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バブルチョコ
主のいなくなった迅雷の谷は静かだった。 崖に申し訳程度に付いた草、もう張っていない結界の跡。 手を伸ばしたら、自分が何処かにいなくなってしまいそうな、そんな不安をかき立てられる青い空。 だから、そんな空からなるべく頭を低くしようとして、彼女は寝転がる。 泣く子も黙るジャカンジャ暗黒七本槍、1の槍フラビージョは時々ひとりでここに遊びに来ていた。 針、もといヤリの代わりにバスケットに大量の駄菓子を詰めて、シャボン玉を持って。 「サーガインて、蟻のくせに甘いものきらいだったなあ〜」 ここに初めて来たのは、潜入捜査のためだった。 ゴウライジャーの動向を気にしての事だったが自分はさして興味もなく、ウェンディーヌと行くと色々とうるさい、と言う訳で自分が引っ張られるようにして来たのだった。 「チョコ、おいしー」 幸せとは何なのか、他人がキズついていてそして自分が楽しいのが幸せな彼女だが、今はちょっと気が滅入っていた。 口にチョコレートを運ぶ。甘い砂糖でコーティングされたチョコは、ひとときの幸せを口の中だけにとどまらず与えてくれる。 しかし、今はいくつ頬張っても、甘美な幸せはやってこない。 ** ** ** 「ねえサーガイン?ちょっと頼みたい事あるんだけど〜」 「断る」 間髪入れず返事を返したサーガイン。 しかし、それもいつもの事と心得ているフラビージョは、ずんずん歩く彼の前にひょいっと立って、可愛らしくとうせんぼをしてみせた。 「このごろさあ、みーんならくだいでしょ〜?だから今度の作戦、あたしがやろうと思って。だけどあたし、あんたと違って直接の配下っていないでしょ?だーかーらあv」 無邪気に、さも害がなさそうにフラビージョは笑顔を作った。 「ねー、クグツつくって」 「クグツ一体造るのに、どのくらいの時間がかかると思っているのだっ?お前のために造っている時間があるなら、あいつらを効率よく倒す算段でも考えてた方がいいだろ」 「だから、あたしが作戦するっていってるじゃない」 「ダメだ」 「ねえねえ?」 「ダメだ」 「ねーったらあ」 「何回言ってもダメだっ」 「きゃあ、こわーいvアハハハっ・・・・・・」 ** ** ** 「わあ〜っ」 「お前の注文通りだぞ」 明るい赤のボディと、大きな複眼にお団子頭。 そこからふわりと出ている自分の羽と同じ色をした4枚の羽(もどき)。手首にふわふわの毛皮(これももどき)。 すべて自分の注文通りのスタイルに満足したのか、フラビージョは明るい声を出した。 サーガインの研究室兼作業室の端にでんと立っていたのは、シルエットだけはフラビージョそっくりな忍者、フラビジェンヌだ。 結局、しつこいフラビージョに折れた彼は文句を言いつつ、クグツを作ってくれた。 彼は意外と面倒見が良い。 その面倒見の良さを発揮するのは何もフラビージョだけに限らず、ウェンディやマンマルバ達にも言える事なのだけれど・・・。 けど、嬉しいものはうれしいのだ。 「かあわいい〜v注文どおりだね、フラビジェンヌ!」 「もう少しで完成だ」 「みんなきっと驚くだろうなあー♪」 フラビージョは無責任なくらい浮き足だって、赤色のクグツの周りをくるくると回っている。そしてクグツの顔に触れたり、羽をめくってみたりして、まだこれに意識がない事がわかり、「はやくおしゃべりできたらな〜」などとホザいている。 これを作るのにどれだけ時間がかかった事やら・・・いや、フラビジェンヌに限らずクグツを作るのはけっこうな時間がかかる。有能な科学者であるサーガインだからこそ、この時間でまかなえるのであって、並の者がつくろうとしたって、こんな突貫工事でつくれるハズがない。 にもかかわらず、無邪気に笑っているフラビージョが協力したのはただひとつ、遺伝子情報の提供・・・・・・髪の毛を一本引っこ抜いただけだ。 「ありがと、サーガイン」 「フン、これだけ手間をかけたのだ。どんなクグツの使い方をするのか見せてもらうぞ」 サーガインは半ばヤケ気味でフラビージョに吐き捨てた。 「もちろーんvあたしがジャカンジャで一番だもん。これでこの子がいれば300倍、ねー?」 「まったく」 まだ抜け殻のままのフラビジェンヌに微笑む彼女は、まあ、可愛くないこともなかった。これを他の連中・・・ウェンディーヌやサタラクラ、でっかくなって可愛いげのかけらもなくなったマンマルバがやったら、ぶっ飛ばしている所だろう。 舌足らずであまり起伏のないしゃべり方をし、外見だけは少女どころかガキのフラビージョ。しかしその内面はひとを平気で裏切り、気安く近づいた者は手痛いシッペ返しを喰らわす。無邪気で、屈託なく笑い、その笑顔でヒトを引きつけてそして残酷な針でトドメを刺すのが彼女のやり方なのだ。 きっと彼女の頭の中では今、色々と狡猾な作戦が練られている所だろう。 (やれやれ・・・・・・どうなることか) ため息という名の一息を入れたとき、フラビージョはまたニッコリ笑ってこちらを向いた。 