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第13話 暁 光
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有望は表向きは国立物性研究所の科学者であってOZの身分証を持っているわけではない。赤星のように現場の担当者をとっつかまえて情報を要求したり、指示を出すわけにはいかなかった。だが、本部でモニターできる限りの情報はすでに得ていた。救急と警察が走り回る中、人目を避けて葉隠と連絡をとった。 「最初の爆発は爆弾のようでした。怪人の残したもので不発だった分と思われます。続いて起ったのはあきらかにガス爆発でしょう。倉庫の中に予備のLPGでも‥‥?」 <置いてあって‥‥それが漏れていても不思議はないの> 「木造のうえ、この風です。あっという間に燃え広がったんです! 構内に残っていた消防が消火に当たっていますが手こずっています。ルートの途中はどんな状況でしたか?」 <あまり芳しくないの。床扉の上部も段ボールで一杯だったし‥‥> 「発電施設のそばにも燃料があるはずですわ。引火の危険性は?」 <天然ガスの配管が走り回っとる。あと、LPGタンクもあるな。天然ガスが漏れると‥‥空気より軽いから、上からの火に引火する可能性がある> 「わかりました。いったん切ります。何かあったらすぐ連絡してください」 葉隠たちを北の端に避難させておき、南側を一挙に崩すというのも手かもしれない。だがそれには装備が必要だった。どちらにしろ中の様子がよくわからない状況で行うには、いささか乱暴な手段だった。やはり、今、消防がやろうとしているように、倉庫側の火を消し止めて、葉隠の入った運搬用ルートから救助するのが、今とれる最良の方法のように思えた。 通信を本部と切り替える。 「サルファ。戦闘状況は?」 <敵ガ巨大化スル信号ヲきゃっち。リーブロボヲ発進サセマシタ> 「わかったわ。オズブルーンも現状に配備して。戦闘が終わったら即刻連絡を頂戴。直ぐに彼らにこっちに来てもらった方がいいかもしれないわ」 <リョウカイ> ===***=== <りーぶろぼ! アト10秒デ到着!> 5人のリーブレスにサルファの声が届く。既に基地を発進していた5台のメカは、彼らの後方で既に合体シフトに入っていた。 「乗り込むぞ!」 変形を始めているジェットドラゴンに赤星が、ランドドラゴンに黒羽が、ターボドラゴンに黄龍が、ラガードラゴンに輝が、そしてスタードラゴンに瑠衣が‥‥。各人のスーツのリーブ粒子が、各メカからのトレーラービームをキャッチし、操縦席まで誘導される。 「直ぐにセンター・コックピットへ移動!」 変形の完了したリーブロボの胴体中央部にあるセンターコックピットに全員が集合した。 「チャージアップッ リーブロ‥‥うわぁっ!!」 巨大化したディーラムの投げつけてきた爆裂弾が体勢の整わないリーブロボの胸部を襲う。中の人間を衝撃が襲うが、直立モードになっているリーブロボは自動的にバランスを取り直した。 SUGOI Science ―Strategic Ultra Guardian Overwhelming Integrated Science―戦略的超守護的圧倒的統合的科学― を提唱した稀代の天才科学者、長谷川裕一。彼が、人が操縦する巨大戦闘ロボの理論を発表した時、そんなことは不可能だというのが大半の科学者の意見だった。 しかし、長谷川博士の発想は意志を持たない自律制御ロボットに人間の意志決定を組み合わせるというものだった。それは操縦と言うより補完だった。リーブロボは、走る、跳ぶといった基本的な動きについては、高性能センサーのフィードバック機構を用いて完全に自律的に行うことができた。 リーブロボのメイン・パイロットは、自分の意志と組み合わせる最適の行動モードを選択し、あとはスイッチ又はキーボードと操縦スティックの組み合わせでロボットを制御する。緊急時にはこのコックピットそのものが射出されるが、ここはその操縦席も兼ねていた。 赤星の右隣、黒羽の着席するコパイロットの席からは、ロボットの腕の動きにコンピュータでは判断しきれない微妙な調整を加えることが可能だった。