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Special3 Luster!
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「さ、今日はもうここまでだ。」 「お疲れ、坊や。」 練習につき合ってやっていた黒羽が優しく笑う。 そうすると次に、 「ええ〜っ、もう終わりなの?リーダーっ!」 と、遊びをうち切られたような声を輝が出す。 つい一週間前まで息も絶え絶えで、死にかけの虫のように体を震わせていた輝だったが、持ち前の運動神経と驚異的な動体視力で、みるみるうちに彼の技術を吸い取っていった。 打てば返ってくる、その確かな『シゴキ』の成果が見て取れるのが赤星も黒羽も楽しくてしょうがなかった。運動は全般的に得意な輝も、この生まれて初めて身に付けることばかりのトンファーが楽しくて楽しくてたまらない。夕食が待っている部屋まで歩くことさえままならず、道場や店内で突っ伏して朝を迎えた、なんてこともすぐになくなっていった。 今ではこの夕食までの練習時間も短いと感じるようになったらしい。 赤星も、輝がトンファーに慣れるに従って時間を少しずつ少しずつ長くしていったのだが、彼はこの頃、体力以上の練習を求めるようになっている。 肩を大きく上下させているクセに、どうやら彼にとってはまだ練習が足りないらしい。 「よくもまあ、あんなキツイ練習に後ろ髪引かれるもんだぜ・・・。」 黒羽が笑い混じりにため息をつくと、赤星はそれを待っていたかのように輝に言う。 「だめだ、いつも言ってるだろ。今日のお前の限界はここまでなんだ。これ以上やったら明日、お前の体が悲鳴をあげるぞ。」 「・・・・・・・・・だって。」 「ゆっくり休む事も大切だっ。いつも言ってるだろ?」 だだこね坊やと、それをいさめる父親のように接する赤星。 いつも通りのやりとりだ。 今日もそのはずだったのだが、ちょっと違った。 「や、やだ・・・。ねえっ?ちょっとだけ・・・ダメ?」 今日に限って、輝の聞き分けが良くない。 「だーめだっ。」 「1時間だけっ!」 「だめっ。」 「じゃ、じゃあ30分!」 「だめだっ。」 「じゃあ、15・・・。」 「15も10も1分でもだめっ!!今日はおとなしくメシ食って寝ろ!」 このままではこの会話は平行線になると感じた赤星は、輝の言葉に無理矢理ピリオドを打った。 輝はムスっとしてスペアのトンファーをグリップだけの状態に戻し、防具をのろのろとはずしながら助けを請うように黒羽を見た。 「坊や、どうしたんだ?随分、練習したがるんだな・・・。」 「だって・・・は、早く身に付いた方がいいでしょっ?オレにとっても黒羽さん達にとってもさっ。」 「そりゃそうだな。」 「でしょうっ!!ホラ、黒羽さんもこう言ってるもん!リーダーっ、5分だけ!ねっ?」 赤星は黒羽に非難の目線を送った。彼は気が付かないフリをしてニヤリと笑う。 (あのなあっ黒羽・・・。やーっと説得したっつのにお前はどうして混ぜっ返すんだよ。) (5分どころか10秒で終わらせることが出来るだろ?お前さんなら・・・。) 輝にも、この2人が視線で会話を交わしている事がよくわかった。 内容まではわからないが、自分にとって悪い事ではなさそうだ。 また練習出来ると思うと輝は手を組んで天井に向かって伸びをした。 「よし、わかったよ輝。5分だけだぞ。」 「やったあっ!ちょっとまってて、今プロテクター付け・・・。」 「それはいらないっ・・・。こ・れ、だけだ。」 赤星がグリップだけになったトンファーに刺激を加えると、はじけるように元の姿になる。彼がそれを握り、腕を静かに体の側面に置く。 だらりとしたかまえだが、彼がすると形になる。空気が冬の空のようにはりつめ、彼の凛とした気配が肌を伝わる。 彼が教える『形』だけはマネできても、この気のはりつめようは未だにどうしてもモノに出来ない。 赤星は息を大きく吸って吐き、ボクシングをするように腕を胸の前に出し、腰をかがめた。 「さっ・・・。技術を、頭を10倍使って思い出せ。緊張感を100倍使え。俺の拳を目で追える、その動体視力を1000倍にするんだっ!」 「はっ、はいっ!!リーダーっ!」 輝は先ほど取ったプロテクターを足でカベ際に追いやると、トンファーをすっとかまえ、教えられた通りに腰を低くする。 赤星はニヤリと笑い、そして申し訳なさそうに彼につぶやいた。 