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第8話 A Tender Soldier
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1人分のリーブラスターから、2人分のありったけの思いが込められて、右腕はぶっ飛んだ。正確に言えば、二度とマリオネにくっつかないよう、融合しないよう焼かれ、正真正銘跡形もない。 「はあっ・・・はあっ。」 黄龍ごしの拳銃の感触は、やっぱり少々の反動があった。けど、どうにかして押さえつけた。 力一杯、彼の手を握りしめて、・・・ちょっとは役にたったかな? 答えを求めるようにちらりと彼を見ると、含み笑いで返してくれた。 「さんきゅ、押さえてくれてよ。」 いつもよかブレないからやりやすかったぜ、と言いながらイエローはグリーンと手をばしっと合わせる。 腕を壊されたマリオネは、ガレキの上に体をまかせてゆっくり膝をついた。 多分、もう、彼に戦う手段は残ってないはずだ。 ・・・けど、それでも倒さなくちゃいけない。 雨に打たれたままにしておくわけにはいかない。 とどめを刺さなくては、また先ほどのような目にあうかもしれないのだから。 感情が全然わからないうつろな瞳で、こわれたおもちゃのように口からでるのはたったひとつの言葉。 「命令を・・・・・・めい れい を・・・」 彼が口を動かして何かをしゃべっているのはわかる。 ぶつぶつと何かを言っているのだが、それが何かは聞き取れない。 無表情のまま口だけ動くその姿は、少々の不気味さを与えて、オズリーブス達を後ろへ後退させた。 「な、なにいってんの・・・?あのロボット?」 「壊れかけだからな、回路でも一本飛んだんじゃねえのか?」 ブラック達の会話が耳を通る。 彼はいつも冷静な判断を下せる。戦いじゃないときでもそうだ。それは自分にないものだから、そこに憧れていたりもするのだけれど・・・。 ピンクは・・・瑠衣はびっくりするくらい、いつもの顔と戦う時の顔が違うと思う。 オレよりも冷静で優秀な戦士になる。彼女の戦う理由は、自分よりもはるかにしっかりしたものだから。 そんな彼らの会話が心臓を締め付ける。 なんてことない会話が残酷に聞こえてくる自分の耳がとてもイヤで、頭を振った。 さっき誓ったばかりなのにやっぱりちょっと苦しいや。 「レッド!早く倒そう!あのロボット・・・かわ・・・ううん。」 グリーンはもう一回、頭を振って言い直した。 「被害がこれ以上広がらないようにしなくちゃっ!」 「そうだな!」 リーダーの大きな手のひらが自分の頭をポンと叩いてくれた。 それだけでさっきまでの動揺が不思議なくらいゆっくりとおさまってくる。 冷たかった雨は、今は心地よい。 この大きな手を助けることができたら・・・。 そして、いつか目の前で倒れているあのロボットも助けることが出来たなら・・・。 すでに上空にはスターバズーカが待機している。 レッドが片腕を上げると、それに反応して音もなく降りてきた。 「さあっ・・・とどめだっ!!」 「地球の平和は俺達が護るっ!!」 「龍球戦隊オズリーブスっ!!」 「おい・・・壊しやがった・・・。」 スプリガンは嬉しそうに、モニターを見ながら微笑んだ。 「壊した、壊しやがったぞあいつら・・・。」 圧倒的な握力を持つマリオネ。しかし両腕を破壊されては何も出来ない。 もう、腕のかわりとなるものは何もない。彼はまた両膝をついて、次の命令を待っている。 「うーん・・・どうする・・・?足を引っこ抜いて腕に変形させようか・・・?それとも・・・。」 一応悩んでいるフリをしているスプリガンの耳に、色々な音が入ってきた。 相変わらず止まない雨の音、以前の戦いで奴らが使ったバズーカが組み立てられるような音、両腕を失って、そこから火花がばちばちと出ているマリオネの体・・・。 