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第8話 A Tender Soldier
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赤星達が倒した偵察ロボットは3体。 一体は赤星の拳によりこなごなになった。 もう一体は黒羽のリーブラスターブレードモードで一刀両断、爆発炎上。 そして残る一体は、黄龍が黒羽と同じくリーブラスターでとどめを刺した。 それのみ、なんとか形をとどめている。 めずらしく敵が残していってくれた『証拠品』として赤星達はそれを回収し、博士達に分析を頼んだのだった。しかし、はっきり言って何がなんだかわからない、というのが博士と有望達の最初の感想だった。外は柔らかい毛で覆われており、中身の無骨な作りの機械がアンバランスなロボットだった。 「けど、部品とか細かな所はわからんが、簡単な作業だけをするロボットじゃよ。タダの。」 「そうなの?」 今日はやけに無機質に見える医務室で、洵に包帯をゆっくり巻いてもらっている輝がいた。先ほどまでは瞬きを忘れたのではないかというほど目を見開いて、それでも何も見えていないようにぼうっとしていた。 博士にお茶をいれてもらってだいぶ落ち着いたらしい。 厚めのマグカップの中に入っているのは、よい香りがする玉露だ。 輝はそれをゆっくり、むせないようにすすって少し落ち着いた黒い瞳が博士の言葉に反応する。 「猫を改造された、とかそんなんじゃないの?」 輝の問いに、博士は沈黙で答える。 「作りはようわからなかったが、記憶されていることは3つ。偵察、ジャマされたら攻撃、反撃。それ以外の機能はないんじゃい。」 「攻撃・・・。そんな。」 洵の目の前に雫がこぼれる。彼が顔を上げると、優しい青年はぼろぼろと涙をながしている。彼が瞬きをするたびに涙の跡がひとつ、ふたつ、増えてゆく。 「ひどい・・・そんなことのためだけに、作るなんて・・・。」 「輝くん。」 彼は輝の腕を見つめた。スーツのおかげでダメージは軽減されたとはいえ、釘でさされたかのような穴が腕に開いていた、といっても大げさではない。 自分の腕に跡が残るかもしれないキズをつけたロボットのために流される涙は、はらはらと瞳と包帯の間を舞う。 輝はのろのろと立ち上がり、包帯を巻いてくれた洵に一礼すると博士を見た。 「ねえ、あのロボット、まだいるの?」 「まだおるが・・・もう原型は多分とどめておらんよ・・・。」 「わかってます。ねえ、見に行っていいかなっ?」 「おお、有望君達がいるはずじゃから・・・。」 彼の心配げな眼差しがわかったらしい、輝は自分の頬を手のひらでゆっくり包んで、ニッと笑うと「ありがとう、洵さん、ハカセ!」と手を振り医務室から出ていった。 「やれやれ、輝君の作り笑いはイヤなもんじゃのう。」 「・・・・・・・・・。」 洵は輝がいなくなってしまった後のドアをじっとみつめた。 たしかに彼は一所懸命だし、優しいし、自分も皆もきっとすごく好きだ。 けれども、それは戦士としてはどうなのだろう? 「・・・・・・もしかして殺されかかったという、それさえも気が付いていない?」 「洵?」 「いえ・・・。」 だとしたら・・・。 危険な事になりかねないよ・・・。 キミも、赤星さん達も。 学校から帰ってきた瑠衣は、皆のただならない空気を感じてボックス席でじっとうずくまっている。 そんな彼女の隣で黒羽は帽子を傾け、カウンターの赤星の方に目線を送る。 赤星が見た黄龍はというと、いつもの余裕ありげな表情ではなく、壁をみつめてぼうっとしていた。時折、自分の顔にかかる長い髪をうざそうにかき上げて、首を回す。 口元で笑みを浮かべてふんぞり返って座っている、いつものスタイルではない。 怒っている訳でもなければ笑っているわけでもない。 黄龍もまた、ただ、ただ、抜けたようにぼうっとしていた。 なんつーか・・・・・・いらいらする・・・。 