第9話 名犬物語! 特訓・リーブチャクラム
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使われていない工場。暗闇。数人の走る足音。何かが崩れる音。積まれた段ボールを突き破って逃げてくる2体のアセロポッド。

レッド 「待てっ!!」
ブラック 「ミド、そっちだ!」
グリーン 「オッケ〜イ!」
レッド 「ピンクも頼む!」
ピンク 「はいっ!」

レッド、ブラック、グリーンとピンクが追いかける。3手に分かれる。横から逃げるアセロポッド。

グリーン 「やばい!」
レッド 「大丈夫だ!向こうにはイエローが…」

工場を飛び出すと岩場。アセロポッドの姿はない。岩の影から出てくるイエロー。

イエロー 「あれっ? なんだ、あいつらこっち来たんじゃねえ?」
レッド 「イエロー…」

何か言い合うレッド、イエロー、グリーン、ピンク。その向こうで無言で着装を解く黒羽。


====タイトルin 『名犬物語!特訓・リーブチャクラム』=====


喫茶森の小路。それぞれ適当な距離をとって座る5人。険悪なムード。黒羽のギター。ベースから出てくる葉隠博士。その雰囲気に気付き、赤星に耳打ち。

葉隠 「…どうしたんじゃい」
赤星 「黒羽の奴がちょっと、黄龍にお冠でして」
 
こそこそベースに戻ろうとするが、翠川と目が合い首をすくめて店の端に座る葉隠博士。

黒羽 「さすがだなぁ瑛ちゃん、おっとり構えてらっしゃるこった。ええ?」
(ジャ〜ン、と1コード弾く)
赤星 「黒羽!もういいじゃねえか。追っかけたって奴ら、消えちまうかもしれなかっただろ」
黒羽 「仲間思いですなあ赤星隊長殿は。連中があのまま街に出たらどうだ? とっ捕まえられたとして、奴さん方の秘密がちょいとでも分かったかもしれなかったとしたらどうだ。ん?」(黄龍に視線を移して) 「悪びれない辺りが大物って奴かね。ええ、瑛ちゃんよ」

目を閉じて頭の上で腕を組んで、足を組んでやる気なさそうにしている黄龍。聞いていないような態度。

黄龍 「で、何?…っていうかさ、あんたちょっと考えすぎなんじゃねえの?」(片目を開けて黒羽を見ながら) 「ど〜せまた消えちまってたって! ほっときゃいいじゃんあんなの……気合い入りすぎなんだよ!」
黒羽(ヒュウ、と口笛。チッチッチ…と指を振って) 「分かっておられませんなあ…要は心構えって奴ですよ、黄龍の『おぼっちゃま』」

ピクリと反応する黄龍。黒羽を睨む。

黒羽 「180cm65kg、運動神経・体力ともに並。ちょっとばかり反射神経がいいくらい、と…」(語気を厳しくして) 「イエロースーツの条件に合うお前以上の人材なんざあ、掃いて捨てるほどいるんだ!」

静まり返る店内。やがて席を立って出て行く黄龍。ドアを開けたところで振り返る。

黄龍 「マスターさあ、もうちょっと人選考えた方がいいんじゃねえの? そこのオッサンも込みでな!」

赤星、黒羽を睨む。

瑠衣 「黒羽さん!あんまりです、あんな言い方しなくたって…!」
翠川 「そうですよっ。いくらなんでもあれじゃあ……」
赤星 「黒羽!」(翠川と瑠衣を目で制して) 「…お前の言い分も最もだ、気持ちは分かる。だけどよ、あいつだって」
黒羽 「あいつなりに頑張ってると? フッ、果たしてそうかな」
赤星 「……持ち直してくれるさ。お前の選んだイエローリーブスだろ」

黒羽、ギターの弦を弾く。



広い公園。子供たちが遊んでいる。芝生に寝転ぶ黄龍。その耳に子供たちの歓声が届く。脳裏に現れる黒羽。『イエローリーブスの条件に合うお前以上の人材なんざあ掃いて捨てるほどいるんだ!』

黄龍 「へっ。リストラすんなら早めにして下さいっての!」

突然飛んでくるフリスビー。飛び起きて受け止める黄龍。辺りを見回すと、犬を連れた少年が手を振っている。

少年 「ごめーん!お兄ちゃんこっちー!」
黄龍 「何だ…しょうーがねーな、気いつけろよ!それっ!」

背中から回すようにフリスビーを投げて返す。見事に円を描いて少年の手に収まるフリスビー。

少年 「すっげー!」(犬と一緒に駆け寄って) 「すげーや兄ちゃん!上手いな〜」
黄龍 「へへ、まっ当然てヤツ?チョロいチョロい」
少年(フリスビーを差し出して) 「ねえ、もっとやってみてよ!」
黄龍 「オッケーオッケー♪」

