーんvあたしがジャカンジャで一番だもん。これでこの子がいれば300倍、ねー?」
「まったく」
まだ抜け殻のままのフラビジェンヌに微笑む彼女は、まあ、可愛くないこともなかった。これを他の連中・・・ウェンディーヌやサタラクラ、でっかくなって可愛いげのかけらもなくなったマンマルバがやったら、ぶっ飛ばしている所だろう。

舌足らずであまり起伏のないしゃべり方をし、外見だけは少女どころかガキのフラビージョ。しかしその内面はひとを平気で裏切り、気安く近づいた者は手痛いシッペ返しを喰らわす。無邪気で、屈託なく笑い、その笑顔でヒトを引きつけてそして残酷な針でトドメを刺すのが彼女のやり方なのだ。
きっと彼女の頭の中では今、色々と狡猾な作戦が練られている所だろう。

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