「実戦編と行きたいところだが・・・ごめんな、輝。」 「へ?」 ぱしっ 輝の疑問をかき消すかのように黒羽が手袋を取り、指をキレイに鳴らした。 指が鳴った途端に、赤星の姿が輝の視界から消える。 上に一直線に飛んだということがわかるまでに時間がかかった。 上に視線を向ける。それを待っていたかのように自分の側面の空気が揺れる。 輝は悪巧みが成功した時のようにくすくす笑い、上半身を後ろにひねる。 「リーダーっ、その手はくわないよっ!後ろだっ!!」 輝はトンファーを握りしめ、エルボーを喰らわすように右足と共に踏み込み、拳を前方に出して空を切った。 からんっ! 手応えはあったが、音が軽すぎる。打つと返ってくる肉の感触が全くない。 見覚えがあったそれは、赤星が持っているトンファーだ。 派手な音を立てたトンファーは、自分をバカにするかのようにくるくると宙に円をかいてみせる。 「え、しまっ・・・。」 「裏をかきすぎたなっ!輝。」 左から声がする。 (よけなきゃっ!) 彼は前に退こうと踏み込んだ足に力を加えようとした瞬間、自分の良すぎる動体視力は赤星の一連の行動を、スローモーションでとらえた。 彼の長い左腕は自分をトンファーごと押さえ込む。 右手で宙を舞うトンファーをぱっと取る。 逆さにとったそれをくるりと逆さにして、暴れる自分の体をまるでヤリのように中央めがけて突き刺さった! 「うあっ・・・がっ。」 「強制終了だ、輝。悪いがコンティニューはできないぜ。」 赤星が本調子で突いたら、多分内臓破裂くらいは軽いだろう。あの至近距離で力を手加減して突きを喰らわすなんて普通ならできない。 見事にみぞおちにはまって、むしろ心地よいくらいに頭がくらくらしている。 「ひ、ひっ・・・どい・・・りーだっ・・・ ・・・・・・・・・・・・。」 「ゆっくり眠るんだ。おやすみ。」 輝の耳に彼の言葉はすでに届いてない。赤星の腕の中でくにゃりとしている。 「予想通り、ひでえリセットの仕方だったな・・・。」 「ああ、けど休んでくれないと体壊しちまうだろ?体力が付いて、練習したがる気持ちはわかるんだが・・・。」 「そうだな・・・。フフ、肩で息をしながら、お前に練習させてくれッ!・・・っていう奴なんか坊やくらいだぞ。そんな貴重なヤツなんだから大切に扱うんだな。」 「まあなあ・・・。」 赤星は未だにかくりとしたままの輝を抱えながら、楽しそうにつぶやいた。 眠っている時も、自分の言いつけをきっちり守っている。トンファーだけは輝の手に吸盤があるかの如く、吸い付いたようにはずれない。 赤星は輝を抱えて自分の荷物をひょい、と手にした。 少しだけ時計の針を気にしている。 「洵先生のところか?」 黒羽は輝のディパックに彼のプロテクターをぎゅうと押し込んだ。 「ああ、いつもよらせるようにしてるんだ。まだいるよな、洵・・・。それに輝のことだから、ケガしてても自分じゃ気が付かなさそうだから。」 「そっくりだよ、お前ら。」 彼は赤星の前に手を差し出す。赤星は最初なんの事かさっぱりわからなかったが、自分の肩をまくらにして眠っている輝を見て、ようやく察しがついた。 「連れてってくれるのか?」 「先にみんなのとこ行ってな。旨い料理が待ってるぜ。」 「そっか、ありがとなっ。」 赤星は黒羽に輝を受け渡すと、輝は上手に黒羽の背中におぶさった。 ぐっすり眠っているはずなのに、あまりにムダのない行動にふたりはくすくす笑った。 「おい・・・起きてるのか?」 「まさか、旦那の一撃をまともにくらったんだぞ。」 「ぐう・・・ムニャ。」 黒羽は自分の肩に頭をもたげている輝の顔を見た。 輝のウソはすぐバレる。 バレるというよりも、ウソをつくような後ろめたいマネはあまりしない。 「どうやら、眠り坊やはウソついてないらしいな。」 「明日まで体力回復しておけよ〜。明日はもっとキツイぜっ。」 赤星は輝の頭をがしがしとなで回すと、自分のディパックをひょいとかついだ。 「じゃ、輝のことよろしくな。すぐに来いよっ!」 「まかせときな。」 彼は指先をそろえて手を額にかざすと、赤星は「じゃなっ!」と言い皆が待っている部屋へと駆けていった。 「ちょっと・・・この坊やには色々話したいことがあってな。」 「んん・・・。」 黒羽は返事をするかのように口をもごもご動かしている輝を背中で抱えて、医務室の方まで歩いていった。 遠くから、何かの鳴き声が聞こえる。空を見ると真っ赤だ。 