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第29話 戦慄の新幹部・守れみんなの夢!
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「なんだ!?」 着装した5人が太平ジョイパークの駐車場に飛び込むと、突然頭上からきらきらと光る粉が降ってきた。 「待ってたわよ、オズリーブス」 鱗粉をまき散らして5人の頭上を飛んだ細身が5人の前にすっと着地する。青い金属光沢を放つ蝶もどきの大きな羽が目に鮮やかだ。頭部は短毛で覆われ四方に黒い大きな複眼。小さく丸い口とおぼしき器官。それは青い羽をドレスのように身体に巻き付けると、細い腕をあげて優雅な一礼をしてみせた。 「初めまして。あたしはスパイダル諜報部のモルフィ」 特異な暴動事件が起きた区域の観測ログから、ディメンジョンストーンが発する特殊電磁波が観測された。そうして電磁波走査の密度を上げたところで、この場所に怪人が出現したのだった。 「スパイダル! 今度は何を企んでやがる!」 「アンタたちを待ってたって、言ったじゃない」 「なんだと? みんな、気を付け‥‥」 黒羽の言葉が終わらないうちに、ゆらゆらとしだれていたモルフィの触角がぴんと伸び、金属を引っ掻くような高音が発せられる。だがすぐにその音は消え、今度は脳髄を細かく揺さぶるような不快な振動があたりを埋めた。 「ぐっ!」 「あ‥‥頭が‥‥」 5人が思わず崩れる。だが周囲からはもっと大きな悲鳴があがった。駐車場に面している玩具の量販店から、まだ待避しきれていなかった従業員や警察官ら20人ほどが頭を押さえながらのたうつように飛び出して来る。 「プ‥‥プロテクト・モードを‥‥っ」 皆がバックルのスイッチに手を伸ばす。低周波数の音波が彼らのスーツを覆い、幸いにも妙な振動は遮断された。プロテクトモードも負担だが慣れている分全然マシである。 「大丈夫ですかっ」 輝と瑠衣が転がり出して地面に踞った人達に駆け寄る。黄龍はその様子を見て不安げに呟いた。 「もしかして、これ‥‥」 「特警に連絡頼む!」 それだけ言って赤星は怪人に向かった。そのすぐ左後ろに黒羽。決め手になる黒羽の右腕を敵から隠すこのスタイルは2人が最も得意とするコンビネーションだ。何も言わなくていい。狙いは触覚だ。 怪人がばさりと羽根を広げたが、赤星がその細いボディを抱き竦めて飛ばせまいとする。その頭部めがけて黒羽のブレードが滑り込んだ。完璧なタイミング‥‥‥‥。 「なっ!?」 黒羽がぎょっとした声をあげた。ブレードが動かない。受け止めているのは青白い三本指の手。掌から腕にかけて刃が深くめり込んでいるのに一滴の体液も滲み出でいない。まるで粘土に切り込んだようだ。舌打ちした黒羽と赤星が引き下がる。 「ナクア様!」 不気味な手の持ち主はモルフィの背後に立ったひょろ長い人影。それがゆらりとモルフィの前に出てきた。手足は石灰のように白い。胴の部分は灰白色のウロコか甲羅のようなもので覆われている。身体にまとわりついて足元まで届く髪は銀色。白い顔に血で満たされたガラス玉のような目‥‥。 「これは粗野な目的で作られなかった。だから我がお相手する」 ナクアと呼ばれたその怪人は言葉を発したが、クレヨンで書いたかのような薄く紅い唇は微動だにしない。 「‥‥気っ色悪ぃ‥‥‥」 合流した黄龍が呟く。人々の呻き声が大きくなっている。 「とにかくあの青い奴を! この音を止めるんだ!」 3人がリーブラスターを構えた。 「シェルモード!」 ナクアがすっと移動して3つの光弾を受け止める。白いボディがぐにゃりと湾曲し、エネルギー流をあらぬ方向にはじき返した。 「なんだと!」 白い怪人は身体のあちこちをめこめこと凹ませたまま、淡々と音を出した。 「モルフィを狙うことは無意味」 「なに?」 瑠衣が叫んだ。 「なんなの、あれ!?」 玩具店のほうから何か小さなものが押し寄せてくる。立ち上がった輝が一歩そっちに近づいて叫んだ。 「まさか‥‥SPロボなの!?」 近寄ってくるのは大きめの車の玩具だ。ボンネットにSPという文字をデザインしたエンブレムがついている。