フリスビーを受け取り、立ち上がる黄龍。少年、犬に指示を出す。走り出す犬。

黄龍 「行くぜっ!」

黄龍、様々なポーズからフリスビーを投げる。いずれもきれいな円を描いて飛んでいく。口で受け止める犬。

フリズビーをくわえて戻って来る犬。少年が受け取る。

少年 「兄ちゃん、ホントにすげーや!オレ剛って言うんだ、こっちはジョン。なあ兄ちゃん、兄ちゃんのワザ、オレに教えてくんない?」
黄龍 「ワザぁ?」
剛  「オレとジョン、今度フリスビーの大会に出るんだ。そこで兄ちゃんの技が出来たら絶対優勝だぜ!な、教えてくれよぉ。ヒマな時でいいからさ! 大会、来週なんだ!」
黄龍 「はあ!?ちょ、ちょっと待てって。オレ様は…」

言いかけたが、また脳裏にイヤミな(黄龍ビジョン)黒羽の映像。

黄龍 「……わかったOK!オレ様黄龍ってんだ。これから大会まで毎っ日教えてやるよ」
剛  「ほんと!?やったあ!な、ジョン!」
ジョン 「ワン!」
黄龍 「言っとくけど、オレ様のコーチは厳しいぜ〜?」



夕方。芝生に座る黄龍、剛、ジョン。
黄龍 「剛〜お前なかなかスジいいじゃん!いい線いってるぜ!」(剛の頭をかき回す)
剛  「やったぜ!でも兄ちゃん、ホントすっげーよな!オレ兄ちゃんみたいに上手い人初めて見た」
黄龍 「まっ、これもオレ様の才能ってヤツ?」
剛  「天才だよ!イエローリーブスみたいだもん!」

黄龍、笑顔が消える。

黄龍 「え……」
剛  「知らないの?オズリーブスのイエローリーブス! フリスビーが武器だろ? オレ尊敬してんだ!」

剛から少し体を離して寝転ぶ黄龍。

黄龍 「…知ってるよ。オズリーブスのお荷物、役立たずのイエローリーブスだろ」
(ムキになって) 「役立たずじゃないよ!イエロー、強いしカッコいいよ!」
黄龍(空を見上げたまま) 「悪いんだけどさ、そりゃ思い違いだぜ。全然強いことなんかねーし…だいたいさー、ふつーヒーローったらレッドじゃん? ブラックだってムッカつくほど強えーし、グリーンもチビのくせして張り切ってるし、 ピンクだって女の子なのに…」

黄龍、着装した仲間が戦う姿を思い浮かべる。突然、怒ったように立ち上がる剛。

剛  「なんだよ兄ちゃん、イエローリーブスの悪口言うなよ!」(少し勢いをなくし) 「そりゃ、レッドとかブラックは強いけど…」(また勢いついて) 「でも、ホントはイエローだって強いんだ。イエローリーブスはオレのヒーローだ!」

放心した黄龍。一生懸命な顔で黄龍を睨む剛。黄龍、すまなそうに笑う。

黄龍 「あ、いやその…ワリワリ! イエローがあんまりフリスビー上手いからさ、 オレちょっと羨ましかったっていうか…ほら、シットっての? 別にイエローの悪口言ったんじゃねーんだ」

一瞬キョトンとして、気が抜けたようにぺたんと座る剛。

剛  「なーんだ…そっか!」
黄龍 「ゴメンゴメン。あとでアイスでも買ってやるから」
剛  「ホント?じゃあオレ、バナナチョコがいい!あ、ジョンにはジャーキーね」
黄龍 「げっ…しっかりしてんの」
剛  「当たり前じゃんか。でもさ〜、兄ちゃんってけっこうコドモだな。ヒーローにシットなんて!」
黄龍 「あっ、このヤロ〜生意気に、コドモだって?お前なんかマジに子供だろ!」