医務室を染める太陽をちらりと見て部屋に視線を落とすと、影が濃くなっている。洵は明かりを付けようか付けまいか、少し悩んでいると寝息に似た息づかいが彼の耳に入ってきた。 目の前のパイプチェアに座った輝はずーっと下を向いたままだ。首の座らない赤ん坊のように顎がのけぞったり戻ったりしている。 顎がのけぞる瞬間に見てとれる少女のような顔は、無残にもあざだらけ。ハーフパンツから出た膝はスリキズがいっぱいで、応急処置のために貼ったのであろう、絆創膏が何の役にも立ってない。腕まくりをした肘も同じようにキズだらけだ。なにより酷いのが手のひら。マメだらけでじっとりと湿っている。つぶれないようちょっとは気を使うということを赤星も輝も知らないので、マメをつぶしてその上からまた新たなマメができるということになる。 湿っている原因は、マメのつぶれたせいと血液のせい・・・と、改めて確認をした洵は苦笑まじりにため息をついた。 「輝くん・・・?」 「・・・・・・・・・・・・。」 「輝くん。」 「無駄だ、洵先生。朝まで起きないぜ。赤星のお墨付きだ。」 「なるほど・・・。キレイな一撃もらったみたいだね。」 洵は目もとを細くしてゆっくり笑顔を作ってみせた。手には消毒液という名の硫酸がたっぷりしみこんだカット綿がある。輝のスリキズがある頬にそれをゆっくり押しつけると、炭酸ソーダの如くじゅわじゅわと音を立てた。 黒羽は帽子をちょっと深くかぶり直し、洵は少し顔を歪ませた。 かなりしみるはずなのだが、彼は起きる気配がない。それを確認した洵は、相変わらず船をこいでいる輝の顔を左手で抱えて、本格的にぺたぺたと消毒をし始めた。 「練習しても、練習しても、まだ足りないって思うんだろうね、輝くんのことだから。」 男性にしてはちょっと高めのアルトの声。優しい笑顔は中性的で、不思議な魅力があった。彼の柔らかい笑顔は赤星の笑みとも、黒羽が口元だけで笑う表情とも違っていたが、輝はそんな彼の笑顔がスキらしくよくなついていた。 「僕もわかるなあ・・・。そういう時ってありますよね?誰でも、ちょっと不安になるときって・・・。」 そうつぶやきながら、笑顔が魅力的な医師は輝の手をとり、そしてまた少し困った顔をしていた。 洵はそばにあったテーブルの上に乱雑に置かれた書類を見た。両腕でそれをどかせると、指でテーブルをつついて黒羽に微笑みかける。 「あのお、今だけでいいからそのトンファー、彼からとってもいいですか?」 「そりゃ無理その2だな・・・。」 輝は手にしているトンファーを無意識のうちに握ったり、握り返したりを繰り返している。 しかも、またマメがつぶれそうになるくらい。 彼専用に作ってくれたものなので、サイズや握った時の違和感はあまりないが、それでも新しいものにはかわりない。『ずっと手にしてろ。』というのは赤星の言葉だが、真面目な彼は夢の中でもそれを忠実に守っているらしい。 「赤星の言うことは、絶対守ってるからな・・・。寝るときも、フロ入ってるときも持ってるのは驚いたぜ。」 「アハハ・・・。有望さん、頑丈に開発したって言ってましたっけ・・・。けど置いてくれなくちゃ包帯も巻けませんよ。ね?」 洵が手にしている箱の中には白い包帯に、カット綿の山。それに冷やすためのものだろうかアイスノンがあった。ほとんどセットになっているそれらは、いかに輝がここの世話になっているかがよくわかる。 「よーし、坊や。イイコだから指の力を抜けよ〜。」 夢の中にいる輝にそうささやくと、指をこき、と鳴らしてトンファーから輝の指を一本一本、丁寧にはがしとろうとした・・・のだが、はずれてくれない。 まるで吸盤のように、彼の手のひらに吸い付いている。ムリヤリひっぺがそうとするが離れない。 黒羽が引っ張ると、スイッチが入ったかのように手に力が入るようになっているらしい。 黒羽と洵は思わずため息をついた。 「真面目すぎるのも、困ったもんだな。」 「ああ〜・・・。輝くん?」 輝は洵に返事をするように首を後ろにのけぞらせてみせた。 「竜太さんがね、ちょっとだけトンファー・・・置いておきなさいって。」 からん、からん、からっ。 タイルの床に高い音を響かせてトンファーが転がったのを見て、洵はニッコリ笑う。 「わあ、はずれたっ。」 微笑みながら目を合わせる洵に、黒羽はくすくす笑った。 2002/1/2
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