その中で場違いな音がひとつあった。 「・・・・・・ん?」 息せき切った荒い息づかいじゃない。 余裕のあるため息でもない。 絶望の声の代わりに出される空気じゃない。 大きく息を吸い込む音がする。 「・・・・・・・・・・・・すうっ。」 グリーンは息をめいっぱい吸って、倒れているマリオネの瞳を見た。 薄氷の瞳の向こうに誰がいるのだろう? 誰が彼を戦いの場に出したのだろう。誰が彼を制御しているのだろう・・・。 彼は瞳の向こうにいるであろう、 彼を創造した者に、 吠えた。 「聞こえているかあああーーーッ!!!」 「威勢のいいガキだな・・・。やれやれ。」 スプリガンは耳を押さえるマネをして、向こうに聞こえるはずもないのに、楽しそうにグリーンに話かけた。 モニター・・・マリオネごしに一方通行の会話が始まる。 「オレ達は、このロボット達を倒すよっ!」 「ふざけんな、まだまだ策はあるんだよ、ったく勝手に打ち止めされちゃかなわんぜ。」 「だからお前も、オレ達の前にいつか出てくるんだっ!!」 「・・・・・・ほう。」 だらしなく椅子に腰掛けて、キーボードに指を滑らせていたスプリガンは、がばりと立ち上がった。 子供のように、まるでモニターにへばりつくように見つめた。マスクの向こうに隠されているグリーンの瞳の輝きに気が付いたかのように。 「こいつ。」 「間に誰もいれずに、いつか一対一で勝負しやがれーーーっ!!!」 「面白え・・・ッ!」 スプリガンは思わず声を出した。 彼にとって、先ほどまでの戦いはテレビゲームと変わらない。 画面に、人形ごしに戦闘風景が映し出されて、その向こうにぎらぎらと燃える瞳をマスクの下にかくしているグリーンが見えるだけだ。 感覚のない戦い。 現実感のないモニターごしの戦いが、急に輝きとリアルさをましてゆく。 マリオネの喉を使って、彼にうわずった声で話しかけた。 楽しそうに、無邪気で無頓着に、ひとりの戦士として。 『今日は引いておくぜ、坊ちゃんよ。また会えるかどうか楽しみだぜ。』 「え?!」 グリーンは思わず隣にいたレッドの顔を見る。彼はこくりと一回だけうなずいた。 「・・・誰だ?」 マリオネじゃない、しゃべっているのはマリオネだけど・・・。 『じゃあな。』 「なっ!!だ、誰・・・?」 「スターバズーカ、ファイヤーーーっ!!!」 グリーンが声をあげた瞬間、立て膝をついていたマリオネの動きがすっと止まった。 糸がきれた『マリオネット』は、ニっと微笑んだ表情のままスターバズーカをもろに喰らった。 壊れた体は白煙に紛れて見ることができなかったけど、彼が『怪人』としての職務を全うしたというのは、次に耳に入った音でわかった。 からんっ・・・。 あとかたもなくなったマリオネの体の代わりに、きれいな石が転がっている。 ディメンジョンストーンだ。 「あ・・・。」 駆け寄ったグリーンがふれようとすると、初めからなかったもののように、氷が陽に溶けるように、消えてなくなってしまった。 「ふう・・・。」 「随分自信ありげに出撃させた割には、あっけなかったなア、ええ?」 「はん。」 スプリガンはにやにや笑うゴリアントを後目に、コントローラをぽい、と床に投げ捨て足でぐしゃりと壊した。 モニターには何も映っていない。 マリオネの『糸』を切ったと同時にスプリガンが全ての電源を切ったからだ。 「・・・貴様、わざと破壊させたな?」 「ほう・・・わかりますかい?」 スプリガンは、自分の怪人の最期を確認する為だけにやってきた魔神将軍シェロプに向かって、『やれやれ』と両手を軽く振った。 シェロプはブーツのかかとをかつりと鳴らして、フン、といつも通り高飛車な目線で、一段高いところからスプリガンを見た。 「くっくっく。バカな事を。最初から私にまかせておけば簡単だったものを、あのザマか?」 「じゃあ、次はアナタ様んとこの怪人を出撃させりゃあいい。」 