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理絵さんの夢織劇場
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その6 夢織将軍のコレクション 「なに?」 スパイダル諜報部の大きなデスクの向こうでアラクネー将軍はキッと険しい顔を上げたのです。 「司令官殿の銅像の鋳型が盗まれたと?」 警察機構からの情報をとりまとめている怪人ポリファイダーは背筋を伸ばして答えます。 「はっ 銀の糸公園の公会堂のロビーに飾られている参謀閣下の銅像です。 二週間前の除幕式には参謀閣下の代理で将軍閣下が出席されて‥‥」 「もちろん、覚えているわ。数多い司令官殿の銅像の中でもあれは特に出来がよかった」 「はあ‥‥。大変いい色合いに仕上がっていたように記憶しております‥‥」 「色合いもさることながら、頭部の角度と視線の置き方が絶妙だった‥‥」 「は?」 「お前は気づかなかったの? 気持ち引き気味の顎と、兜のあの角度こそ、司令官の強い意志と 慈愛に溢れた眼差しを表現するのに、もっとも適切なものだったわ」 「は、はあ‥‥」 「像としては少し小さいのが不満だけど、本当に見事な出来映えだった。ソニックブームの 柄の位置にまで細やかな配慮がされていたわ。司令官殿はちょうどあの位置に愛剣を 携えるのがお好きで、あれは確か‥‥」 「あっ‥‥あの! 将軍閣下!」 ミノース戦でのブラックインパルス参謀の輝かしい活躍をうっとり&延々と述べ立てようとしたアラクネー将軍は、遮られて少し不満げな顔をしました。 「なんなの、ポリファイダー」 「それで、その盗まれた鋳型の件ですが!」 「犯人を即刻捉えなさい! 諜報部の総力をあげるのよ!」 「はっ」 「私はすぐに仮眠室に籠もるわ」 「で、では、夢見をお使いに‥‥?」 「当たり前でしょう。この一大事。どんなヒントでも重要よ」 「しかし、先程、秘書がもう少ししたら機甲将軍がお見えになると申しておりましたが」 「重大な事件が起こったから後にしてと伝えて!」 「は、はあ‥‥」 「わかったら下がりなさい。30分で有益な手がかりが得られなかったらお前は更迭よ」 「はっ はいっっ!」 ポリファイダーはとても慌ただしい敬礼をして、大急ぎで部屋を飛び出しました。 それからしばらくして・・・。 アラクネーの執務室のドアを誰かがノックしました。返事が無いのでまたノック。3度ほどそんなことを繰り返した後、ばたんとドアが開きました。 「アラクネー、居るんだろ? 入るぞ!」 がしょっ、がしょっ、と金属音を響かせて入ってきたのは四天王の一人、機甲軍団のスプリガン将軍でした。 「あり? 執務室に居るハズじゃ‥‥‥‥」 どうもポリファイダーは、アラクネーが夢見に入ったことを秘書に言うのを忘れたみたいです。 「‥‥ふーん‥‥‥‥」 スプリガン将軍はなんとなく室内を見回しています。女性らしいところがあんまりなくて機能的な執務室です。でもなんとなーく甘い香りがする感じで・・・・・・。 ‥‥‥‥いえ! 将軍のセンサーは科学の粋を凝らした大変優秀なものですから。はい。 スプリガン将軍は机の上の三連の写真立てを見ました。いつも置いてある写真立てですが、机の向こう側に回ったことが無いから、誰の写真が入っているのか知りません。将軍はちょっとだけ興味をそそられたようです。出来るだけ足音を立てないように机を回り込みました。きっとアラクネー将軍のお母さんとかお父さんの写真だろうと思ったのでしょう。しかし・・・ ‥‥‥‥え"‥‥‥‥? 大きめの写真立てには、なんと我らが司令官ブラックインパルス様の写真がびっちり入ってます。アップの横顔や凛々しい立ち姿。もちろん全て兜をお召しのものですが。 (仕事場で上司の写真を仕事机に飾っとくたぁ、どういう了見だよ‥‥) スプリガン将軍はちょっとだけ溜息をついて天井を仰ぎました。と、そこで彼は動力が切れたかのように固まりました。まさにフリーズです。 天井の梁のこちら側の面、つまりアラクネー将軍の席からだけよく見える部分に飾り棚が作られていて、ブラックインパルス様グッズが大量に飾られているのです。写真や小さな肖像画から、ソニックブームのレプリカ、あげくの果てには紋章入りのハンカチまで! ちょっとばっかり、センサーの具合が悪くなりそうな気がしたので、スプリガン将軍は帰ることにしました。ドアノブに手をかけたところで、聞き慣れたがちゃがちゃという音が聞こえてきました。スプリガン将軍が日頃から密かに「オレの足音の方がいい音だよな」と思ってるあの音です。 将軍ドアを開けると、案の定、外にはブラックインパルス参謀が立っていました。 「スプリガン。お前も来ていたのか。用件は済んだのか?」 スプリガンは脇によけつつ軽い敬礼をして、ドアを広く引き開けました。 「それがアラクネーのヤツ、いねーんで。役立たずな秘書ですぜ」 「まあ良い。これを届けに来ただけだからな」 我らが参謀閣下はきびきびした足取りで部屋の中に入ってきました。