「サーガイン、文句言ってたけど割とあっさりつくってくれたね」 「まあな」 「どうしてー?サタラクラやマンマルバだったら、断ってたでしょ。ウェンディにはどうかなーって思うけど」 「・・・・・・新しく入って来たヤツは、信用するまでに至ってない。お前らとは長いからな」 「え?なになに、あたしのこと信用してるの?」 「ハリケンジャーを倒すという事だけ、わかっていればそれで良い。」 答えをはぐらかしたのか、素で答えているのかわからない彼に、ふうん・・・と言うフラビージョの大きな目はまた悪さを考えている。こんな目をしているときはロクな事がない。 「わかったのなら、さっさと出ていけ。いつまでたってもこいつとおしゃべりできんぞ。」 「・・・・・・ねえ、サーガイン?」 「なんだ?」 さっさと追い出してクグツを完成させて、いいように使われている状況から抜けたいサーガイン。 フラビージョを追い出そうとしたが、彼女はまだおしゃべりが足りないらしい。 壁によしかかってくすくす笑いながら、会話と言う名の質問をぶつけ始めた。 「あたしのこと、サタラクラよりも信用してる?」 「そりゃあな」 「マンマルバよりも?」 「ああ」 「じゃあさあ・・・ウェンディよりも?」 「・・・・・・・・・・・・」 適当に答えていたサーガインだったが、彼女の質問の意図がなんとなくわかったらしい。 答える事を急にやめ、背中にいる彼女の方を見ると、それはそれは楽しそうに笑っていた。 「えーもしかしてvあたしのこと、一番信用してるのー?」 「ふざけた事言ってないで、さっさと出てけ」 「そんなこと言わないでさあ・・・・・・ねえ、しんよー、・・・・・・してる?」 くすくす笑いながら、けどいつもよりは真剣に目が輝く。 遊びも、他愛もないおしゃべりも、闘う事すらてきとうに、面倒そうに、けど無邪気に遊んでいる印象があったから、そんな瞳の彼女に少しだけギクリとする。 フラビージョのおおきな瞳がそっと近づいて、少しだけ背伸びをし、腕を自分が搭乗しているクグツに回して、浮き気味のカカトは床に付く気配がない。 そしてまた、答えを求めている。 ねえ・・・・・・? 「ねー答え・・・きゃっ!」 彼女独特の間延びしているセリフを聞く前に、サーガインは彼女を振り払って遠ざけた。 その面からは感情を読みとる事は難しいが、どうも怒っているのはわかった。 「ヒトをからかうのもいい加減にしろ!さっさと出ていけっ」 その言葉を聞いて、フラビージョはますますニコニコする。 「バッカじゃないのー?マジんなっておこんないでよね〜」 うっざーい、と面白くなさそうに4枚の羽をひるがえしてくるりと入り口の方に立つ。 けれど、まだ何か考えているらしく、あ・・・そうだvと少しだけこちらを向いて、またニヤニヤ。 「本気にしたって事はー、ちょっと期待してたってこと?」 「俺はふざけるなと言っているだろ!いいか、一体何を・・・」 「こんなことマジになったってみんなが知ったら、サーガインの評判ガタおちだよね〜」 弱みを握ったフラビージョはキャッキャと喜んでいたが、サーガインが「ちょっとまて・・・」と言う前に、キッと表情が元にもどった。 敵を殺そうとした瞬間の、何とも言えない表情によく似ていた。 彼女にとって、目の前のサーガインは美味しくてからかいがいのある獲物なのだ。 「うるさいわねー。みんなにバラされたくなかったら、早く完成させろっつのバーカ」 「こ、こ、この、バカコギャルが・・・・・・」 コギャルって、言ってる時点で古いのよねー、と言いつつフラビージョはサーガインの研究室を後にした。 ** ** ** 答え、聞きたかったな、なんて少しだけ思う。 あたしを一番信用してたのかな、って。 あたしのこと、どう思ってたんだろうな、って。 「はあ〜・・・・・・もう」 シャボン玉をいっぱいに吹くと、迅雷の谷に虹色がこだまする。 2つに両断されたサーガインはもう二度と還ってこない。 本来、それは当たり前の事項なのだがクローンを残していたマンマルバのこととかを考えると、どうしても納得がいかなくって、彼の研究室をあさってみたりしたものだ。 しかし、そんな都合のいいものなんて存在するわけでもなくて。 あったのはマメさ加減がわかる開発日誌だけだったりするし。 日記って、ひとに見られる事を前提に書いているわけでもないのに、プライベートな事は何一つ書いてなかった。 ウェンディは『開発』日誌なのよ、わかってないわねえ〜、なーんて言ってたけど、さ。 「はああ〜・・・・・・ほんっっとにバカ・・・・・・」 何回目かのため息が出る。 チョコレートが幸せをもたらさないのは、彼女の心にチョコレート以上の甘い感情がちょっとだけ溜まっているから。 甘さは重ねすぎても、幸せは来ないのだ。 彼女はムリヤリ小さなキスチョコをざらざらとノドに押し込んでから、重圧をかけてくる青い空に向かってシャボン玉をひと吹き、ふた吹き、み吹きして、ひとりごとみたいにつぶやいた。 ちょっと遅すぎた、けどぜーったいに言う事はなかったセリフ。 「ちょっとだけ、すきだったんだけどなあ・・・・・・・・・・・・」 (おしまい) 2003/3/24 (戻る) |