「なんだと?」 利き手を見つめる。 あんまり握りしめていたので恐ろしい事にヒビが入っているのだ。 手に汗握るとはよく言ったものだ。 また、そんな気持ちを感じる事ができるとは思ってもみなかった。 彼はそのヒビを楽しそうに見つめた。 手から血が出るくらい拳を握りしめて最後に戦ったのは、いつだったか・・・。 たかだか操り人形で倒すには、惜しいぜあいつらは。 「そのまま、弱気なままでいてもらいたいモノだな。遠慮なく次は私の魔人を出撃させてもらおうっ!」 「ご期待してますぜ・・・。」 スプリガンは姿を隠すためのマントを羽織って、シェロプ達の側から消えた。 あとかたもない公園の中で着装を解除した4人。 なくなってしまったディメンジョンストーンを目の前に、まだグリーンのままぼうっと座り込んでいる輝の姿があった。 「おい・・・アキラ。」 黄龍は伸ばした手を一旦ぴたりと止めた。 頭の中で昨日の事を思い出したから。 また拒まれる事を腕がイヤがっている。 「・・・・・・。」 ビビリかよ、この俺様が・・・。ちょーっと違うんじゃねえの?エイナちゃんっ? 自分で自分に言い聞かせて、また彼に腕を伸ばした。 黄龍の伸ばした腕はごつい手に引っ張られて、予告もなしに細い体に抱きしめられた。 その時の感情をなんていったらいいのやら。 女の子に抱きしめられてるみたいで、いや、高性能スーツのおかげか、背骨が折れるんじゃないかってくらい力入っていたけど、不思議に笑いがこみ上げてきた。 「ごめんねっ・・・エイナごめんね・・・。」 「なーにが?100字以内でわかりやすいよーに説明してみろってんだよ・・・。」 「オレ、甘えてた・・・。」 グリーンの着装が解除される。途端にふわりとした風と共に彼の髪が踊る。いつも通りのきらきらした瞳がこちらを向く。 抱きしめられて、その瞳を見た瞬間、黄龍は思い出した。 自分が拒まれるのを嫌がるその理由を。 「甘えてた・・・。オレ、また一から頑張らないとダメだねっ・・・。」 「そんなこたねえよ、てきとーにやれや。」 彼は赤星や黒羽がするみたいに、頭を乱暴に撫でた。 拒まれる瞳・・・母さんによく似てたんだ。 帰りたいその場所に帰れない、帰りたい俺を拒む彼女の瞳に・・・・・・。 「・・・・・・ハッ。」 いやだねえっ・・・いい歳した25の男が夢にまで見るか普通? そろそろ引きずるのやめろよな・・・俺。 急に理由のわかった黄龍は心底嬉しそうに、輝の体を抱きしめた。 「え、エイナ苦しいっ!どうしたんだよっ!」 「なーんでもねえよっ!!お互い、勉強の日々じゃねえ?」 「・・・うんっ。」 長い腕に抱きすくめられながら、輝はさっきの事を思い出していた。 自分達がスターバズーカを喰らわせる時に、直前にぴたっと止まったマリオネ。 彼は戦う事を休ませてもらったのかな・・・。 それとも、勝ち目がないからって、切り捨てられただけ・・・? 輝は顔が青ざめるのがわかり、その考えをうち消した。 ううん、そんなことない・・・。きっと、休ませてもらったんだと信じたい・・・。 敵を信じるなんて、こんなことを言ったらまた甘いって言われちゃうなあ・・・。 「スプリガン・・・お前、何を考えている?」 「おや、他人の心配とは余裕だな。夢織姫よ。」 「・・・・・・BI様の為に、何も成果をあげられない事を言っている。」 「フフ。」 螺旋階段に片足を放り投げて座っているスプリガンは、全身を薄いベールで覆った彼女を下からすくうように見つめた。 彼女の目線の向こう側にはいつも「忠誠」を誓うBIの姿がある。 彼への行動が第1前提で、彼のためならなんでもしてみせる。 それは忠誠なのかそれとも別のものなのか、彼女はわかってないようだが。 彼女の戦う動機ほど簡単なものはない。 いや、自分も含めて四天王達の戦う理由など簡単なのだ。 彼女は敬愛するBIのため。 シェロプは将来の野望のため。 