5種類入り交じって30台ほどが、かたかたと近寄ってくる。 と、モルフィの2本の触角が摺り合わされて、リーンという済んだ音が発せられた。それを合図に従業員達がゆらりと起き上がり、いきなり瑠衣と輝に掴みかかってきた。 「きゃあっ」 「わわっ 何するのっ」 「まさか、あの玩具が何かしてるのか!?」 黒羽の言葉で黄龍がブラスターを小さな車達に向ける。だが人々が3人にまで押し寄せていた。 「やめろっての!」 「呼びかけてもムダだ! 気絶させるしかない!」 操られた人々がわらわらと手足にすがりついて来る。なんとか怪我をさせないように2人の意識を奪った赤星のすぐ傍にナクアが滑り込んできた。振り上げた手は鉈のような形状になっている。それが無造作に振り下ろされた。 「やめ‥‥! ぐっ!」 思わず側にいた警備員を庇って背中で数撃を受けた赤星が向きを変えた時は、怪人はもう仲間の方に移動していた。 避ければ一般人を巻き込む。だがナクアと組み合うと、今度は人々がまとわりついてくる。オズリーブスにとっては最悪にやりにくい状況になった。 そこにサイレンの音とともに4台の車が到着した。白いジープと赤いルノー、そしてパトカーと桜の紋の入った大型車。ジープから特警の早見瞬。ルノーから降り立った金髪碧眼の青年はジャン三上だ。そしてその助手席からは貴公子、島正之。 「待たせたな!」 彼らは3人の警察官と共に一般人の身柄の確保に入った。 ナクアがすっと後退した。 「モルフィ。我のもとへ」 いつのまにやら洒落た照明灯の上に逃げていたモルフィが、ナクアの傍に降りてきた。その触角が今一度摺り合わされ、5人が飛び出した。 「止めろっ!」 「また会うだろう。もしお前達が生きていれば」 その言葉を残して、ナクアとモルフィはすっと消えた。 「いったい何ネ!」 怒声に振り返ると、ロボットが変形したSPカーがわらわらと走り回り始め、刑事達が足をとられそうになっている。と、そのうちの1台が5人の近くにやって来た。 「どういうことだ?」 黒羽が訝しげにその脇に膝をつく。だが、伸ばしかけた手がぴたりと止まった。いきなりその玩具をはねのける。SPカーは驚くほど大きく爆発した。 「なんなんだっ」 「他のも来るよっ!」 既に十数台がぞろぞろと5人と所に集まりつつある。 「オレたちを狙ってる?」 「空いてるとこに散れ! みんなや車から離れて潰すんだ!」 駐車場の奥の空いている場所に向かって5人が動き始める。警察組の周囲にいた全てのSPカーが自分たちに引きつけられたことを確認してだっと走り出した。瑠衣のすぐ右後ろに居た黄龍が、瑠衣を追う玩具を掃射する。数台がまとめて爆発し、かなりの爆風が起こった。だが、その隙に黄龍の背中でSPカーが飛びついてくるように爆発した。 「イエローっ」 吹っ飛ばされた黄龍に瑠衣が慌てて駆け寄る。 微妙な距離を保ちながらSPカーを引きつけつつ、なお周囲を見回す余裕のある輝は、赤星が立ち止まったのを見て驚いて叫んだ。 「リーダー、どうしたのっ!?」 赤星がいきなり着装を解く。と彼を追っていたミニカーが戸惑うように立ち止まった。 「やっぱりか!」 待ちかまえていた黒羽が1台だけ残して残りを撃ち壊した。 「こいつら、スーツについた鱗粉を追ってくるんだ!」 スーツは解除のタイミングで付いた不純物を消滅させてしまう。今度は輝が叫んだ。 「みんな、着装を解いてっ 早く!」 「ミド、何を‥‥!」 「オレに任せて!」 ただ一人だけリーブスーツを着た輝が皆の間を縫うように走り回る。後続のSPカーも全てがその小さな身体を追いかけ始めた。 「輝っ」 「やべぇぜ、まとめて爆発したら‥‥!」 「輝さん!」 輝は2mを越える塀に向かう。塀の外側は川だ。そして塀からは高い鉄柱がそびえジョイパークの看板を支えている。輝は勢いのままに垂直な壁を駆け上がった。鉄柱にまで数歩足をかけ、それを蹴り飛ばしてぽーんと翻る。SPカーが次々に壁にぶつかって爆発するのを見ながら敷地内に着地した。 スーツのまま状況を確認していたが、全てが終わると何度か後ろを振り返りつつ歩いてくる。