リーブロボの制御にトラブルが起きた時は、ここからロボットの両腕と胴体を別系統で完全にコントロールできるようになっている。 左隣、黄龍のサブ・コパイ席には全ての情報が統合されるメインコンソールがあった。リーブロボの制御にトラブルが起きた時、ロボットの脚部を別系統でコントロールするのがここだった。 後方右。輝の席にはロボットの周囲にあるセンサー、カメラの全てのモニターがあった。戦闘の中で、赤星、黒羽、黄龍が把握できない周囲の細かい状況を、輝が全てチェックしている。 そして後方左の瑠衣の席ではリーブロボの動力源であるリーブ粒子の状態を監視、制御できる。ロボット各部を流れるエネルギー流量は、ここのパネルから調整することが可能だった。 「あの手品っ でっかくなった分とんでもねーぜ! なんとかしてくれよっ」 「しかし、ヘタに避けると周囲に被害がでちまうぞっ」 「ミドの方法で行くしかないな! レッド、龍球剣で打ち返すっ」 「よーし、龍球剣!!」 「グリーン、俺様と席かわれ! ブラックのサポート頼む!」 「わかったよっ」 黄龍と輝が肘掛け部分のキーを操作する。二人の座席が下に沈むと入れ替わった。リーブロボの腕の中から特殊金属の刀剣が出現し、同時にその刃をリーブ粒子が覆う。巨大な刃が空間を巧みに舞い、飛んでくる爆弾を全て打ち返した。投げられる爆弾の軌跡を反射的に読みとる輝の指示と、リーブロボの自律プログラムのクセを完璧に把握しきった黒羽の、驚くほど微妙な補正の勝利だった。 なぜ、ここまでの技術がありながら、生身の人間を乗せるのか。 もちろんコンピュータの限界という理由もある。しかし‥‥。 武器が人の手を離れ、戦う者たちが戦闘と自らを切り離した時‥‥。 "命"の手応えを失った時、軍事科学は必ず人間を滅ぼす。 それは長谷川裕一博士の信念だったのだ。 「よーし、仕上げだっ」 「エネルギーコントロールOK!」 赤星の声に瑠衣が答える。スイッチを制御しエネルギーを刀剣に集中する。鍔の部分でリーブ粒子の光のラインが屈折を起こし、5色の虹がまき散らされた。 ディーラムがまさに殴りかかってくるその寸前に、くんっと距離を詰める。 生身の時と同じ、赤星の異能がゆえの独特のタイミングだ。 「龍球剣っ リーブ・クラッシュ!!」 龍球剣が鮮紅色の身体に袈裟懸けに入った。同時にリーブロボの身体から高臨界のリーブ粒子がなだれ込む。押し込んだ刃が、途中で、もろり、と崩れるような感触に変った。リーブロボが後ろに飛びすさる。ディーラムの巨大な体のあちこちで爆発が起きると、それがくしゃくしゃと崩壊していった。 「やったぜ!」 任務完了の安堵と喜びがコックピットを包んだ時だった。 「な!? オズブルーン!?」 黒羽が驚きの声を上げる。リーブロボの眼前を自動操縦で飛ぶオズブルーンがかすめ飛ぶ。と、同時に‥‥。 <みんなっ オズブルーンですぐに大学に戻って! 洵君と博士とおじさまが大変よっ> 有望の切迫した声が響いた。 ===***=== 「ちょっくら、参ったわい‥‥」 こんな時だというのに、葉隠の声にはどことなく呑気な響きがある。彼らは既に南側の棟に戻っていた。いくら制御ルームといっても、作業机と椅子ぐらいある。発電設備の側のコンクリートの上に座っているよりはマシだった。 「まさか、もう一度こんなことが起るとはな」 虎嗣の声も落ち着いている。 「予備のボンベぐらいはあるかと思ったが、不発弾というのは考えオチじゃったわい」 悠長なその感じが逆に洵をいらだたせた。自分を助けに来た葉隠と虎嗣を巻き添えにしてしまったという認識が、この繊細な青年の心をひどく乱していた。そのうえ相変わらず息苦しい。長時間の緊張を押しつけられた心臓は完全に不整脈を拍ち始め、気をしっかりもっていないと眩暈を起こしそうだ。しかし、そのことを知られたくないという思いが、余計にその心と身体に負担を強いた。 葉隠は、ただ自分の養い親というだけではない。彼がノーベル物理学賞を受けた研究は物理学賞受賞者中、最年少での成果だった。その上あとからノーベル化学賞まで取った人間など世界に二人といない。