ゴリアントは己の戦闘能力を誇示するため。 自分は・・・・・・。 スプリガンは軽く笑い、マントを取るとばさりと階段に投げつけ、立ち上がった。 「せっかく作った怪人達は、かろうじてだがすべてぶっ倒されている。そんな奴らを甘く見る理由などオレは知らん。」 「・・・・・・スプリガン?」 「アラクネー、次にオレが作戦遂行するときは、ちょっくら顔出してくるぜ。」 アラクネーは形の良い唇をぐぐうっと上に上げた。体をちょっとしならせただけで、胸元に付いているであろう、首飾りがしゃらんと鳴る。 「・・・それまであいつらが生きているかしら・・・。」 「さーてねえ・・・。」 それまで生きていてくれないと困るぜ。 オレもお前も、遊び相手は多い方が楽しいってもんだろが。 「ハイハイハイ、熱い抱擁はその辺にしてもらおうかな、瑛ちゃんよ。」 黒羽は輝の襟元を掴んで、彼からひょいっと取り上げた。 輝の方も悪い気は全然してない。むしろ喜んで、彼にまとわりつく。 「だーれにでもなつくんだから、テルはよ。」 「うるっさいなあ、テルっていうなよ!」 「黒羽、赤星さん、今日はテルのことちょっとかりるぜ。」 「え?」 今度は輝が驚く番だ。 黄龍はニヤニヤ笑い、ジャケットのポケットの中から携帯電話をとりだした。 着信履歴に残っているのは「テル」。 「俺様といーっぱいお話したいんだって?」 「・・・・・・あ!」 輝はいつも通りにまた太陽みたいに笑った。 「デートしてやるぜ、感謝しろよ〜。紹介したいひともいるしよ。」 「ホントっ!?」 「こら、どこ連れて行くんだ?黄龍っ!」 「あらら、リーダーにはな・い・しょ!言ったら絶対許可してくんねーもん。」 「そんないかがわしいとこ連れて行く気かよっ!」 「リーダーっ!!」 輝が彼らの会話に割り込む。 「黄龍とオレのこと、信用して、ね?」 彼の顔でニッコリ言われて、誰が止められるものか。 保護者かわりの赤星は負けたようにくすくす笑って、許可を取った。 「いーかーっ!輝はノンアルコールだぞっ!!」 「オレ、けっこうザルなんだよっリーダーっ!!」 「そんじゃあね〜っ!」 多分、赤星が想像も出来ないような場所へ行くであろう2人の後ろ姿を、ため息まじりで見送る瑠衣に黒羽はちょっと笑った。 「いーなあ。瑠衣も行きたかったなあ、なんて。」 一瞬のうちに顔色が変わった保護者達のために、瑠衣は微笑んで自分のセリフをすぐに訂正してみせた。 「ねえ、あの2人だけで大騒ぎするなんてズルイと思わない?瑠衣達も、何かおいしいもの、食べに行こうよっ!」 「フッ、そうだなあ。こっちも久々にデートするか?瑠衣ちゃん?」 「うんっ!」 お姉さま達も一緒に誘ったらダメかなあ?と、ベースへと駆け出す瑠衣と、彼女に手をひっぱられて走り出す黒羽を見ながら、赤星はほっと一息吐いた。 クイズ。 優しいって、どういうことだと思う? さてねえ・・・? 定義広すぎだっつの。 一言で言い表せないよね。 ・・・オレ、言い表せるよっ! ほー・・・どんな? リーダーや、黒羽さんや、瑠衣ちゃんやエイナや・・・オレがごった煮になった感じ! ・・・・・・・・・。 くすくす笑いが、だんだんでっかい声になって森の小路を満杯にする。 赤星と黄龍は腹を抱えて遠慮なしに。黒羽は帽子を目深にかぶりなおして、セキするみたいに。 瑠衣は楽しそうに大きな声で。輝は、再び輝いた目をまた大きく開いて。 優しい戦士は、一回り大きくなって、また新たな戦場へと駆けだしていく。 そこに何かが待っているかは、誰にもわからないことだけど・・・。 それでも希望という名の輝きを手にして、また戦いはじめる。 2002/3/3
===***===(おしまい)===***===(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) <8> (戻る) |