手に持っていた大きめの封筒のようなものをアラクネー将軍の机の上に置き、机の主にまっすぐになるようにくるりと回します。 「新しい指令ですかい?」 スプリガンは聞いてみました。他の連中が居るときはもちろんこんな言い方はしませんが、二人きりの時は参謀閣下はわりに気さくになんでも話してくれるのです。スプリガン将軍が四天王の中で一番古株だし、知り合ってからずいぶんになりますから。参謀閣下はいつも通りの穏やかな声であっさりとお答えになりました。 「アラクネーに頼まれていた写真だ」 「誰の? ゲリラのスパイですかい?」 「いや、私のだ。少し前に籠手を変えたら、目ざとく見つけて、写真が欲しいと言うのだ。 アングルやらポーズの指定がうるさくて、やっと出来たので持ってきた。 しかし、まさかアラクネーが鎧に興味を示すようになるとは思わなかったがな」 スプリガン将軍は「はあ」とだけ答えました。写真をねだるアラクネーもアラクネーですが、それを鎧マニアと勘違いして写真を持ってくる参謀も参謀です。だいたいスプリガン将軍の知っている参謀閣下は、皇帝に命令されなければ肖像画の1枚も描かせないお人なのに、それがポーズとって写真なんて‥‥‥‥。 と、奥のドアがぱたんと開きました。 「あ、司令官殿!」 夢見から起きてきたアラクネー将軍がぱちりと敬礼をしています。でも寝起きのせいか声がちょっぴりハスキーがかっている上、襟元が少し乱れているところなど、じつに‥‥‥‥ 少し麻痺しかけていたスプリガン将軍のセンサーは、復活してばっちりクリアになってしまいました。喜ばしいことです。幸い夢織将軍と参謀閣下はそんな機甲将軍の様子には気づかなかったようですが。 「も、申し訳ありません。ある事件のために、急遽夢見をしておりまして‥‥」 「いや、構わぬ。写真を持ってきただけだから気にするな。ところで事件とは?」 「いえ、たいしたことはありません。もう解決いたしました」 「そうか。流石だな。何か問題があったらすぐに報告するように」 「はっ。‥‥あの‥‥お写真をありがとうございました」 「内容には責任は持てんぞ。お前の言う通りあいつに撮らせただけだからな」 「はい。大丈夫です。アレはよくわかっておりますので」 「それならよいが。ではジャマをした」 参謀閣下は軽く会釈をするように頷くと、フワリとマントを翻して部屋を出ていかれました。 「あら、スプリガン。いたの。なんの用?」 いきなりそっけないアラクネー将軍に、少しだけむすくれたスプリガン将軍は、わざと事務的に言いました。 「オレの工房で買った部品に次元発火装置が仕込まれてた件、直接に話聞かせろって言ったの、 お前だろ」 「そうだったわね。この件が片づいたら聞くわよ」 「お前な‥‥。それより、司令官の鎧の写真なんぞ、面白がって撮るんじゃねぇ」 「なんでよ」 「鎧の細部なんぞ重要機密なんだぞ。ヤバイだろーが。誰に撮らせた? 信用できんのか?」 「あら、アセロポッドの579号なら大丈夫よ。こんどヤバイことやったらどうなるか、 アレが一番よくわかってるわ」 「へ? アセロポッドだと?」 「そうよ。あいつ、写真がシュミで、以前司令官のこと盗み撮りしたのよ。ネガを後生大事に 持ってたところを、持ち物検査でひっかかって‥‥」 「持ち物検査?」 「司令官のお付きのアセロは、ちゃんとわたし自ら抜き打ちで検査してるわ」 「‥‥とにかく! 司令官が大事なら、そんなあぶねーヤツ、そのまんまにしとくな!」 「でも写真はうまいもの」 「おい!」 この部屋に入ってから何度めかの目眩に襲われたスプリガン将軍は話題を変えました。 「ところで、さっき言ってた事件は?」 「司令官の銅像の鋳型を盗んだヤツがいただけよ。でも犯人はわかったわ」 「んなもん盗んで、どうする気だったんだ、いったい‥‥」 「当然銅像を作るつもりに決まってるわ。ちょうどよかった‥‥」 「え? 何が?」 「何でもないわ。さっさと帰って。わたしは忙しいのよ!」 スプリガン将軍は、自分のサブリミナル映像でも仕込んだ映画でも送りつけてやろうかと思いながら、アラクネー将軍の部屋をあとにしました。 その後スプリガン将軍は、風の便りに、鋳型を盗んだ犯人が捕まったことを聞きました。犯人はまたしてもアセロポッドだったそうです。 でも、怪人ポリファイダーがどれだけ見事なタイミングで犯人を逮捕したかは機甲将軍の知るところではありませんでした。ポリファイダーはその働きのおかげで昇進したのです。なんせ彼のお陰で作りたての参謀閣下の銅像も犯人がため込んでいたコレクションも全てアラクネー将軍のものになったのですから‥‥。 ブラックインパルス様の"おっかけ"を自認する皆さん。くれぐれもお気をつけ下さい。参謀閣下に接近しすぎた時、アラクネー将軍の糸は貴方と貴方のコレクションをけっして逃がさないでしょう‥‥。 おわり 夢見:理絵/文:管理人 2003/11/30
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