自分の手をばしりとふりほどき、丸い瞳が見開かれている。目の端が少々潤んで、瞬きの数が多くなる。 カッと見開かれた恐怖の表情。 ひとは拒絶される事に弱い生き物だと、どこかで聞いたことがある。男でも女でも「NO」と突きつけられるとあまり良い気分はしないだろう。 自分の手をふりほどいた輝の拳に、黄龍は少なからずショックを受けていた。 助けたはずの仲間に、こんな顔で見られるのがこんなに堪えるものだなんて。 黄龍は輝が好きだった。何の疑いもない眼差し、純粋に戦う姿はだれだって好感が持てるだろう。だれよりもみんなの助けとなって、戦いたいという気持ちが全面に出ている。 それは、影の部分が一切ない、欲も打算も何もない、そう言えば聞こえはいいけれど。 あいつは今まで何も知らなさすぎだったんじゃねえのか・・・? 何も考えないで戦っていただけたっだのか・・・? 「あー・・・赤星さんよ。」 「なんだ・・・?」 「よくさあ、新聞とかTVに出ているじゃねえか、戦争起こしている国の写真でよ、まるっきり小さなガキが、でっけえマシンガンとか抱えてんの。」 俺様でも扱いが大変そうな、でかい口径の銃とかよ、と黄龍は少々ゆっくり目に説明し、マシンガンを抱えるマネをした。 「ああいうとこで育つガキってよ、大人から教えられたものが正しいとすぐに信じる。だから平気で残酷な行動をとれるんだとよ・・・。だから兵士の様な表情をとってマシンガンをかまえられる。・・・輝はさ。」 黄龍はようやく顔を上げて、赤星をみつめた。 「どうなんだよあれは。今まで素直な行動取りすぎだったんじゃねえか?」 「黄龍・・・?」 「ただ、赤星さんや黒羽や俺や博士の言うこと聞いてたガキと・・・変わんねーんじゃねえのか!!と思ってよっ!!」 黄龍はばん!とカウンターのボードを手のひらでぶん殴った。灰皿の中の灰が宙を舞う。 かすんだ空気の向こうは、何も見えない。 いらつく・・・すっげえいらいらする・・・。 なんだってこんなにイラつくんだ俺は・・・。 彼は拳を握りしめて立ち上がると、大きく息を吸い込んでドアを乱暴に開けて出ていった。 ロボットを壊した時の、自分の手をふりほどいた彼の目。 (どっかでみたことあるかも・・・。) 潤んだ瞳が、自分のいらだちの原因だということを彼はまだわかっていなかった。 相変わらず機械で埋まったメインルームに1人で行く事は、正直いって輝は未だに苦手だった。 自宅が木造の日本家屋で、金属で出来た長い廊下というのに慣れてないせいもある。機械が苦手な自分の意識とも関係しているんだろうけど。 「メインルーム・・・。同じような造りだからいまだに迷っちゃうなあ。」 キョロキョロと辺りを見回しながら、光の漏れている部屋を片っ端から覗いていった。 自分には理解不能の機械類でぎゅうぎゅうの部屋、コントロールパネルがいっぱいの部屋、どこも見慣れないものでいっぱいだが、時間も遅いせいかひとっこひとり見あたらない。いつもならその辺を歩いている白衣を着た人間に連れて行ってもらってしまっているのだが。 迷子になりかけになっている、と気が付いた輝は思わずめまいを起こしそうになった。 「・・・いやになるなあ、どこだっけ・・・?」 「翠川君かい?」 振り返った先には薄手のジャケットを羽織っている田島博士の姿があった。ちょうど帰宅するところだったらしい。長めのマフラーをして、黄色いレンズのサングラスをかけてにっこり笑う彼の姿はなかなかカッコよかった。いつもの白衣を着ている姿とは180度違っており、輝は思わず目をぱちくりさせてしまった。 「どうしたんだいこんな時間に?だれに用事かな?」 「あ、あの、今日リーダー達が持ってきたロボットが見たかったんですけど・・・。」 田島は「ああ、あの・・・。」と顎を少し上向きにして輝の方へ向き直った。 「有望主任のところにあるよ、案内しようか?」 「あ、ありがとうございます。」 輝はこうして田島と2人でおしゃべりするのは、あまりないことだった。いつも赤星達と一緒に行動している方が多いし、赤星と田島達が話をしているついでに自分がいる、そんな状況が多かったから。