夕焼けに2人の笑い声。ふと黄龍のやや思い表情。



閉店間際の森の小路。何事もなかったようにドアを開けて入ってくる黄龍。

(2人同時に)
瑠衣 「黄龍さんっ!」
翠川 「瑛那!」

黄龍、手をひらひら振る。

黄龍 「よ、たーだいまっ」
赤星 「どこ行ってたんだ?」
黄龍 「ちょっとねー」

黄龍、カウンターに座り、水を注いで一気飲み。

黄龍 「……あんのさあ……アレは?」(ギターを弾く真似。さらに口笛を吹いてチッチッチッと指を振る)
赤星(親指を隠し扉に向けて) 「ベースだよ。さっき見たけどオズブルーンで寝てたぜ」
黄龍 「なんだ! も〜ビビらせやがって…。実はさ〜、入る時、内心いたらやっべーなーと思ってたんだよねー」
翠川 「ふ〜〜〜ん、黒羽さん怖いんだ」
黄龍 「なーに言ってんの、また何か言われたらめんどくせーと思っただ・け。おめーと一緒にすんな」

ムキになる翠川とじゃれる黄龍。そこへ瑠衣が歩み寄って耳打ち。

瑠衣 「ね、黄龍さん。黒羽さんね、あたしにだけ言ってくれたの。 オレがいちゃあ瑛ちゃんも帰りづらいだろって。だから今日はさっさと寝るよって……」

瑠衣、黄龍の手を握って、目をじっと見つめる。

瑠衣 「ホントは黒羽さん、黄龍さんのこと考えてるの。だから仲直りして、ね」

黄龍、しばし真剣な目で瑠衣を見ていたが、すぐへらっと笑って手を放す。

黄龍 「あいつ、そんな事言ってたの?ったくよ〜、なんだかんだ言ってガキ扱いってゆーかさ… 瑠衣ちゃん、あいつの言うことなんかマトモに聞いちゃダメだよ」
瑠衣 「でもっ…」
黄龍 「じゃ、バーイ」

去っていく黄龍。顔を見合わせる赤星、翠川、瑠衣。

赤星 「…大丈夫。あいつはイエローリーブスだ」


スパイダル基地。

シェロプ 「まだオズリーブスの正体は掴めんのか!」

敬礼し、暗黒次元の言語を発する2体のアセロポッド。

シェロプ 「ええい、役立たずどもめが……目障りな!」

サーベルで2体とも始末するシェロプ。消えるアセロポッド。基地の影から響く足音。ブラックインパルス登場。

シェロプ 「……これはこれは司令官。何か御用でしょうかな」
BI 「言わずとも分かっておろう。今回のことはそなたに任せてあるはず…。 作戦はどうなっているのだ。まだ動きを見せぬようだが」

次々と姿を現すゴリアント、スプリガン、アラクネー。

ゴリアント 「シェロプよお!てめえオズリーブスにビビっちまってんじゃねえだろな? オレっちが代わってやってもいいんだぜ!」
スプリガン 「そう言いなさんなゴリさん。ご貴族様は万事優雅でおいでなさるのさ」
アラクネー 「作戦の指揮が決定してから時間も経つというのにこの体たらく……。司令官、あたくしの部下ならばこのような」

BI 「黙れ。指揮はシェロプが執ると決まったのだ…。よもや本当に何も手は打っておらぬのではなかろうシェロプ」
シェロプ(3人を見下すように眺めてから) 「はっ。既に暗黒次元より我が軍最強の戦士、マルキクワンガーを呼び寄せております」
BI 「よかろう。マルキクワンガーを地上に放て!!」



黄色いフリスビーを持って公園に向かう黄龍。公園から聞こえる悲鳴。

黄龍(公園に目を向けて) 「まさか!」


公園。逃げ惑う人々。暴れるクワガタの怪人、マルキクワンガー。

マルキクワンガー 「ふはははは、どこだぁ出て来いオズリーブス!」
イエロー 「ここにいるぜ、クワガタ野郎!」

子供たちを背にしてマルキクワンガーの前に立つイエロー。

イエロー(名乗りポーズ) 「龍球戦隊オズリーブス、イエローリーブスが相手になるぜっ!!」
マルキクワンガー 「出たなイエローリーブス。オレの名は暗黒怪魔人マルキクワンガー! まぁずは貴様から血祭りに上げてくれるわ!!」

トンボを切って飛び退くイエロー。着地、リーブラスターを抜く。

イエロー 「リーブラスター!」

マルキクワンガーの体の表面で爆発。しかしダメージなし。

マルキクワンガー 「そんなものは効かん!効かんぞお!!死ねイエローリーブス!!」

が、その足元で爆発。頭上から声 「そこまでだ!暗黒怪魔人マルキクワンガー!」

マルキクワンガー 「何者だっ!!」

振り向くマルキクワンガー。建物の上に立ち、リーブラスターを構えるオズリーブス4人。4人、名乗りポーズで

レッド 「レッドリーブス!」
ブラック 「ブラックリーブス!」
グリーン 「グリーンリーブス!」
ピンク 「ピンクリーブス!」

名乗ってから飛び降り、イエローの所に集まる4人。

5人(全員バージョン名乗りポーズ) 「龍球戦隊!オズリーブス!!」
マルキクワンガー 「現れたなオズリーブス、ここが貴様らの墓場だ! 我らスパイダルの力、今日という今日こそ思い知るがいい!!」

