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I Love You , Papa!
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お母さんとお父さんの口ゲンカはいつもの話、逆になかったらちょっと不安になる。 そして、そのケンカで勝つのはいっつもお母さん。お父さんは絶対負けちゃうの。 けどまあ、口で女の人に勝てる男ってのもちょっとイヤだからそれでいいんだけどね。 うちのお父さんも他の家と同じで、家帰ってきたら「疲れた〜。」って言って、ゴハン食べてお風呂入って、あたし達の話をちょっと聞いてから寝る。 朝まで帰ってこないってこともけっこうあるの。すっかり冷えた夜ゴハンを朝帰ってきてラップして、レンジでチンして食べてるってこともあるもん。 けど、運動会とか学芸会とかにはいっつも来てくれるから大好きよ。こういうとこをちゃんと押さえてると、子供のあたしは「ああ、あたしお父さんに愛されてるんだわあーっ!」って思うの。家族の間でもそういう気配りが大切よね。でしょ? そのお父さんとお母さんが今ケンカしてるの。 口聞いてないのが今日で3日目。はっきりいってさいあくよ。 巻き込まれる身の上にしかならないあたし達の事を考えて欲しいわ。 険悪なムードの中であたし達がどれだけ神経すり減らしてると思ってるのかしら。 けど、友達のお母さんは当たり散らすっていうからそれよりはマシね。 お父さんは今日もむっとした顔で家から出ようとしたから、あたしが可愛らしく「お父さん?」って言うと、むっとした目がサングラスの向こうで優しくなった。 「今日はちょっと遅くなるから・・・、忍達は先にお母さんとゴハン食べてろよ。」 「うん、わかったわ。」 ぱたん、と音がするとお父さんは出ていった。 今日もサングラスして出ていったわ。 なら、まだお母さんとの仲はこじれてないわね、とあたしは推測する。 だってあれはお母さんがお父さんに買ってあげたやつだから。 ほんとにこじれたら、そのひとから買ってもらったものって捨てるんでしょ? こないだ見たドラマでは捨ててたもん。 だから、お父さんとお母さんはまだ大丈夫。 あたしはニヤリと笑う。 今日は小学校の「創立記念日」。そう、学校が平日なのに休みなの。 塾もお稽古もいってない小学生にとって、休みなんてほんとーにヒマなだけなのよ。 そのへん文部省のひと、わかってんのかしら?週休5日制になったけど、このヒマをどう過ごせばいいのか考えてるとこよ。 で、今日はその手始めに考えたんだけど・・・お父さんの後をつけてみようと思うの。 ナイスアイデアでしょ? 「びこう?」 「そうよ。」 あたしはお財布を取り出した。お正月にもらったお年玉のお札が入ってるの。 おばあちゃんから一万円もらったんだけど、仲介に入ったお母さんは夏目漱石のお札しかくれなかったわ。「貯金しておいてあげるわね」とか言ってたけど、きっとお父さんのお給料が(よくわかんないけど)安いから生活費に回されるのよ。ちぇ。 けど夏目漱石が1人いれば、駅でキップを買うのには十分だわ。 「お父さんが降りる駅は知ってるわ。お父さんのお仕事先を探すのよ!」 「お姉ちゃんひとりでやればいいじゃん。ボクめんどくさい・・・。」 「ななろが一番若いクセに何言ってんのよっ!お父さんがどんな仕事してんのか知りたくないのっ!?」 「べつにいいじゃない。教えたくないんでしょ?」 イヤなガキ。一年生になったばっかのクセにこれだから今時のガキってキライよ。 こいつは七郎(しちろうって読むの。家族の間での呼び方はななろ。)って言って、あたしの弟。 わかるだろうけどすっごく生意気。誰に似たのかしら。 けど、所詮はガキよ。大人ぶってるけどやっぱり子供なの。 こいつに言うこと聞かせる切り札はこれ。 「じゃさ、龍騎のアドベントカード買ってあげる。」 「ホント!?」 「本当よ。ドラグバイザーだけじゃ遊べないじゃん?」 「うん!」 七郎はすぐに用意をはじめた。 こういう時、経済力が余裕を生むわよね。えっへっへ。 ヤツの弱点は仮面ライダーにはまってることね。あんなんに夢中になるなんてかわいいわね。はん。 あたし?5年生にもなってそんなの見てるわけないじゃん。 ちょっとは見てるけど、こいつのつきあいよ。 あ、自己紹介がまだだったわね。 あたしの名前は田島忍。「たじましのぶ」よ。11歳なの。しっかりしてるでしょ?お父さんは田島十兵衛っていうの。時代劇な名前よね。科学者みたいなんだけど、あんまり仕事の事はお話してくれないの。 頭良さそうにも見えないし・・・。 お仕事の話をしてくれないなんて、ちょっと怪しいと思わない? きっとお母さんとのケンカの原因も、そこにあると思うの。 まあ、あのお父さんに限ってぜっっっっったいあるわけないんだろうけど、 もしかしたら、もしかしたら不倫とか。 あ、けどそんなお金ないか。 けどそんなことはどーでもいい。 ヒマつぶしにちょうどいいわ。 今日の創立記念日は有効に使わせてもらうわ、校長先生。 キップを買って、電車に揺られて着いたのはちょっとゴミゴミしてるとこ。 あたしんちが田舎って言えばそれまでだけれど、空気がちょっと違うのよ。 都会ならではのゴミくさーい感じがする。 そんな中、右手にお母さんに買ってもらったバッグを持って、左手は七郎の右手を掴んでる。 ちゃんとお姉ちゃんしててえらいでしょ? 「ねえ、お姉ちゃん。場所知ってるの?」 