沈黙が続く事が苦手な輝はいつも以上に彼に話しかけていた。 「ねえ、田島さんもあのロボット見たの?」 「ああ、運び込まれてからすぐにね、実によくできてるよ。それが一番最初の感想かな?」 「けど・・・・・・戦うために作られるなんて・・・。どうしてそんなことするのっ?」 田島は意外そうな顔をして輝の顔をみた。彼は下を向いたままでゆっくり歩いている。 あまりゆっくりと話した事はないが、彼のおおまかな性格は田島も少しはわかっているつもりだった。 キラキラ輝く彼の瞳が、彼の性格そのまんまだ。 そうか、この子は・・・。 「その疑問、サルファに聞いてごらん。きっと的確な答えを出してくれるはずだよ。」 「サルファに?」 「そう。・・・ホラ、そこだよ。」 長い廊下を抜けて、メインルームに入ると急に天井が高くなる。その一角で有望主任とサルファは、ケースに入ったロボットの残骸を囲んでいた。 「ホントだ、有望主任だっ!ありがとうございました、田島さんっ!」 輝は田島の手をとってニッコリ笑った。彼の方も悪い気はしないらしい、くすくす笑って彼女のもとへ駆けだした輝に手を振っていた。 「あら、輝くん。」 「有望主任っ!ごめんなさい、いきなり押しかけて・・・。あの、リーダー達が運んできた、ロボット・・・いる?」 「これのこと・・・ね。」 有望は頑丈なプラスチックケースに入ったロボットの残骸を見せた。 原型はほとんどとどめていない。 かっと見開かれた目、くずれた顔、柔らかそうな毛の下から突き出たグレーの金属破片。 それを見て、輝はようやくこれがロボットだったんだと納得がついた。先ほどまではどうしても家で飼っているネコと一緒にしていたから。 「・・・うちにいるネコみたい・・・。金属がなかったらほんとにそっくりなんです。」 「輝くんの家はネコいるんだ?」 「ハイ、ミグっていうんですっ!この子みたいな中途半端な毛の長さをしたネコで、薄い茶色で、なんでもかんでもよく食べて・・・。」 輝は優しくみつめる有望の視線に急に気が付いて、すっと目をそらした。ときめきの動悸じゃなくて、後ろめたい動悸音が自分の体を圧迫する。 「輝くんは、どうして黄龍くんの腕を横殴りしたのかしら?」 「え?ど、どうして有望主任が知っているの・・・?」 「だって、色んな画像がこちらまで届くようになっているもの、ね?」 彼女はくすくす笑い、輝にコーヒーを差し出した。 輝はずずっとそれをすすり、熱かったせいでちょっとだけ顔をしかめた。 黄龍の腕。きっとそれが赤星の腕でも、黒羽の腕でも彼はふりほどいていたに違いない。 少し細めで、銃をかまえるすっとした姿に似合うその腕は、いつも自分をおちょくったり、助けたりしてくれていた。 今日の腕は、初めてみる黄龍の腕だったのだ。 今まで出てきた敵は、ここに住んでいる人間や動物たちとはかけ離れた生き物だった。 それで迷うことなく、倒せていたのかもしれない。 敵があんな小さなネコの姿になっただけで、それを壊す黄龍の手をみただけで、こんなにも動揺している自分に腹を立てていたのかもしれない。 「わかんない・・・わかんないです。けど、スパイダルは敵なんです。瑠衣ちゃんのお父さんも、お母さんもそいつらのせいで殺されて・・・。敵は敵、なんです、よね・・・。」 「輝君。」 「悪いヤツは悪い、そんなこともわかってる、オレだってオズリーブスなんだもんっ!!」 ひとしきり大声を出した後で、輝は黙ったままになっている有望に「ごめんなさい、大きな声だして・・・。」とあやまり、プラスチックケースの中にいるロボットを見た。 触れられないとわかっていても、ケースの上から柔らかな毛のネコに手を這わせる。 「けど、この子達は本当に悪いヤツじゃないでしょ?作ったヤツが悪いでしょ?・・・違う?」 「輝サン。」 有望の横で黙って話を聞いていたサルファが口(?)を開けた。 「何?サルファ・・・?」 輝はまるで自分の家にいるミグの頭を撫でるようにして、彼の頭にポンと手を置いた。 