マルキクワンガーに立ち向かう5人。レッドのパンチがヒット、よろけるマルキクワンガー。イエロー・グリーンのダブルキック。ツノで振り払うマルキクワンガー。隙が生じたところをブラックの後ろ回し蹴り。

ピンク 「今よ!マジカルスティック!」

マジカルスティックの攻撃。マルキクワンガーの体に電流が走る。

マルキクワンガー 「ぐおおおおぉ!!おのれぇ調子に乗りおって……死ねぇっ!!」

2本のツノがはずれてブーメランのように飛び交う。ジャンプ中のレッド・グリーンの胸に命中。

レッド 「うおおっ!」
グリーン 「うわあっ!」

さらにツノが旋回してブラック・イエロー・ピンクを襲う!

ブラック 「ぐっ!」
イエロー 「うあっ!」
ピンク 「きゃあっ!」

ツノが円を描き、マルキクワンガーの頭に戻る。

マルキクワンガー 「ふわっはっはっはっはぁ!見たかホーンブーメランの威力!!」

5人、よろけつつもレッドを中心に集まる。

レッド 「なんて奴だ、ツノを飛ばしやがった!」
グリーン 「リーブラスターは通用しないし…くそっ!」
マルキクワンガー 「貴様らの体を八つ裂きにしてくれるわ!喰らえホーンブーメラン!!」

2本のツノが飛ぶ!

ブラック 「ちっ、イエロー! ブラックチェリーではあの動きは捉えられん! ホーンブーメランに対抗できるのはお前のリーブチャクラムだけだ!」
イエロー 「OK!リーブチャクラム!!」

チャクラムのポーズ後、ホーンブーメランを落とすべくチャクラムを投げるイエロー。

マルキクワンガー 「甘いわっ!」

ホーンブーメランに撃墜されるリーブチャクラム! 煙を上げて地面に突き刺さる。

イエロー 「な、なんだって!?」

が、背後でレッドの声。

レッド 「ぐわあっ!!」

2つのホーンブーメランに胴体を挟まれ苦しむレッド。

4人 「レッド!」
マルキクワンガー 「ふははははは苦しめ苦しめ、レッドリーブス! あと少しで貴様の体は真っ二つよ!!」

4人、ホーンブーメランをはずそうとするが、ピクリとも動かない。だんだんレッドの体に食い込んでいく。

レッド 「み、みんな…!これでホーンブーメランの動きは止まった! 今のうちに奴を……ぐああっ!」
ブラック 「赤っ………くそぉ、みんな行くぞ!!」
グリーン 「おう!」
ピンク 「はいっ!」

飛び出す3人、イエローは出遅れる。一歩走るが立ち止まって落ちたチャクラムに目をやる。

イエロー 「……………」


クワンガーと戦うブラック・グリーン・ピンク。

ピンク 「もう許さないから!マジカルスティック・稲妻重力落とし!!」
マルキクワンガー 「ぐおおおっ!?」

ピンク、ジャンプからエネルギー全開でスティックを打ち下ろす。

ブラック 「よおーし、ミド! ダブルだ!ブラァック!!」
グリーン 「グリーン!!」
ブラック・グリーン 「ダブル反転きりもみキック!!」

2人揃って空中回転ジャンプキック。

マルキクワンガー 「ぬううぅ…おのれオズリーブスめ、命冥加な奴らよ! 今日のところはこれで引き下がってやるわ!!」

ホーンブーメランを頭に戻す。手をかざし消える。


ガクリと倒れるレッド。スーツが破れ血が流れ出している。駆け寄る3人。

ブラック 「レッド!」(耳元で小声で) 「頑張れ、まだ着装は解くな」
グリーン 「しっかりして下さいっ!!」
ピンク 「レッド!レッドーっ!!」

少し離れたところで立ち尽くすイエロー。呆然と眼前の状況を見つめる。ふと視線をチャクラムに移す。突然ハッとしたように顔を上げる。

イエロー 「……………!」

公園の木の側に、剛とジョンが立っていた。怒ったような傷ついたような顔でイエローを見つめる。走り出す剛。

イエロー 「あっ…」

追うように手を伸ばすイエロー。だんだんとその手が下がり、胸の前で握り締める。



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