2 旅先



 身体に空気の震えのようなモノを感じたが、不快感は一切なかった。
 時間を越えるなんて簡単なんだな、というのがトランクスの感想だった。窓の外は一瞬だけ真っ白になり、すぐに通常の景色が戻り出す。
 しかし、そのときトランクスがタイムマシンの窓の外に見たのは、見慣れた母親の研究室ではなかった。

 タイムマシンが降り立ったのは、手入れの行き届いた庭。生き生きと草花が日の光を浴びて輝いている。庭の向こうには乱立する天を貫くような高層ビル。

「こ、ここはどこだ……?」

 トランクスは呆然としたままタイムマシンの窓を開けた。途端に彼は街の雑音に包まれた。ここは、西の都だ。間違いない。ただし、人造人間の襲撃を受ける前の。
 彼がストン、と庭に降り立つと同時に、背後から声がした。

「あんた誰?」

 周囲の異変に驚いていたトランクスは、その人物の気配に全く気づかなかった。
 振り向くとそこには、藤色の髪を頭のてっぺんでポニーテールにした少女が立っていた。
 見間違うはずがない。トランクスにはすぐにわかった。彼女は、彼の母親だ。ただし、彼を産むずっと前の。

「……あ……」

 トランクスは混乱のあまり絶句してしまった。なぜ自分はこんなところにいるのか、まるっきり少女のブルマに何を言えばいいのか、何も頭に浮かばない。それに目の前にいるブルマの容姿。それは彼を絶句させるには充分だった。

 トランクスも母親に対して「美しい人」だという認識はあった。シングルマザーとして自分を育てながらも、母に惹かれる男が後を絶たなかったことは幼いながらに知っていたし、周りからも「キレイなお母さん」だと言われ、母親自身もそういうことを平気で口にするので、なんとなくそう思っていた。それに失礼ながら友達の母親とくらべると、確かに格段に違うという印象はあった。
 だが彼は自分自身の感覚で母を美しいなどと考えたこともなかった。母親をそんな目で見たことはないし、見ようとしても見られなかった。
 いま目の前にいる彼女は、彼の知っている母と確かに同じ顔立ちをしている。すぐに母だとわかる。だがその母は、弾けんばかりの若さで溢れていた。年の頃は自分と変わらないだろう。
 紺のチューブトップに白のカプリパンツを履いて、白い肌とボディラインを惜しげもなく露出している。ふっくらとした桃色の頬、口紅すら塗っていない唇もぷりぷりしている。しかし大きな瞳は、トランクスの知っている母そのままである。表情次第で、優しくも冷たくもなる青い目。
 彼女はその瞳で、目の前で口ごもって赤面している少年を不信げに見上げていた。




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