「輝サンハ、ろぼっとノ価値ハ一体何ダト思イマスカ?」 「ロボットの価値・・・って、そんなの。」 いきなり何を言っているんだろう?サルファ・・・? 機械の話をしたところで輝はわからない、というのはサルファと有望が一番よくわかっている。リーブレスの説明をするだけで、あまりの物わかりのわるさに赤星や彼女達を困らせた彼なのだ。 彼はサルファの質問の意図がよくわからなかったが、サルファの頭に置いたままの手を離し、サルファの手をぎゅっと握った。 「そんなのわかんないよ、オレ、難しい事はわかんない。けど、サルファはサルファでしょ?」 自分のレンズをのぞき込む輝に、サルファはそれをかちかちと点滅させてみる。 彼なりの、『嬉しい』をあらわす表現方法だ。 「さるふぁハ、ろぼっとノ価値ハ、ソノろぼっとノソバニイル人間ニヨルモノダト思イマス。」 「そばにいる人・・?」 「ソウデス。」 サルファはレンズをかちかちさせるのをやめて、輝が手を伸ばしていたケースに頭を一回転させてのぞき込んだ。 「コノ、ねこ型ノろぼっとハ、ソバニイタヒトガ輝サンノヨウニ優シイ人デハナカッタノデショウネ。」 「どういうことなの・・・?サルファ?」 「さるふぁハコウシテ、ココニイテ、輝サントオシャベリデキマスケド、ソレモ人工知能ノ範囲内デス。ケド、さるふぁハトッテモシアワセデス。博士ヤ主任、優シイ赤星サン、黒羽サン、黄龍サン、瑠衣サン、アナタガイテ。」 「サルファ・・・。」 サルファは壊れたネコ型ロボットを見て、また瞳をかちかちと点滅させた。 そしてまた潤んだ目になった輝に、有望からハンカチを借りて彼の目の前に差し出した。 「ダカラ、コノろぼっとハ壊シテアゲテヨカッタト思イマス。破壊活動ヲ繰リ返スダケノ機能シカナイ、ソンナノハコノろぼっとダッテ嫌ダッタハズデス・・・。」 「オレ、エイナに嫌な事しちゃった・・・?」 「どちらも正しい行動でしょ?」 2人のやりとりを聞いていた有望はニッコリ笑ってちょっと濃いめのコーヒーを口にした。 「敵を倒した黄龍君も、それを見てびっくりしちゃった輝君も、どっちも正しい。私はそう思う・・・。けどね、輝くん?」 「優しいだけじゃダメな時だってあるはずよ。」 その言葉の意味は、自分にはまだよくわからない。 どうして、優しいがダメなの? 一番普遍的な感情でしょ? それだけが、無条件にひとに受け入れられる感情じゃないのかな・・・。 違うの? 「けど、ちょっとホっとした・・・。」 「有望?」 彼女はまた濃いめのコーヒーを口にして、赤星にゆっくり微笑む。 メインルームから輝と出てきた有望は、途中で自室へと戻った輝を見送った後、喫茶の中へ入ってきた。 店の中には赤星しかいない。明かりを一段階落として、彼はゆっくりと後かたづけを終了させたところだった。 「だってね、輝くんてばあなたや黒羽くんの言うことはなんでも聞くでしょう?日常のつまんない事でも、トンファーのお稽古でも、ちょっとムリかなって思う事だって。」 彼女がそこまで口に出すと、ようやく赤星は顔をあげた。それを確認しつつ有望はまた話を続ける。 「気持ちがいい返事ができるっていうのはいいことだわ。なかなか出来ない事ですもの。あなた達を彼がいかに信用しているかっていうのもあるけどね。自分のポリシーに反する事が、戦いの場面で出てきた時・・・その時に彼は一体どうするのかな、って思っていたの。」 「あいつは・・・俺達の言うことを聞いていただけ?」 「受け身になりやすいのが、輝くんの悪いトコでもあるわね・・・。けど。」 彼女は瞳を細くして、またくすくす笑う。 「大丈夫でしょ?あなたがそんな顔しないの、みんなけっこう強くできてるモノよ。」 ラジオから流れるニュースは明日の天気を電波に流している。 明日の天気は、曇り空、ところにより一時雨・・・。 黄龍はまだ帰らない。 2002/1/20
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