「なんの?」 「お父さんの働いてる場所だよ・・・。」 「わかんないから探してるンじゃない。ばかねななろったら。」 「ボク、おなかすいたよお。」 地面にペッタリすわってる。若いクセに体力ないんだからこいつは。 アホな高校生じゃないんだからやめてよね。 けど、時計を見るともうお昼近い。お父さんの降りる駅まで行くのは簡単だったけど、やっぱりちょっと考えなしだったかしら? 住所までわからなかったのよ。捜したんだけどさ、お父さんの机ってなんか色んなものがたくさん乗せてあって、動かしたらすぐにバレそうで上手いこと住所を探せなかったの。ちぇ。 ・・・・・・ううん、いやいや、絶対このへんにいるわよ。 あたしのカンに間違いはないんだからっ! 「お昼だったらお父さんだって何か食べに来るはずよ!このごろお母さんの作ったお弁当、持っていけないしさあ。」 「ボクたちも何か食べようよ。」 「え〜っと・・・。」 オサイフの中を見ると心許ない。 「やっぱりマックかな・・・。」 「あ、てりやき食べたい・・・。ん?」 ななろの目線がゆらゆら泳ぐ。いつも面白くなさそうな顔してるこいつが、こういう顔をするときは大抵良くないこと。それを見逃すあたしじゃないわ。 ななろが固まってる。 目がまんまるで笑ってるのか泣きそうになっているのかわかんない顔。あるでしょ?どういう顔したらいいかわかんないときって。まさしくそんな状況ね。 ・・・・・・あ、分析してる場合じゃないわ。どうしたってのよ? 「ななろ?」 「お姉ちゃん・・・お、お、お・・・おとうさんが、きれいなひとと歩いてる・・・。」 あたしはななろが指さした方向に、ばっと振り向いた。 振り返った先にはマックの袋を持ったお父さんと、すっごくきれいなお姉さんが隣にいた。 楽しそうに笑ってて、びっくりしちゃった。あんな顔したお父さんを見るのは久しぶり。 だってこの頃ケンカしてるでしょ?お母さんと。 あたし達に向ける笑顔もなんか雲がかかったみたいになるの。 そのお父さんが笑ってるのよ。しかもお母さんのプレゼントしたサングラスをして! そのお姉さんのきれいなのは、あれはちょっといきすぎよ。 間違って芸能界にスカウトされなかったんだわってくらいの美人だった。 長い髪の毛、ふんわりした優しい笑顔。お姫さまみたいで、すらっとしてて細くって・・・と、止まらないわ。 とにかく超超超超美人だったの。 明らかに釣り合ってないひととあたしのお父さんが並んで歩いて、しかも笑ってる。 ヤバイ。 なんなのよこれは。 顔が引きつっちゃってる・・・。歯ががちがち言ってるわ。 夜にお墓参り(要するに肝試し)した時よりもがちがち言ってる。 そんなあたしの顔を全然気にしないで、ななろが無神経な言葉を投げつけた。 「お姉ちゃんの予想、あたってたね。」 「どうしよう。」 「おかあさんに言っちゃダメだよ。家庭ほうかいなんてヤだよボク。」 「どうしようどうしようっ!!な、な、なんであんなきれいなひとと歩いてんのよ!!」 子供みたいに思わず大きな声だしちゃった。けど出さずにいられなかったわよ! ななろの肩を掴んでぐらぐら言わせちゃった。けどそうせずにいられなかったの!! 友達に八つ当たりするおばさんって最低だとおもったけど、ちょっと心境がわかっちゃった・・・。 どうしよう・・・。・・・。 あたしがあんまり慌てているので、つられてななろも慌て出す。 「お、お姉ちゃん。ちょっとオチついてよ。」 「落ち着けるもんですか!」 不倫ってのは予想してたけど、あのお姉さんの顔のキレイ具合は・・・はっきりいって予想外だった。 そんなバカな。 なんであんなお父さんにあんなきれいなお姉さんが付くわけ? ぜっっっったい間違ってるよ! お互いダマされてんじゃないのっ? お父さんは面食いじゃないんだな、ってのはお母さんをみればよくわかる。 お母さんは今時な美人じゃない。目もキツくって、髪の毛もあんまりきれいじゃないストレート(要するにあんまり美容室に行ってない)で、エプロンが何より似合う。 けど、そんなお母さんだからこそ!!ドレスアップしたときはすっごくきれいなんだから! お母さんの事をお父さんは世界で一番好きだと思っていたのに。 そんなことを考えてたら、ちょっと涙がたまってきた。くそう・・・悔しい。おとうさんがあんなきれいなお姉ちゃんと歩いてるってのも悔しいし、お母さんをバカにされたみたいってのも悔しいし、なにがなんだかわからないけど、くやしくて泣きそうになった。 「ねえ、お姉ちゃんはリコンすることになったらおかあさんのほうにいきなよ。」 は? 「何言ってんのよっ!!」 「ボク、あのお姉さんと一緒に暮らしてもいいよ別に。」 「バカっ!!!」 あたしは思わずグーで七郎の頭を叩いてしまった。 「イヤだよっ!!あたし、あと7年はお父さんとお母さんとアンタとあたしで暮らしたいの!!いくら・・・いくら。」 いくら芸能人みたいなお姉さんでも、お父さんがそのお姉さんのことをあたし達より好きだったとしても、お姉さんがどんなに金持ちで優しくて服や靴やお菓子を買ってくれたりしても、あたしはイヤ!! 最低18までは父親は田島十兵衛で、母親はあの顔のキツイお母さんで、弟は七郎で、姉はあたしの4人家族じゃないとイヤなの!! 「ぜったいイヤよ!別れさせてやるんだからっ!!!」 あたしは七郎の腕を掴んで全速力でお父さん達をおっかけた。 2002/7/2
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