途中でその輪郭がぼやけると、目のくりくりとした人形のような顔立ちのいつもの輝がVサインで戻ってきた。 「やったな、輝!」 赤星の突き出した拳に、がつんと拳を合わせて、輝は照れくさそうに笑った。 足音に5人が振り返ると、三上、早見、島の三人だった。赤星がひょこりと頭を下げる。 「どうも助かりました」 「これのお陰でなんとか。とっといて良かったです」 島が耳から小さな装置を外す。以前葉隠が作った超音波遮断装置だ。 「しっかしユーはやっぱアクロバット・ボーイネ。相変わらずOZは派手ネ」 三上が輝を見てそう言った。輝は目を丸くして3人を見つめた。中央の三上はそのまま新郎になれそうなタキシード姿。右隣には真っ白いスーツと赤シャツの早見。そして左には高級そうなソフトスーツが本当に良く似合う島‥‥。輝はごく素直に口を開いた。 「‥‥オレ‥‥。刑事さんたちのほうが、ずっと派手だと思うけど‥‥」 「痛えっ」 いきなり早見に殴られた赤星が頭を押さえた。 「そーゆー意味じゃないだろーが!?」 「俺、なんも言ってないじゃないですか!」 「やかましい! さっさとあのがらくたを調べろ!」 早見は離れた所にぽつんと残っているSPカーを示し、赤星は何かこの人のウラミを買ったことがあったっけかと、見えない?マークを飛ばしていた。 ===***=== 酉井重工のロボット研究所の敷地内に急遽引っ張り出された作業台。赤星と黒羽は太平ジョイパークの事件で残したSPカーを分解していた。強化スーツを着たままなので、かなり妙な風景である。 「これ以上はムリだと思うがね」 「だな。でもここまでバラバラなら、万一爆発してもたいしたことにはなんねえだろ」 大きな机に細かく分解されたSPカーの部品が順序よく並ぶ。赤星は着装を解除すると、遠巻きに様子を見ていた人達に手を振った。 待ちかねたかのように走ってくる男はSPロボ開発プロジェクトのリーダー、伊藤敏。リーブロボを破壊された時に四菱重工の塚原藤次とともにガーディアンの開発を手伝ってくれた技術者だ。葉隠の友人であり、OZとしても大変恩義のある人物だった。伊藤の後を田島が追いかけてくる。そして特警からは風間本部長とジャン三上刑事。 「どうもお手間かけて‥‥」 伊藤が普段の姿の戻った赤星と黒羽に挨拶すると、脱いだ上着をパイプ椅子にかける。と、その胸ポケットからパスケースが落ちた。拾い上げた赤星がそこに入っていた写真を見て目を丸くする。SPロボを大事そうに抱えた少年の嬉しそうな顔‥‥。 「息子さん‥‥ですか?」 「ええ。SPロボをえらく気に入ってくれましてね。将来はロボット博士になる、なんて言い始めて。親としては嬉しい限りだったのに、こんなことになるなんて‥‥」 礼を言ってパスケースを受け取った伊藤は田島と共に作業台に向かった。 「田島さん。さっき、怪人が出した音にSPカーが反応してるって仰いましたよね」 「だと思います。ログから割り出すと例の蝶のような怪人が発生する音が19,000〜30,000Hz。次にこの玩具が発信したと思われる音波が20,000〜100,000Hz‥‥」 「SPロボには確かに音波センサーも発声装置もある。‥‥。でもあくまで人声範囲だから、そんな超音波を受信する機構はないし、発信はなおさら‥‥」 「ですよね‥‥。あとは‥‥製造の過程で意図しない部品が組み込まれたとか‥‥」 「そんなバカな!」 「いや、伊藤リーダー。我々もその可能性が一番高いと思っています」 そう言ったのは特警の風間だった。 「思い込みを捨てて、全部の部品を徹底的に調べて頂きたいのです。そしてこのプロジェクトに関わった人物の身上調査を‥‥」 「ちょ、ちょっと風間さん! それって伊藤博士たちを疑ってるってことですか? スパイダルの部品埋め込む人なんて、このチームにいる訳無いでしょう!?」 思わず口を挟んだ赤星の鼻先に、三上が色白の形のよい指を突き出した。 「そんなこと、ユーにどうして保証できるの」 一瞬詰まった赤星だが、すぐにブルーの瞳を見つめて言い返す。 「だってSPロボは、子供達に技術への夢を持って欲しいって、そんな思いで作られたんですよ? ガーディの時に来てくれた人達と、時々こいつの話もしたんです。