★ノアの切り札 (11/12)
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「主砲発射15秒前」
しんと静まり返ったベータ号のコントロールルームに副長の声が響く。ヒカルはさっきから必死で声を出そうとしているのだが、吐き出されるのは荒い息だけだ。

「待って‥‥」
辛うじて掠れた言葉が出る。誰も気づかない。
「10秒前」
だめだ。あの人が死んでしまう! 早く言わなくちゃ‥‥
「待‥‥」

(ヒカル)
ヒカルは驚いてあたりを見回した。頭の中、はっきりと声が聞こえた。
(心配しないで。やっと使命を果たせた。俺は今、とても嬉しいんだ)
(タチバナさん! だって‥‥!)
(アルファを‥‥。あとは祈るだけだ。地球が多種多様な命の星に戻ることを!)

「5‥‥」
映像はムーン・ベースにも届いていた。
「4‥‥」
宇宙に散らばった地球人達は、今、何が行われているのか知っていた。
「3‥‥」
ヒカルは胸の前で手を握り合わせた。掌の中に白い封筒がしっかり挟み込まれている。

「2‥‥1‥‥ファイアッ!!」
全ての人類の祈りを乗せて、宇宙空間から3本の光が銀の繭に向かって走った。


――Act.6 永久の眠り――


氷原に黒い平板が傾いで突き立っていた。捻れは無く、やや反っている。艶やかだった表面は一瞬で風化したかのように白っぽくざらついていた。
1枚のラウズカードに大量のアンデッドのエネルギーを取り込もうとした"システム"は完全に機能を停止していた。そのうえ、勝者が居ないという事態が、"システム"の存在意義を失わせていた。

"システム"の周囲には何体もの異形が踞っている。52種類の生命の始祖であるアンデッド。1体の改変された者。そして石のすぐ傍に、二体のジョーカー‥‥"システム"が破壊されたことで彼らはラウズカードから追い出され、最期の時を迎えようとしている。封印の石は、今や黒い墓標となっていた。


1体のアンデッドがゆらりと立ち上がり、ジョーカーに歩み寄る。毒々しい緑と赤の模様。頭上にある5本の触角はどこか人間の手を連想させた。
<貴様ら‥‥>
やや小柄なオリジナル・ジョーカーが緑の複眼でちらりとスパイダー・アンデッドを見上げた。だがそのまま視線を落とす。スパイダーアンデッド、クラブのカテゴリーAは長い指の生えた凶暴な左手を、ジョーカーの頭上に振り上げた。

<やめるんだ>
穏やかな風のような思念と共に、カテゴリーAの鋭い爪を受け止めたのはがっしりした褐色の腕。闘争心を持たない不思議なアンデッド。クラブのカテゴリーキング。
<キング。また邪魔をする気か!?>
<この二人を傷つけるものは、私が相手をしよう>

<なぜなの、キング? ただ切り札の役にしか立たないハズのジョーカーのせいで消滅するなんて
 あたしは許せないわよ!>
甲高い声をあげ、右腕の鞭をぶんと打ち振ったのはダイヤのカテゴリークイーンだ。ジョーカーに向かって突進しようとしたが、一人のアンデッドの背中がそれを阻止した。
<往生際が悪いな、サーペント>
<‥‥な、なによ、タイガー! あんたもあのバカどもを庇おうっての!?>

クラブのカテゴリークイーンがゆっくりと向き直った。戦士としての誇りと自信を発する強靱なブロンドの胸板。4人のクイーンの中でも真っ向勝負ならまず負け無しと言われる。
<私にはまだよく判らないこともある。だが、バトルファイトだけが正しいと思っていたのは間違いだったのかもしれない。何よりもう事態は決まったのだ。今さらうろたえるな>

さっきからあたりを見回していたアンデッドがふらりと浮かび上がった。少しよろめきながら空に上がっていく。最高の飛行能力を持つカテゴリージャック。正々堂々と闘いを好むことで有名であり、皆、思わずその動きに注目した。
しばしの時間の後、降りてきたイーグルアンデッドは完全に力を使い果たしていた。着地を待ちかねてそれを助け起こしたのは、カリスの異名を取るマンティスアンデッドだった。
<ああ、カリス。本当のキミか。嬉しいですね>
<オレもお前と同じことが気になっていた。なんだ。この異常な雰囲気は>
<遠くの空が燃えてる。こんなことは初めてだ。もうすぐこのあたりも炎で覆われるでしょう>


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