そして彼はその賞金や数々の特許料をもOZにつぎ込み、平和のために貢献している。日本中が、いや世界中が必要としている人間なのだ。 それにひきかえ自分は‥‥。 この偉大な人間を巻き添えにしているこの自分は‥‥!? 「ねえ、博士、なんで、来たの!?」 洵の声がつい詰問口調になる。 「せめて警察の人とか、消防署の人とか‥‥」 「言おうとしたが、そばにおらんかったからの。しかし、かえって幸いじゃった」 「幸い?」 「警察の人間に話したら来させてもらえんかったろう? そうしたら、お前の顔を見るまで、ずーっと外で心配するハメになったはずじゃ。でもここに居るから、無事な姿をこうして見ていられる。こりゃ、ほんとよかったわい」 葉隠は無邪気に、にこにこと微笑んで洵を見つめている。十年前に長野で会ってから何一つ変ることのない笑顔だった。 「博士‥‥。だめだよ‥‥」 「ほ? 何がじゃ?」 洵の握り拳がいきなりどんと机を叩いた。 「自分のこと、もっと考えてよっ 自分がどれだけ大事な人で、日本や世界から必要とされてるか! 僕のためにこんな危ない目に遭っていい人じゃないんだ! 僕のことなんか心配しないでよ!」 共に暮らして十年。声を荒げることなど無かったこの子どもの激しい調子に葉隠は驚いたが、言葉の内容に、その目をすっと細める。葉隠が静かに口を開いた。 「‥‥洵‥‥。儂は、息子が困った時に助けにもいけない、心配もさせてもらえない、そんな御大層で寂しい身分ではないと思うがの」 洵は狂おしいほどの眼差しで自分の養い親を見つめた。動悸が思考まで急き立てて、追いつめられている気がする。もう落ち着いてものが考えられなくなっていた。 自分のせいで‥‥この人を死なせてしまうかもしれない‥‥! 「だいたい僕なんかが‥‥博士に引き取られたのが間違ってたんだ‥‥。こんな‥‥。こん、なっ‥‥犯罪者の子供なんかっ」 「洵っ」 ぱしっと、乾いた音が響いた。 遠くから伝わってくる振動や不気味な音が、その一瞬だけすべて消えたかのようだった。 洵は、打たれた左の頬を押さえ、栗色の瞳を見開いていた。 そして、葉隠は、60年の人生で、初めて人を打った感触に、ただ自分の右手を見つめていた。 穏やかに義理の父子のやりとりを見つめていた虎嗣がそっと立ち上がった。葉隠がいきなり立った時に倒れた椅子を直す。自分の両手で、旧友の右手を包むように二度叩くと、微笑んで椅子に座らせた。そして、洵の左肩にそっと手を置いた。 「洵坊‥‥。人はな、誰かにとって、ただ居るだけで‥‥、それだけでいいことがあるんだよ。たとい何もできなくても‥‥。その誰かのために、何もできなかったとしても‥‥。そうだな、あきちゃん?」 洵が虎嗣を見上げた視線を、また葉隠に戻した。 「洵‥‥。儂はな、何があろうとお前が一番大事なんじゃ。お前が居てこその平和じゃ。OZに本気で取り組んだのもお前と会ったからじゃ。昔の儂にとって、科学は結局、好奇心を満たすだけのもので‥‥。だが、お前と暮らして‥‥儂は、初めて‥‥」 葉隠は皺の目立ってきた両の手を自分の胸の前に広げる。 「‥‥初めて、儂は、人の世の中というものに、触れた気がしたんじゃ。この手で感じた‥‥。モデルじゃなく、図式でもなく、そこにあるものとして‥‥。それを教えてくれたのは、誰でもないお前じゃった。お前が儂の側に居てくれて、それで初めて気づいた‥‥」 洵を見る葉隠の表情は、比類のない優しさを湛えていた。 「儂はお前と会えたことに感謝しとる。お前が生まれてきてくれたことに、もっと感謝しとる。お前の中に、優しくて純粋で、こんないい形質ばかり遺してくれたお前のご両親にとても感謝しておるんじゃよ」 洵が無言で立ち上がった。その腕がすっと葉隠の首に巻き付いた。 葉隠の腕が洵の華奢な身体をしっかりと抱きしめた。 背中を包む温かくてずんぐりしたその両手は、洵の、細胞のひとかけら、記憶のひとかけら、思考のひとかけらも余さずに、その存在の全てを赦していた。 ただ‥‥ここに「在れ」と‥‥。 2002/1/13
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