だから‥‥」 「ノン、ノン。答えになってないネ。それに、アセロポッドがうまーく人間に化けるのはユーが一番良く知ってるじゃない。まったく隊長さんがこんなことじゃ‥‥」 「伊藤博士。下請けはどのくらい使っておられるんですか?」 黒羽が伊藤に訪ねる。 「2社に手伝って貰ってます。小さいですが高いスキルと誇りを持った技術者がいて‥‥」 「たとえばそこに、そのまた下請けの人間がいることも考えられます。一般的にはそういったルートが一番危ないのですが」 「‥‥それは、そうですが‥‥」 「とにかく伊藤リーダー。とにかくこれがスパイダルに悪用されるに至ったルートを一刻も早く解明しなければなりません。お気持ちはわかりますが全面的にご協力を‥‥」 そう言いかけた風間が懐に手をやった。警察専用の携帯を取り出すと、黙礼して皆から少し離れた。 「私だ。竹か。‥‥そうか、ご苦労だった。ああ、こちらもOKだ。あとは手はず通りに。 お前もそっちに回ってくれ」 風間がぱちりと携帯を閉じると、伊藤の顔を見た。 「ダンバイの方も納得してくれました。先ほどお話した通り、SPロボは警察主導で、預かりの形で一旦回収させて頂きます」 「はい」 伊藤が力無く頭を垂れる。風間は気の毒そうな表情で頷き返してから、部下を見やった。 「三上、お前は‥‥」 「わかってるネ。ミーは流通ルートの調査をするんでしょ? 事件のあったトコへ出入りしてた業者を‥‥」 「今、西条が洗い出してる。本部に連絡を取って指示に従え」 「ウイ。ボス」 三上が急に、にやりとして赤星を見やり、赤星は目をぱちくりした。 「‥‥ま、このノーテンキさんの言うことがホントなら‥‥こっちのルートも徹底的にやらないと駄目ネ。んじゃ、ハカセたちもがんばって」 タキシード姿の金髪碧眼が投げキッスで去っていく図は、コンクリの棟が並ぶ周囲の風景からはあまりに浮いていたが、残した言葉はほっと柔らかかった。 ===***=== 「え! あのSPロボにやたら詳しかった子?」 「そう。確か、翔平君とかいったかね」 「伊藤博士っていうのは、あの時来てくれた騒がしくない方のハカセだよねっ?」 「‥‥輝‥‥。塚原博士のこと、どーゆー覚え方してんだよ」 「十分的確じゃん」 その夜「森の小路」。 5人はお互いに情報交換をしていた。病院を回ったのは輝と瑠衣だ。暴れだした人達は、耳鳴りや頭痛がひどく、しばらくは入院が必要らしい。特警の早見瞬と行動を共にした黄龍は、玩具店の周囲で起きた単発の事件現場にもSPロボが関与したのは間違いないと話した。ただそれらのロボは問題の玩具店で購入した物もあったが、ネット通販で手に入れたケースも多かった。しかし酉井の方でも問題のある部品など見つからない。 TVのニュースではSPロボの回収の様子が流れている。SPロボの箱に名前と連絡先を書いて、大事そうに持ってくる人達。マスターに合わせて学習を重ねたそれぞれのSPロボは、特に子供達にとっては決して代替が効かない、大事な友達なのだった。 「ねえ、リーダー。怪人倒したら、あの子たち持ち主にちゃんと返されるの?」 「ああ。あと、どうやって操られてるのか原因が分かればな」 「翔平君や大輝君も、ああやって預けに行ってるのかな‥‥」 ロボット博士になりたい。そういった少年がガーディアン完成に尽力してくれた伊藤博士の息子だったとは。 「とにかく、早いとこあのチョウチョをやっつけなきゃな」 「ああ‥‥。だが、そのためにはあの紙粘土お化けが問題だ」 「同感。でもアレ不気味過ぎ。なんかバズーカでもダメそうな‥‥あ‥‥」 黄龍がテレビ画面を見上げた。つられてあとの4人もニュースを見る。酉井の記者会見の模様を放映しており、SPロボの開発リーダーである伊藤が記者の質問に答えていた。質問の中には先入観に走ったものもある。「責任を感じていないのか」という問いに、「今の段階では当社の製造工程にミスがあったとは思えない」と答える伊藤の顔はやつれきっていた。 黄龍がリモコンに手を伸ばすと、無言でTVの電源を切った。 2004/6/25
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